Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「高い城の男」P.K.ディック

2018-04-23 23:06:54 | book
高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
クリエーター情報なし
早川書房


自称ディックファンでありまして、
自宅本棚には「ディック棚」がありまして、
そこももはや溢れ出て増設を要しているだけでなく、
そこにある本のほとんどはちゃんと読んでもいる。

にもかかわらず、ディックの大出世作であり、ヒューゴー賞を受賞し、
一般的にも代表作のトップと評されている本作を、
これまで読んでおりませんでした。

が、最近、いくらなんでもそれではマズかろうと不意に思い、
ついに「ディック棚」から昔購入した本書を引っ張り出したのです。

「ディック棚」としていたおかげで、我が家としては異例なことに、
本書は20秒くらいで発見されました。

しばらく見ないうちにすっかり赤茶けたなーオマエ。。。
と手にとって開いてみると、文字が小さい!w

最近は文庫本も文字が大きくなったのね〜

****

ディックらしいモチーフというかテーマを真ん中に据え、
ディックにしては珍しく破綻がない(笑)のに感心しました。

世の大きな趨勢に翻弄されその内外で
懸命に生きる個人の心のひだやその揺れ動き、
変遷を、絶妙な細部とともに絶妙に掬い取るのが、
ディックの驚くべき能力のひとつだと思うんだけど、
ここでもその力は遺憾無く発揮されていて感動的。

日本の支配層の重鎮である田上の、
立場に基づく行動の裏で武士道的達観と、
ドイツの観念的な悪と、被支配層アメリカの失われつつあるヒューマニズムとの間で揺れ動き引き裂かれる様は見事であるし、
それを筆頭に、人物一人一人が、
立場や出自の上の必然や偶然を受け止めて
行動を決して行く姿がちゃんと描かれている。

歴史改変モノとしての設定の面白さというよりは、
彼らの生き方、思考によって醸し出される思想が本書のメインテーマ。

とはいえ小説なので、
思想が整理され明示されるのではないところがこれまた魅力。

フランクが自身でも確信のないままに無価値と目される現代工芸に道を見出し、
関係者も無価値と一蹴しながらも心動かさせるところや、
「高い城」に住んでいると目される小説内小説の著者が実は無防備に暮らしていること、
そもそも易という手法が人々の行動原理として定着していることなど、
整理すれば意味を見出すことが出来ようが、
ぼんやりとここには何かあると思わせる力場が小説では生まれるのである。

素敵だわ。

ドイツのあり方について、
彼らの善悪が形而上学的なものだというくだりなど、
さりげなく突然本質を掴みに行くところも大変にディック的。

「ドイツ人にとって『善』はあっても、『この善人』とか『あの善人』というものはない。
観念が具象に優先する。それがナチズムの根本的な狂気の正体だ。それが生命にとって致命的なのだ」


日本が過度に好意的に描かれてているとか、
日本のことがわかってないとかいう批判もあるようだが、表面的というか、
そういう類のリアリズムではないということだとワシは思う。



本作の「精神的な続編」と言われる「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」が近年上梓されており、
そちらも楽しく読んだが、
精神的というより現代リアリズム的続編又はサイドストーリーって感じかなと思いましたです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 猫沢エミ&スフィンクス 大江... | トップ | 「ラ・ラ・ランド」デミアン... »

コメントを投稿