漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「禺グ」<蛇形のものが相交わる>と「愚グ」「偶グウ」「遇グウ」「隅グウ」

2022年08月10日 | 漢字の音符
 後漢の[説文解字]は、禺を「上は鬼の字の上部と似ており、下は禸ジュウ(けものの足跡)から成り、鬼のような頭をもつケモノ⇒頭の大きなサル」と解釈した。したがって多くの字典は、この字の意味を、「獣の名。おながざる」としている。サルで解釈すると愚グ(おろか)の意がすぐ導かれるので、私もこれまでサル説で解字していたが、それ以外の文字の解字は、かなり無理をしており分かりにくいところがあった。そこで、これまで意味不明だった金文の字形を解字して考察してみたい。
 藕グウを追加しました。


 グ・グウ  禸部ぐうのあし 

<参考図(下)>  ウ

解字 金文の禺は禹と似ている。禹の金文第一字は、二匹の虫をタテとヨコに組み合わせた形。オスとメスなので頭のかたちが異なっている。金文第二字でタテの虫が頭の大きい蛇のような形になり、ヨコの虫が手(又)のような形に変化し、篆文で少し変形してから禹になった。虫は蛇とされるが竜とする説もある。もと水神としてまつられ、転じて、中国古代の聖王の名となった。
 一方、禺は、金文では頭が田になっているが、あとは禹の金文第二字と似ている。この両字の相似を指摘したのは白川静氏で「禺は禹と字形が近く、蛇形のものが相交わる形であったと考えられ、おそらく竜頭の神であろう」(字通)としている。私も伝説または神話上の二匹の蛇形の動物が相交わる形だと思う。なぜなら、こう考えることにより、禺の音符を解くイメージが出てくるからである。まず、禺は相交わる形なので「対になる」、蛇形の動物なので、丘や山の「くぼんだところ」に棲むイメージがでてくる。なお、後漢の[説文解字]が解釈した「頭の大きなサル」は、その後作られた新しい漢字のイメージに用いられる。
意味 (1)おながざる。頭の大きなさる。(2)すみ。(=隅)
イメージ 禺は「蛇型のものが相交わる」形で、相交わるので「対になる」、蛇形のものが棲むのは丘や山の「くぼんだところ」、後の解釈である「頭の大きなサル」
  「蛇型のものが相交わる」 (禺)
  相交わるので 「対になる」 (偶・遇・耦・藕・寓)
  蛇形のものが棲むのは丘や山の 「くぼんだところ」 (隅・嵎)
  後の解釈である 「頭の大きなサル」 (愚)
音の変化  グ:禺・愚  グウ:偶・遇・耦・藕・寓・隅・嵎

対になる
 グウ・たまさか  イ部
解字 「イ(ひと)+禺(対になる)」の会意形声。対になる人の意で、ともがら・つれあい、人と対になる「人と同じような形の人形」、二で割り切れる数の意味になる。また、遇グウ(たまたま会う)に通じ、たまたまの意もある。
意味 (1)ともがら。つれあい。「配偶ハイグウ」(2)人の形に似た人形。「土偶ドグウ」「偶人グウジン」「偶像グウゾウ」(①信仰の対象の像。②崇拝・盲信の対象とされるもの)(3)二で割り切れる数。「偶数グウスウ」(4)たまさか(偶)。たまたま。まれに。「偶然グウゼン」「偶発グウハツ
 グウ・あう  之部
解字 「之(ゆく)+禺(=偶。ともがら・つれあい)」の会意形声。道でともがらと出会うこと。思いがけず会うことから、たまたまの意もある。また、出会った人をもてなすこと。
意味 (1)あう(遇う)。思いがけず会う。「遭遇ソウグウ」(遭も遇も、であう意)「奇遇キグウ」(奇跡的にあう)「千載一遇センザイイチグウ」(千年に一度しかあえないチャンス) (2)(思いがけず会うことから)たまたま。この意味は偶が受け持っている。 (3)もてなす。あつかう。「待遇タイグウ
 グウ・たぐい  耒部
解字 「耒(スキ)+禺(=偶。ともがら・つれあう)」の会意形声。土地を耕すとき、二人ならんでスキを使って耕すこと。
意味 (1)ならびたがやす。二人で並んでスキをたがやす。「耦耕グウコウ」(並んで耕す)(2)たぐい(耦)。ともがら。あいて。「耦立グウリツ」(二人が並んで立つ)「耦居グウキョ」(二人暮らし)
 グウ・はすのね  艸部
解字 「艸(植物)+耦(=耦耕。ならびたがやす)」の会意形声。艸はここで蓮(ハス)の意。ハスの根である蓮根は水を張った水田で育てる。収穫するには現在、水圧ポンプの水流で取り出す方法が一般的だが、以前は水を落としてからスキなどで掘り起こして収穫した。ハスの根になぜ「耦」を用いるのか定かでないが、蓮根は横に連続してつながっており、それを途中で折らないよう収穫するために耦耕(ならび起こす)して、ていねいに掘り起こしたものと思われる。
横に広がって伸びるハスの根(http://www.whzyblh.com/news/60)
意味 (1)はすのね(藕)「荷(はす)は芙蕖フキョ(はすの別称)なり、(略)その実は蓮(はちす)なり、その根は藕グウなり」(爾雅・釈草) 
藕糸(日本蓮学会)
(2)はす(藕)「藕糸グウシ」(①ハスの葉柄や地下茎を折ったときに出る細い糸。②細いつながり)「藕断糸連グウダンシレン」 (ハスを分断してもハスの糸はつながっている。関係が完全には切れていないことの例え)「藕花グウカ」(ハスの花) (3)姓のひとつ。
 グウ・グ  宀部
解字 「宀(いえ)+禺(=偶の意味④たまたま)」の会意形声。たまたま住むことになった家。また、自分の家でなく、よその家のこととして示すこと。
意味 (1)仮住まいする。身をよせる。「寓居グウキョ」「寄寓キグウ」(他人の家に身を寄せること)(2)ことよせる。かこつける。「寓意グウイ」(他の物事にかこつけて、本当の意味をそっと示すこと)「寓話グウワ」(動植物を擬人化したたとえ話)

くぼんだところ
 グウ・すみ  阝部       
解字 「阝(おか)+禺(くぼんだところ)」の会意形声。丘のくぼんで奥まったところをいう。転じて、曲がったかどや方形の四すみの意。また、かどは中央のはずれにあるので、かたすみの意ともなる。
意味 (1)すみ(隅)。かたすみ。中央でないところ。「片隅かたすみ」「辺隅ヘングウ」(都から遠い土地。かたいなか)「一遇イチグウ」(一方のすみ。かたすみ)(2)方形の四すみ。かど。「四隅よすみ」「重箱の隅すみ」「隅奧グウオウ」(へやのすみ)
 グウ  山部
解字 「山(やま)+禺(くぼんだところ)」の会意形声。山のくぼんだところ。山のおくまったところをいう。
意味 山のくま。山の奥まったところ。「嵎角グウカク」(山のくま)「嵎嵎グウグウ」(曲折する)

頭の大きなサル
 グ・おろか  心部
解字 後漢の[説文解字]は、禺を「頭は鬼の字の上部で、下は禸ジュウ(けものの足跡)から成り「頭の大きなサル」と解釈した。この解字は本来の意味である「蛇形の動物が相交わる意」が忘れられて、その後に成立したものと思われる。愚の字は、禺の解釈が「頭の大きなサル」になって以後に成立したと字と思われる。解字は、「心(こころ)+禺(頭の大きなサル)」 の会意形声。人までは行かないサルの心。
意味 (1)おろか(愚か)。おろか者。「愚民グミン」「愚劣グレツ」「愚者グシャ」(2)自分や身うちを謙遜していう言葉。「愚見グケン」「愚妻グサイ」「愚考グゴウ
<紫色は常用漢字>

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