母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) | |
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早川書房 |
ケン・リュウの日本編集短編集の第2弾を読了。
SFらしいガジェット続出のものもあれば、全然SFじゃないものもあるが、
いずれの作品も、設定を突き詰め、そこに生きる人間の心身のありようを生き生きと描き出すという、
良質なSF魂をガッツリと備えていて感動的。
一編毎に深くその世界に入り込み、うーんと唸りながら読む感じで、
ひとつ読み終えた後は余韻から抜け出すまでは次に進めないので、
読むのに時間がかかりました。
『草を結びて環を銜えん』『訴訟師と猿の王』は、清朝成立前夜の揚州大虐殺に材を取った非SF作品だが、
悲惨な運命に散りながらも矜持を失わない、強くしかし儚い市井の人々の姿をありありと描写していて心を動かされる。
辛い状況を描きつつ、中国故事らしい諧謔や幻想をしっかり織り込んであるのもこの2作の魅力で、
ルーツである中国の文化を何らかのスタイルで継承していこうと考えているのだろうと推測される。
アメリカと中国ということでは『万味調和-軍神関羽のアメリカでの物語』(これもSFではないね)で、
二つの文化の出会いをやはりそこに住む人々の心のありようにぐっと迫って描いている。
豊かな細部に満ちた力作で、異文化の衝突の一方で、
特に西部フロンティアを求めるタイプのアメリカ人と、逆境に耐える移民中国人との精神的な親和性を軸に、
共に尊重し共生する姿もあったのだということを、希望を持って伝える感動作。
非SF作品ばかり挙げたが、SFらしい他の作品でも、
儚く散る無名の人々の思いに寄せる姿勢が底流に感じられる。
この基本姿勢は賞嘆すべき点だ。
表題作『母の記憶に』や、作者が自身で重要作と挙げる『残されし者』などでは、
光速に近い移動やいわゆるシンギュラリティといった、我々がまだ手にしていないテクノロジーを得た世界で、
そこにいる人たちがどのような事態に直面し、何を思いどんな行動をするのか、
人のモラルや実存的な事柄がどう揺らぐのかを突き詰めて、優しく苦い人の性を描いている。
帯にあるとおり、卓越した作家と言わざるを得ない。
若いのに大した奴だ。
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