老犬の目穏やか柿をむく 洋子
夜長し羊が先に寝てしまう
秋麗喪服きりりと若き嫁 豊春
山育ち鰯の頭喰えと言う
早生蜜柑香りの飛沫顔に浴ぶ 薪
人形にビロードの服秋深む
ワイン抜く月おぼろなり指おぼろ 章子
鰯焼く住所不定の猫の来て
大樟の落ち着き払う秋祭 歩智
源氏名は櫻と申し柿落葉
約束が枯葉のごとく散りゆけり 遊石
鰯干す網代の女の白き指
落葉掃く明日は今日の倍返し 炎火
鰯雲午後から曇後小雨
息切れの螺旋階段柿日和 正太
義歯なれど蜜のしたたる熟柿かな
ひこ鰯指で捌いて酢醤油に 空白
秋となり栗も御芋も本もよし
風生るる風に任せて秋の蝶 稱子
葬式のはなし諤諤温め酒
団栗を拾う少年時代を拾う 雲水
死んだなら忘れておくれ女郎花