イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

限りなく末席に近いブルー

2007年12月11日 23時34分52秒 | ちょっとオモロイ
昨夜は『2007年 ノンフィクション出版翻訳忘年会』に参加させていただいた。翻訳出版に携わる、出版社、エージェント、翻訳者が一堂に会するという会で、毎年、百名を越える規模の参加者でにぎわうのだという。同志である花塚恵氏からの紹介でこの会のことを知ったわたしは、矢も盾もたまらず参加を申し込ませていただき、この日を一日千秋の思いで待ちわびていたのである。翻訳者の参加資格は、訳書があることなので、わたしもかろうじてその条件は満たしているものの、ピンキリでいえばどこまでもキリに近い身であり、限りなく末席に近い参加者としての憂鬱を感じつつも、そしてそれは十分に承知していたのではあるけれど、会場の飯田橋の出版会館について、パンフレットをもらって参加者の方々のお名前を拝見したとたん、予想はしていたとはいえ、「錚々たる」としかいいようのない顔ぶれがその場にいらっしゃることを知り、場違いなところに来てしまったと、己の身の程の知らなさにあわてふためいて冷や汗が滝のように流れてきた。夏目大さん、保科京子さん、花塚恵さんという夏目組のいつもの面々の姿を発見して、安心して少し息を吹き返すのだが、開会の挨拶、乾杯が始まるころには、これから二時間半、誰と何を話せばよいのか、と緊張と不安が入り混じり意識が朦朧としてきたのではあるが、ここは意を決して当たって砕けねばならないということで、まずは夏目さんと二人で軽くバイキングの料理をつまんでから、御大の山岡洋一さんに挨拶をするところから始めてみた。心境的には、敵陣を突っ切っていきなり大将の首を狙ったという想いであった(普通に挨拶しただけですが)。

山岡さんに誠実にお相手していただき恐縮の至りである。そして、その後はとにかくたくさんの方とお話しなければ、というのでちょっとKYな自分を感じつつもいろいろな人に声をかけてみる。みなさん魅力的な方ばかりで、名刺を交換し、自己紹介をしているあいだにあっという間に時は過ぎ、気がついたら40枚もの名刺を手にしていた。翻訳者の方に話しかけると、「わたし、翻訳者ですけど」と断りを入れてくださる方が多かった。やはり、翻訳者たるもの、編集者の方と話をしなければ駄目よ、という常識があることを強く実感する。でもわたしは同じ翻訳者のはしくれとして、やはり翻訳者の方ともいろいろとお話をしたい。だからつい声をかけてしまうのであった。だって、考えてみて欲しい。街を歩いていて、たまたま声をかけた相手が翻訳者だった、なんて可能性はゼロに等しい(声なんかかけたことありませんが)。あるいは隣の家の人が翻訳出版の編集者だっていうことも、奇跡に近い。普段、なかなか同業者と出会うことはできないのである。それが、この会場では、石を投げれば出版翻訳関係者に当たる(というか全員がそう)、というとうてい日常生活では考えられない異常な空間が現前しているのである。緊張しているとは書いたが、それでもこんな夢みたいな空間はない。全員に話をすることは無理だけれども、一人でも多く、という気持ちで話を続けた。コンピュータでいえば、バッチ処理、つまり一気に挨拶をする、ということで、The Batch Guy、つまり「バチガイ」な男としての行動を開始したのである。

ともかく、自分などは足元にもおよばないキャリアの方にも向こう見ずに話しかけてしまったのであるが、皆さん本当に腰が低く、無知なわたしに話を合わせていただいてくれて、申し訳ないやら情けないやらで、ぜったいにもっといろいろと勉強して、先輩方の訳書もたくさん読んで、その感想を、来年は(もし参加が許されたら)ここで話したい、と強く感じた次第。それから、ノンフィクションの忘年会、ということだったのだけれども、意外とフィクションをやっておられる方も多くて驚く。フィクション修行をしている身としては、こうして実際にどちらもこなされている方とお話できて、とても勉強になったし、目標を再確認することができた。それから、一応わたしのこれまでの訳書は、IT系だったので、IT系の人ですか~、などといわれたのであるが、まあそれは一応事実なのですが、専門があるといいですね~、と結構な数の方にいわれた。わたしはITに限らずなんでもやってみたいのではあるが、やはり専門を持つというのは翻訳業界のセオリーでもあるから、自分の売り、というかやりたいことをもっと明確にせねば、と思った。でも、実は専門は「活字」であり雑多な本の虫であることが一番居心地がよく、そしてご謙遜されて「私には専門がなくて」とおっしゃるかたほど、実は多様性を持っていらっしゃるのでは、と思うし、自分もそうありたいと思ったりする。それから、ちなみに、名刺にこのブログのタイトルとURLを載せてみたのであるが、ふざけたタイトルだけにやはり失笑を買ってしまった。いただいた名刺で、ご自身のブログやウェブサイトのことを宣伝していらっしゃるかたはほとんどおらず、そいうものかと思う。でも、まあ、いいだろう。

そんなこんなで夢のような時間は過ぎ去り、閉会。さらに、スタッフとして会の開催に尽力された皆様を中心とする二次会にまでずうずうしくも参加させていただくことに。目の前には山岡さんと井口耕二さんという両巨匠が。すごいツーショットであり、テーブルの向こうがはるかエベレストのように感じられ、それにひきかえわたしはなんだろう、公園の砂山のようでありなんともいたたまれないのであるが、せっかくの機会なのでありがたくお話を聞かせていただくことにする。井口さんの学生時代のスケートの話に引き込まれ、ひとつことに徹底的に強烈に打ち込んだ人だからこそ、舞台を変えて翻訳の世界でもこうして大活躍されているのだ、と思ったり、山岡さんの「人がわからないことを訳せと頼まれることが翻訳者としての歓び」というお話を、まるで講演会にきたような気持ちで聞き入る。

ともかく、本当に有意義な一日を過ごさせていただいたことに感謝。スタッフの皆様に、心からお礼を申し上げたい。ありがとうございました。この出会いを大切にして、来年一年、また新たな気持ちでがんばりたいと強く心に誓ったのであった。

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吉祥寺のロフトで、「ほぼ日手帳」を購入。来年はこの手帳に情報を一元化しよう!

『斜陽』太宰治
『中年族の反乱』田原総一朗
『武士の紋章』池波正太郎
『東京の血はどおーんと騒ぐ』栗本慎一郎
『ルパン傑作集 813』モーリス・ルブラン著/堀口大學訳
『我輩は施主である』赤瀬川源平
吉祥寺のよみた屋で6冊。