一韶の俳句ブログ

俳句を詠うのは自然・私・家族・夢や希望・社会など。読む時はどんな解釈が浮かぶか読み手の経験や生活によって様々

1071  鰯焼く住所不定の猫の来て  章子

2013年10月31日 | 

 私の知人は、猫を未だかつて家の外に出したことがない、という。マンションで秘密裏に飼っている友人の猫も同じだ。

 しかし私の知る限り、昔の猫は自由気ままで、他人の家庭に入り込んで餌をもらったりするから、誰が本当の飼主か分からない、なんていうのがごく普通だった。

 だからこの句のように、どこの猫か誰が飼っているのか分からない猫が、鰯を焼く匂いを嗅ぎつけてやって来る。

 きっと作者は、飼ってはいないが元来の猫好きで、庭をうろつく猫がいれば日頃から餌を与えているに違いない。寒くなって猫が炬燵にでも入りこんだりすれば、「今日はもう遅いから内にお泊り」なんて言って、泊めてしまうことだってあるに違いない。しかしこの猫には、ちゃんと首輪が付いていて、誰かに飼われていることは間違いないのにね。

 自由気ままにさせていた飼主は、「ミーちゃん、今日も帰って来ない」と心配するが、可愛い猫だと二度と帰って来ない、なんてこともきっとあるに違いない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1070  第206回  岩戸句会 10月

2013年10月30日 | 岩戸句会

老犬の目穏やか柿をむく    洋子 

夜長し羊が先に寝てしまう

                    

秋麗喪服きりりと若き嫁     豊春 

山育ち鰯の頭喰えと言う

 

早生蜜柑香りの飛沫顔に浴ぶ   薪

人形にビロードの服秋深む

 

ワイン抜く月おぼろなり指おぼろ 章子

鰯焼く住所不定の猫の来て

 

大樟の落ち着き払う秋祭     歩智

源氏名は櫻と申し柿落葉

 

約束が枯葉のごとく散りゆけり  遊石

鰯干す網代の女の白き指

 

落葉掃く明日は今日の倍返し   炎火

鰯雲午後から曇後小雨

  

息切れの螺旋階段柿日和     正太

義歯なれど蜜のしたたる熟柿かな

 

ひこ鰯指で捌いて酢醤油に    空白

秋となり栗も御芋も本もよし

 

風生るる風に任せて秋の蝶    稱子

葬式のはなし諤諤温め酒

 

団栗を拾う少年時代を拾う    雲水

死んだなら忘れておくれ女郎花

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1069  秋うらら喪服きりりと若き嫁  豊春

2013年10月29日 | 

 結婚式に参加している若い女性も華やかで美しいが、喪服の女性の方が更に美しいと思う。それは、アクセサリーが控え目、化粧も控え目で素顔に近く、悲しみや憂いをたたえているからではないだろうか。

 それにしても、日常的にほとんど着なくなった高価な女性の「和服」。文明開化と共に失われた多くの「和」の文化。勿論、完全に失われたわけでもなく、かすかに残ってはいるが・・・・着物で言えば、呉服店が消え、貸衣装店が大流行りの昨今ではある。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1068  夜長し羊が先に寝てしまう   洋子

2013年10月28日 | 

  「羊が一匹・羊が二匹・羊が三匹・・・・・・・・」と数えていたら、本人より先に、羊が眠ってしまったとさ・・・・・一体どういうこと。

①   「羊が先に寝た」ということは、作者が数えなくなったと考えられるから、実際は「作者が先に眠った」。

②   羊が先に寝たということは、数えることが馬鹿らしくなるほど、作者の目が冴えてきて、ますます「作者は眠れなくなった。」

むむむ、この謎解きは実に難しい・・・・・私も眠れなくなりそう・・・

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1067   白鳥来とうに切れたるパスポート  友枝

2013年10月27日 | 

(はくちょうく とうにきれたる パスポート)

  人間は、国を作り国境を作った。それは平和のためと言えなくはないが、やはり国境は争いの火種である。

  同じ民族が小さな島の領有で争うなんて、実に馬鹿げている。賢い人間同士なら数分で解決できる問題が、国家や政治となると解決どころか戦争にまで発展しかねない。

 さて、パスポートの有効期限の切れた作者は、今外国に行けない。そこでハクチョウはきっと言うだろう。「パスポートなんて物を作って、人間って本当にお馬鹿さんね。」

 ところで、今年の瓢湖の白鳥飛来は、10月6日だったそうです。11月中頃には、4000羽ほどになるそうです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1066  新米に卵味噌汁に葱豆腐   あや子

2013年10月26日 | 

 自由主義からいえば、国家管理によるコメの減反政策や、自由化が良かったかどうか。今回のTPPも、政治家は一体どう考えてどうするつもりなのだろう。

 いづれにしても日本は、工業化を推し進めて農業をなおざりにして経済大国になったわけだが、今後世界的な「食糧危機」がやって来た時、食糧を輸入に依存している付けが必ずやってくるに違いない。

 日本の農業を守ることが、将来の日本を、子供たちの未来を守る一番重要なことではないのか。そういう点から見ると、工業製品以上に農産物の生産と加工品輸出に力を入れるべきではないのか。

 少なくともこの句のように、御飯と生卵、味噌汁の具に豆腐とネギ、こういう単純な食事がこれからも国産品で食べられるように祈る。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1065  逢わざれば良かりし秋を惜しみけり

2013年10月25日 | 

  大分昔のことだが、一度会っただけの女子大生から手紙を貰ったことがある。当時彼女は、オーストラリアの大学に通っていた。手紙の要点は、「真理とは何ですか」であった。そこで、分からないと書けばいいものを、以下のような内容の手紙を書いた。

 「真理とは事実である。宇宙が存在して以来起こった歴史全てである。人々は、その中から、ある法則や共通項を探し出し、真理と呼ぶかもしれない。例えば、「万有引力の法則」は、真理であるかもしれないが真理のほんの一部に過ぎない。真理は宇宙と同様無限であり、私たちが知っている真理などないに等しい。つまり、私たちは真理を全く知らない、と言っても良いのではないかと思う。」

 その後、たぶん20年以上経つが未だに返事はない。彼女は現在どうしているのだろうか。真理同様、私には判らない。しかしこれは、真理の一部ではある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1064  引き古りし辞書を繕ふ暮の秋   明美

2013年10月24日 | 

(ひきふりし じしょをつくろう くれのあき)

 秋を分けると「初秋・仲秋・晩秋」。その「晩秋」に当たるのが「暮の秋」。これをひっくり返した「秋の暮」は、「秋の夕暮」のことだからややこしい。又、「暮の春」「暮の冬」は歳時記にあるが、「暮の夏」はないも同然、ほとんど使われていない。不思議である。

 さて私にも、中学時代から使っている国語辞典があるにはあるが、最近はすっかり御無沙汰である。それに取って替わったのがパソコン。インターネットで検索すれば、辞書の何倍もの関連事項が出て来るのだ。これを使わない手はない。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1063  遺伝子を初期化して欲し運動会   紅生

2013年10月22日 | 

  初期化(フォーマット)とは、記憶媒体を使い始めの状態に戻すこと。分かりやすく言えば、大学ノートに書かれた文字を全て消してしまうこと。

 ところでこの句、運動神経の鈍いヒトの「遺伝子を初期化」したら、一体どうなるのだろうか。作者は、初期化によって運動神経が良くなることを期待しているのだろうか

 それ以前の問題として、遺伝子は初期化できないかもしれない。大学ノートに当たるものが細胞やDNAや染色体であり、文字に当たるものが遺伝子ではないかと思う。とすると、遺伝子は初期化できないかもしれない。万一できたとしても、それは死を意味するだろう。

チャノキ(茶の木) ツバキ科ツバキ属の常緑樹

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1062  コスモスやこの頃一円落ちてゐず  英雄

2013年10月21日 | 

 昔の大概の個人商店では、10円未満は切り捨てて負けてくれた。ところが、世に一円も負けてくれないスーパーができてから、確かに1円の価値は上がったかもしれない。

 ところで、最近の私の買い物は、ほとんどカード払いである。ガソリンスタンドでカードを勧められて作ったからだが、使ってみると実に便利。つまり、小銭どころかお金そのものがいらないのだ。ということは、1円の価値は上がったのだろうか、それとも下がったのだろうか。

 そういえば、先日のテニスコートで仲間が10円玉を拾った。ご縁が倍あると喜んでいたっけ。

 

ドウダンツツジ(灯台躑躅、満天星)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1061  笛に乗る赤子の手足秋祭  鞠

2013年10月20日 | 

 単に「祭」は、夏の季語であるから、夏以外は「春祭」「秋祭」と使わねばならない。祭は、神を「祀る」からきていて、春は豊作を祈り、秋は豊作を神に感謝することであり、又先祖や死者の霊を慰めることでもある。しかし、最近の祭と言えば、娯楽性の強い賑やかなどんちゃん騒ぎだけを「祭」と言っていることが多いような気がする。

 さてこの句、祭のお囃子の笛に合わせて、赤ちゃんが手足を振っている。それを「乗る」としたところが味噌。

ダイモンジソウ(大文字草)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1060  茸飯炊きても独りもう炊かぬ   喜久

2013年10月19日 | 

(きのこめし たきてもひとり もうたかぬ)

 熱海には、老人専用マンションがいくつもある。入居条件が55才以上だから、入居していた両親が亡くなると子供たちが相続することになる。ところが子供たちにとっては、入居するには若すぎて、管理費だけは払わねばならない、という問題が起こる。

 年間100万円近い管理費を削るために売却したいのだが、そんなに思うようには売れない。従ってダンピング、いわゆる投げ売りすることになる。極端な話、タダでも良いから引き取って欲しい、ということが起こるのだ。

 ところで、茸は秋の季語だが、今では椎茸・湿地(シメジ)・舞茸(マイタケ)・滑子(ナメコ)・榎茸(エノキダケ)・エリンギなどが豊富に1年中スーパーに出回っていて季節感が薄い。

 さてこの句の作者、折角の茸飯をもう炊かないと言っているが、勿体なくはありませんか。一人でも炊いたらいいじゃありませんか。

 一度に沢山炊いて、小分けして急速冷凍し、必要な時に電子レンジで温めて食べれば、炊きたてとほとんど変わらず美味しくいただけますよ。

ツワブキ(石蕗、艶蕗 ) キク科ツワブキ属の多年草

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1059  露草や墓に彫りたる慈の一字  野里女

2013年10月18日 | 

 日本では墓碑銘に、「○○家」と彫るのが一般的。その他「○○家先祖代々」があり、「南無阿弥陀仏」・「南無妙法蓮華経」など宗派の念仏や題目を掘ることもある。最近は、宗派にとらわれない「慈」・「愛」・「大地に帰る」など様々な墓碑銘を見ることができる。

 ところで、私の墓碑銘を深慮してみた。

 

下手糞な焼き物を焼き

面白くない俳句をやたらと作り

ミスばかりのテニスをいつも面白がっていた男

ここに眠らず

赤潮や彼の骨壷今は蛸壺

マユハケオモト

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1058  26号去りし大島に手を合わす

2013年10月17日 | 

 今回の26号と同様に、10年ほど前に伊豆半島沖を台風が通過した。その時は、私のプレハブの作業場の屋根のトタンがめくれてしまったし、友人の家の屋根なんかは、飛んでしまった。風がもろに当たる山の上だから、私は恐ろしくて近くの保養所へ避難したくらいだった。台風が去ってから、近くの山へ散歩に出ると、何本もの山桜が根こそぎ倒れていた。

今回の26号は、その10年前の台風とコースがほとんど同じなのだ。兎に角深夜で外は何も見えないし、風の音と建物の振動する音しか解らない。寝ようと思ったって恐怖で眠られず、30分置きにニュースを見るしか能はない。ニュースなんか見たってどうにもならないのに。

 いづれにしても、26号があと50キロ内陸寄りを通過していたら、伊豆大島の被害は私達だったかもしれなかったのだ。毎日眺めている大島。無くなった方々にお見舞いを申し上げる。さて次の27号が発生し、同じコースを通るかもしれない。

コスモス(秋桜)  キク科コスモス

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1057  俵編む木槌置きたる骨董屋  若磯

2013年10月15日 | 

(たわらあむ きづちおきたる こっとうや) 

新聞を読まない私に、友人が10月13日の日経新聞俳壇の記事を持って来た。この句は、黒田杏子選の中の一句。

  現代の稲刈りはすごい。最新式のコンバインは、刈り取り、脱穀、藁を裁断して田んぼに撒くところまでやってしまう。例えば、1反を手作業でやると、4,5人で1日掛かっていたのが、たった一人1台で1時間程で終ってしまうのだ。稲架に掛けて干す必要も、脱穀する必要もない。それに、籾(もみ)は丈夫な麻袋に入れるから、藁で編んだ俵に入れたりはしない。

 さて、俵を編むためには、藁を濡らしてから均等に木槌で叩き、柔らかくする必要がある。作者は、その使われなくなった木槌が骨董品として並んでいるのを発見したのだ。おかしな話ではあるが、とにかく作者はそれが俵用の木槌であることを知っている日本でも数少ない一人に違いない。

ザクロ(石榴)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする