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袋小路CLU-DE-SAC
1966イギリス
監督:ロマン・ポランスキー
脚本:ロマン・ポランスキー、ジェラール・ブラッシュ
音楽:クシシュトフ・コメダ
出演:ドナルド・プレザンス、フランソワーズ・ドルレアック、ライオネル・スタンダー、ジャック・マッゴーラン ほか
非常に面白かった。
大変に面白かった。
ポランスキーのユーモアのセンスがここから始まっている。
ポランスキーの作品はシリアスでもどこかしらユーモラスなところがあるのが好きだが、これや『吸血鬼』での全開ぶりも素晴らしい。
登場人物の一人として着目すべきでない人はいないのだけれど、特にフランソワーズのはち切れぶりは見ていて笑顔を禁じ得ない。(禁じる必要などなにもないのだが)
暴漢リチャードとそれに牛耳られた夫婦との関係が、突然の(能天気極まりない)一群の来客を機にガラリと変わるあの吹き出すべきシーンは、テレサ(フランソワーズ)の瞬間的な機転と表情によりもたらされる。最高の見せ場。
また、監禁状態から抜け出した彼女が、酒とグラスを持って暴漢のところに行くのも可笑しい。あの気丈さと常軌を逸した人懐こさが、始終この映画を活気のあるものにしている。フランソワーズ最高である。
彼女の夫ジョージのキャラクターも実に面白い。テレサの前では策略を持った行動のふりで強がって見せるが、暴君の前ではもうヘロヘロである。実に共感すべき人物だ。彼がスキンヘッドなところも妙にツボだ。
彼があの城を買ったことについて口にはできない後悔をしつつあることが酒が入るにつれにじみ出てくるのも、この災難が起きたことや鼻持ちならない知人の来訪(あのクソガキw)などをあわせて考えるとじわじわと笑えるし。
暴君もまた教養のなさ丸出しの演技がよく、それが来客後の彼の神妙な態度を一層可笑しいものにしているし、彼が本性を隠してとりあえずつじつまを合わせてしまう不器用な判断をしてることも笑える。
彼が電話線を切ったことがまた絶妙にその後の展開に絡んでいるのもよい。
最初は機転をきかせて切ったのを誇っていたが、そのせいで予期せぬ来客を招いてしまったし、肝心のボス・カトルバックからの連絡が受けられないではないかw
というわけで、結構凄惨なラストを迎えるにもかかわらず、随所に仕掛けられている技のおかげで変にスッキリとした気持ちで観終えてしまうのでありました。
他にも、あの重症を負った暴君の相棒(『吸血鬼』の教授さんですな)が、ふと気づくと満潮で水没する城への道に取り残されて大変なことになってるだとか、その彼の埋葬の折に城の主が(故人を象徴する)メガネを踏んづけてしまって一悶着あるとか、鳥小屋を壊すとことか、あのステンドグラスを自慢していたがあんなことになってしまうとか、もう面白いったらないのよー奥様。
これと『反撥』はぜひソフト再発してもらいたし。と思ったら、出るらしい!!
(ついでに『短編集』の再発もしてもらえんかな)
***
パンフレットに書いてあることだが、当初はこの映画は「カトルバックがやって来るとき」などと題されていたということで、最後まで姿を現すことのないカトルバッックなる人物の不在と、彼がくるまで、という時間空間の限定されたなかでの一種の密室劇という状況にあることが、この映画のどんどん展開するへんてこな事態をドライブするエンジンとなっているのだ。
この設定をベケットとの類縁とみることも十分に可能ということだが、ベケットは全然押さえてないので、言及するにとどめる。
男2女1という構造も密室という状況も『水の中のナイフ』的な特徴を引き継いでいるとも言えるだろう。
処女長編の発展パロディ版とも言えるかもしれないね。
@イメージフォーラム