イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

What’s KONARETA YAKU?

2007年12月03日 23時32分11秒 | ちょっとオモロイ
問1. 次の○の部分を、適当な語で埋めよ(5点)

「○○○た訳」(3文字)

という問題を出されたら、なんと答えますか?

「ふざけた訳」、「たいした訳」、「いかした訳」、「たまげた訳」、「やました訳」(山下さんが訳した)、などなど、挙げだしたらきりがないのですが、おそらく、クイズ100人に聞きました方式でアンケートをとった場合、かなり上位に食い込むであろうのが、「こなれた訳」ではないかと思います。

それくらい、「こなれた訳」というのは翻訳を評価するときによく使われる言葉だと思います。もちろん、これはほめ言葉です。「こなれた訳」というのは、ありていに言えば、「上手い訳」、「素人くさくない訳」、と同義だと考えてよいでしょう。いわゆる意訳をして、それなりの日本語で訳文が作られていると、「この訳、こなれてるね~」という科白が、つい口をついて出てきます。依頼元から、「ヘンにこなれた訳にしなくてよいので、原文に忠実な訳にしてください」などというリクエストをされることもあります。言わんとするところはよくわかりますが、なんとも抽象的な表現ではあります。

でも、ちょっと待ってください。そもそも、「こなれた」ってなんなのでしょうか? みんな、同じものを指して「こなれる」って言っているのでしょうか? 良く考えてみたら、だれも「こなれる」を目で見た人はいないはずです。なのに、なぜか誰しもがなんとなく「こなれる」を使っているのです。

小慣れること? でも、この接頭の「小」は何? なぜ、「慣れた訳」ではなく、「こ」慣れなくてはならないのでしょうか。小ざかしいというか、小馬鹿にしているというか、なんだか、「小洒落た訳」といわれているみたいな気もして、おふざけ半分な背筋の伸びきらなさを感じるのはわたしだけでしょうか? そもそも、なぜ「こなれた訳」があるのに、「ちゅうなれた訳」とか、「おおなれした訳」とうものがないのでしょう? 

それとも、「こなれた」というのは、よく「こねられた」訳、という意味なのでしょうか? それとも、「粉になった」つまり粉になるまで細かく打ち砕いたという意味なのでしょうか?(ちょっと苦しい) はたまた、誰かが、「この訳、世慣れてるな」といったのを、他の誰かが聞き間違えたのでしょうか? あるいは、誰かが「この訳、手だれてるな」といったのを、他の誰かが空耳ったのでしょうか。ひょっとしたら、言語学者のコーナー・レッター博士(Corner Retter)が、よい訳の定義をしたところから、それがいつのまにか「コナレタ訳」といわれるようになったのかもしれません。

というわけで、気になっていろいろと調べてみたことがあるのですが、実は「こなれた」の正体は、「熟れた」が正解のようです。つまり、熟(じゅく)している訳。「熟れた」と書いて、「こなれた」と読むのです(「うれた」とも読みますが、「うれた訳」とは言いませんよね。熟れたの後には、どちらかというと色っぽい名詞が続きますよね。言語学の研究のためにあえて例を挙げますが、たとえば「熟れた人妻」とか「熟れた女教師」とか。でも「こなれた女教師」とはいいませんね。まあ、それはそれでなんともいろんなことを想像してしまいますね)。

ともかく、「こなれた訳」の正体は「熟れた訳」であり、意味としては、わたしの思うところ、熟成された訳、手練手管な訳、達意の訳、というあたりではないでしょうか。おそらくは、けっこう「小慣れた訳」と勘違いされていることが多いと思うので、いろいろと誤解を招くことがある言葉ではありますが、というわけで「こなれた」は、決して、「小慣れた訳」でも「粉れた訳」でも「世慣れた訳」でも「子洒落た訳」でも「こねられた訳」でも「コーナー・レッター博士が定義した訳」でも、「熟れた女教師の訳」でもありませんので、翻訳に携わる皆様方には、くれぐれもお間違えのないよう!

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荻窪店で10冊。
『Ricochet』Sandra Brown
『The Summons』John Grisham
『Playing House』Patricia Pearson
『Ashes to Ashes』Tami Hoag
『昭和原人』諸井薫
『東京育ち』諸井薫
『男女の機微』諸井薫
『父よ!』諸井薫
『R25的ブックナビ』R25編集部
『診療所にきた赤ずきん』大平健

今朝、いつも通りがかる、猫がたくさんたむろする公園で、一匹の白猫が冷たくなって横たわっていた。天国にいった小さな命に合掌。やすらかに眠れ、猫よ。