Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「戦火の馬」スティーヴン・スピルバーグ

2012-03-15 01:03:38 | cinema
戦火の馬WAR HORSE
2011アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:マイケル・モーパーゴ
脚本:リー・ホール、リチャード・カーティス
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:ジェレミー・アーヴァイン、エミリー・ワトソン、デヴィッド・シューリス、ピーター・ミュラン 他


すごくよく出来た映画で
いちいち作り込みがツボにはまるようにできていて
もうまんまとドツボにはまりこんでうるうるうるうると一人映画館の暗闇で泣いてしまったのだが、
それ、その出来過ぎのなかの出来過ぎをそうと知りつつがっつりはまり込んでは心揺さぶられうるうる、
というのがワタシにおけるスピルバーグの正しい観方なので
その点でまさに正真正銘のスピルバーグ映画だったのです。

そして今回はスピルバーグ映画であるとともに
なんと動物使い映画でもあるという。
別に動物がでてくると泣くわけではなくて
動物をちゃんと役者として動かせる監督は
名監督である
という勝手な命題がワタシの中にはあって
この映画はまさに動物が動物のままに動物を演じる名監督の映画なわけです。

ということで、涙を拭かねばならないわ動物使いの手腕に感心するわで
なかなか忙しかった。
主演のジョーイ(馬)はもちろんのこと
中盤ジョーイと併走する黒馬くんや
ガチョウのなんとかくんですら
細かくワザを効かせて一瞬たりとも映画の外にはみださない。

意地の悪い(でも意外と物わかりが良い)地主さんが
家を出るときにすかさずけたたましく追い立てるガチョウ君
あのシーンに実はこの映画の密度は要約されているのではないだろうか。
(そんなことはない)

そのように、あらゆる人馬小動物が
小競り合いから大戦闘まで見事に脚本どおりに動き回る様は
画面上のつつましさの裏にあるスペクタクルを感じさせずにはいられない。
戦争の虚しさやら貧困の悲しさを表に出しつつ実はスペクタクル
スピルバーグうまいよなーあざといよなー

****

第1次世界大戦でのドイツ軍とイギリス軍の衝突が後半の舞台になるのだけれど、
そしてそれはそれは悲しい残酷な戦いで人もわんさか死んで行くのだけれど。
『プライヴェート・ライアン』であれだけ悲惨を可視化してみせて、
あるいは『シンドラーのリスト』でむき出しの殺戮を見せていたスピルバーグが
『戦火の馬』ではむしろ執拗に死の瞬間を隠していたのが気になる。

戦争の悲惨さはアルバートとジョーイの別れと
ジョーイの道程によって示されるのであり
それ以上の悲惨は焦点をぼかすものとしたのだろうか
ドイツ兵兄弟のくだりなどはたしかにあれで十分胸に迫る。
『プライヴェート・ライアン』冒頭に苦言を呈していた淀川長治さんがこれを観たらきっと気に入ってくれるのではないだろうか。

****

それにしても、荒野で針1本を探すようなおとぎ話である。
おとぎ話なのだな。
そうかおとぎ話なのだ。
悲惨を踏まえつつ
奇跡も希望もある
世界をそのようにとらえること
こういう映画も時には必要だな。



*****

エミリー・ワトソンを久しぶりにみてなぜか安心した。
いい役者さんだと思うのだがあまり作品に恵まれていないような気がする。
前に観たのはたしか『脳内ニューヨーク』
『奇跡の海』の印象が悪さしているのだろうか??(笑)

音楽はジョン・ウィリアムズだが、イギリス舞台なためか
音楽はエルガーみたいだった。
職人芸だよねー。



それと、同時期に観た馬映画『ニーチェの馬』との驚くべき違いときたらw
どちらもそれぞれに説得力があるけれども
ひどい世の中だけれどあくまでも馬に希望を託して見せるスピルバーグの若さと
ひどい世の中がしかも終わりつつあることに冷徹な未来を見る(いや見ることも禁じる)タル・ベーラの絶望と
どちらかを取れと言われたら???
どうしよう??


@丸の内ピカデリー
コメント (2)
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