Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ブラック・スワン」ダーレン・アロノフスキー

2011-10-17 21:25:25 | cinema
ブラック・スワンBLACK SWAN
2010アメリカ
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:マーク・ヘイマン、アンドレス・ハインツ、ジョン・マクラフリン
出演:ナタリー・ポートマン、ミラ・クニス、ウィノナ・ライダー 他

劇場でみているのだが今頃書いてみる。
記憶が例によって薄れているので記録のみ。

パウエル+プレスバーガー『赤い靴』を思わせる・・とあちこちで書かれていたようだが、『赤い靴』との共通点はヒロインがバレエ道を歩んでいることくらいで、内容はかなり違うと思う。

『赤い靴』のほうは、芸術を極めるか世俗の幸せを選ぶかの二択でヒロインが引き裂かれて壊れちゃう話だが、『ブラック・スワン』は芸術を極める上で当事者はどう変容するかという話なのだ。

このテーマの選び方がなんとなく時代を感じさせるかも。40年代の芸術家の苦悩は夫を選ぶかバレエを選ぶかが劇的なドラマとなったのだが、2010年では芸術家はもっと内的なもの、芸術を阻むあるいは無力化する自分自身を発見し乗り越えることがドラマなのだから。

自分の発見だから、バレリーナとして行っている意識的なこと(勤勉で熱心な練習など)から始まって、それではブラックスワンは踊れないよという内部外部の声に導かれて、自分が隠し持っている恐怖心や逃避の心が表れたり、表面では良好なステージママ的な母親との確執(相互の依存と愛憎)に直面したり、性的な側面(異性との関係やら同性愛的な志向やら)に出会ってみたりと、映画は精神世界の冥界巡りの様相を呈してくる。

内なる他者との出会いをお化け屋敷的サスペンスに仕上げた本作の作りはとてもアメリカ映画的な感じはするが、基本的に精神分析以降を踏まえたモダンな欧米的な観点での芸術論として面白く観たですよ。
実際世界なりアメリカのトップレベルで通用するアーティスト(特に伝統芸術の)の場合はそういう険しい冥界巡りを味わわないわけにはいかないのだろうし、アーティストの内実をのぞき見たい我々の欲望を満たすということが大衆娯楽として成り立つのが現代なんでしょうね。

***

『赤い靴』との対比にこだわると、『赤い靴』ではハイライトのバレエ作品が劇団オリジナルのものであるところがまた大時代的だよね。ディアギレフなどの新作を楽しむ同時代的な芸術としてのバレエが生きていたということだろうね。
一方『ブラック・スワン』は古典中の古典を踊るので、作品の本質を捉える作業も歴史が積み重なっている分ハードな世界とも言え、当事者のプレッシャーも新作とはまた違った重みがある。
この違いが双方の映画としての違いに深く関わっているように思うな。

バレエのシーンはよく練習しているなと思ったがまあ素人の見方です。本職の方がみるとどうなのか。
ナタリーもミラもダンスシーンでがっかりしたりはしないのでたいしたモノですよね。
ウィノナが踊るシーンてあったっけ??

ウィノナといえば、あの捨てられる女王様がウィノナだとはエンドクレジットを見るまでわかりませんでしたー^^;
まあワタシのなかのウィノナは『ビートル・ジュース』『ナイト・オン・ザ・プラネット』『エイリアン4』(番外編『スキャナー・ダークリー』)のウィノナだからなー。

作品としての類縁性はむしろワイズマン『パリ・オペラ座のすべて』を思い出した。あちらは淡々としたドキュメンタリーなのだけど、作品に自分を追い込んで練習を重ねるソリストの姿が延々撮られていたりして内なるプレッシャーを観客に感じさせてあまりあるという点で。




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6 コメント

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古典を題材としつつ (st/ST)
2011-11-03 00:24:08
映画では、厳密に言えば『白鳥の湖』という古典を基にした新解釈版の舞台という設定なのがミソだったかと思ってたりします。
なので、ヴァンサン・カッセルがとても似合ってた振付家も、新進気鋭が中堅になりつつある辺りって感じでしたし。黒鳥の振りのクライマックス=グラン・フェッテも改変してありましたし…。
まあ、アカデミー獲ったからか、露骨な『Perfect Blue』(アニメ)からの引用を監督が否定しているのは何だかな~と思ってますが(実写化企てて版権取ったか取ろうとしたこともあるくせに)…。『エトワール』(ジェニファー・コネリー主演の方)も影響ありっぽいし。『反撥』といった作品等だと表立って影響認めたりもするってのも何とも。
Unknown (manimani)
2011-11-03 03:13:07
☆st/STさま☆
Perfect Blueって今敏監督のですか?未見なので観てみたいと思います。なんともねー。
本題は (st/ST)
2011-11-06 02:48:36
『白鳥の湖』のことだったんですが、引用話でスッカリずれちまいましたね。
まあ、「ブラック・スワン」自体はスクリーンで楽しく観たんですけども…。

「Perfect Blue」はモチロン今監督の劇場デビュー作のことです。公開時に観て気に入ってDVDも持ってたりします。
アロノフスキーは今監督に会ってるし「レクイエム・フォー・ドリーム」でもまんま場面なぞってたりするので確信犯だと思われます。今監督も「あいつパクリ…いや、オマージュ(苦笑)」と「Perfect Blue」特典映像で言及してたりします。今回、引用してないと言い張るなら好き過ぎて体に入ってしまってるとしか思えません。
観賞後相方に今監督作見せたら「これはサスガに…」ってな反応だったり。
 (とらねこ)
2011-11-06 12:48:15
こんにち☆ばねこさん。
自分が感じては居ても言語化出来てない言葉を、見事に言語化していて、惚れ惚れするやら悔しいやらですわー。

>内なる他者との出会いをお化け屋敷的サスペンスに仕上げた本作の作りはとてもアメリカ映画的な感じはするが、基本的に精神分析以降を踏まえたモダンな欧米的な観点での芸術論として面白く

この辺が特に素晴らしいですね。。
あー、こういう精神世界の葛藤が面白く感じちゃうまにたんには、山岸凉子とか読んで欲しいですわ!
山岸凉子の『アラベスク』や『黒鳥』、マジでオススメでっせ。
さっそく (manimani)
2011-11-08 02:36:46
☆st/STさま☆
つたやに『Perfect Blue』を求めて行ったのですが、ケースだけあるって状況でした。
白鳥についてはとりあえずチャイコフスキーの底なしの深さに驚いたってのがワタシの第一印象です。
新解釈というのも、その解釈にそった情念の音楽として成立してしまう。(逆かも。チャイコの音楽のなかに隠れているものを新しく引き出してくるのが演出なのか)

などと。
 (manimani)
2011-11-08 02:39:06
☆とらねこさま☆
とらねこくんにほめてもらうとまたうれしいねー

山岸凉子けっこう読んでるんですよね。
でも『黒鳥』は読んでないか。
大人買いかなー。

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