漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

同訓異字「おさめる」 修める・治める・収める・納める

2020年08月23日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)国をめる
(2)学問をめる
(3)税金をめる
(4)成功をめる

「おさめる」の語源は「オサ(長)」で、多数の人の上に立ち、人々を統率し支配する者とする説が有力です。「オサ-む」は動詞化した言い方。「オサ-まる」「オサ-まり」「オサ-める」などは、「オサ-む」の活用変化です。

「おさ-める」は、「オサ(長)」が行う活動を表し、①人々の長となって世の中や物事を安定した整った状態にする意味がある。そして、整った状態にする意から、②個人が整った状態になるため学問・技芸などを身につける意味ともなる。また、派生の意味として、③物品を整った状態にして保管する意味にも使われる。さらに、④保管する場所に入れる。しいては手に入れる意味ともなる。

 古代の日本人は「おさ-める」という言葉で、上記の内容を含む多様な表現をしていたと思われるが、漢字が伝来してその意味を知ることにより、これまでの表現をそれぞれの漢字に当てはめて用いるようになった。漢字によって今までの表現がより明確化され、また漢字に訓を与えることにより漢字を日本語化したともいえる。
 漢和辞典で「おさめる」を引くと、20以上の漢字がありますが、今回は代表的な4つに限定して紹介します。

 チ・ジ・おさめる・おさまる・なおる・なおす  氵部
解字 「氵(水)+台(ジ・チ)」の形声。後漢の[説文解字]は山東省にあった川の名前としている。のち、中国南北朝時代の字典である[玉篇](543年)に「修治なり」とし川を治める意味になった。なぜ、川の名が治水の意味になったか不明であるが、この川で大規模な堤防工事などが行われたのかも知れない。その後、川を治めることは国を治めることになり、さらに病気をおさめる(なおす)意ともなった。
意味 (1)おさめる(治める)。水をおさめる。「治水チスイ」「治山チサン」(洪水を防ぐために植林する) (2)おさめる(治める)。おさまる(治まる)。乱れを正す。取り締まる。「治安チアン」 (3)(国を)おさめる(治める)。領地を治める。「政治セイジ」「統治トウチ」 (3)(病気を)なおす(治す)。なおる(治る)。おさまる(治まる)。「治療チリョウ」「治癒チユ」「全治ゼンチ」「痛みが治(おさ)まる」「咳が治(おさ)まる」

 シュウ・シュ・おさめる・おさまる  イ部
音符の解字 修の音符は攸ユウ・ユ。

金文は、「イ(人)+ 三つの点(水のたれるさま)+攴ボク(木の枝でたたく)」の会意。人の背中に水をかけ、手にもった枝葉でたたいて身を洗い清めること。篆文は、三つの点⇒タテの棒線に変化し、さらに現代字は、攴⇒攵に変化した攸になった。身を洗い清める意で、悠の原字。
修の解字 「彡(かざり)+攸(身を清める)」の会意。身を清めてから、新らたに飾り(彡)を身につけること。身を清める行をおえて、新たなものを得ること。
意味 (1)おさめる(修める)。学んで身につける。「修学シュウガク」(学問を修め習う)「修行シュウギョウ・シュギョウ」(学業や技芸を学び修める)「研修ケンシュウ」(研(みが)き修める) (2)形をととのえる。「補修ホシュウ」「修理シュウリ」 (3)かざる。模様をつける。「修飾シュウショク」「修辞シュウジ」(言葉を飾り立てること) (4)梵語の音訳語。「阿修羅アシュラ」(天上の神々に戦いを挑む悪神)「修羅場シュラば」(はげしい戦闘の場)

 ノウ・ナッ・ナ・ナン・トウ・おさめる・おさまる  糸部
音符の解字 納の音符は内ナイ。

内ナイは、甲骨文・金文とも「入(はいる)+建物」の形。建物に入る形で建物のなかを示す。篆文から入の上部が建物と一体化し、上につき出た形になった。旧字は「冂+入」の形だが、新字体は、入⇒人に変化した内になった。
納の解字 「糸(ぬの)+内(建物の中にいれる)」の会意形声。貢物としてきた布帛(布や絹)を倉の中にいれること。
意味 (1)おさめる(納める)。倉・役所の中にいれる。ひきわたす。「収納シュウノウ」「受納ジュノウ」「納屋なや」(物置小屋)「納戸なんど」(調度品等をしまう部屋)「納豆ナットウ」 (2)おさめる(納める)。支払う。差し出す。「納税ノウゼイ」「献納ケンノウ」(金品をたてまつる) (3)[国]しめくくる。「納会ノウカイ」「歌い納める」「見納(みおさ)め」。

[收] シュウ・おさめる・おさまる  又部  
解字 旧字は收で「攵(=攴。たたく意)+丩(=糾。あざなう)」の会意。あざなった縄や紐で人をたたき、括ってとりこむこと。もともとは、強制的に捕らえて収容すること。のち、手に入れる。受け取る。などの意で使われるようになった。新字体は旧字の攵⇒又に変化。
意味 (1)おさめる(収める)。ある範囲のなかに入れる。手に入れる。あつめる。とりいれる。「収穫シュウカク」(農作物を取り入れること。得たもの)「収益シュウエキ」(利益をあげる)「収入シュウニュウ」(一定期間に個人が得た現金やその等価物)「収録シュウロク」「収容シュウヨウ」(収も容も、受け入れる意)「手中に収める」「目録に収める」「効果を収める」 (2)おさまる(収まる)。安定した状態になる。「収束シュウソク」(おさまりがつく)「収縮シュウシュク」(縮んで収まる。ちぢまること) (3)とらえる。つかまえる。とりあげる。「収監シュウカン」(監獄に収容する)「収用シュウヨウ」(強制的に取り上げること)「徴収チョウシュウ」(とりあげる) 
<紫色は常用漢字>

問題と正解
(1)国をめる
(2)学問をめる
(3)税金をめる
(4)成功をめる
正解
(1)国を「おさめる」意は、川を「おさめる」意の治が正解です。川を治めることが国を治める意味に拡大しました。黄河・長江などの洪水にたびたび悩まされた中国では、まさに治水が国を治めること。日本も同様で為政者は治水を行いました。現在も治水は国を治める最重要事項の一つです。
(2)学問を「おさめる」は、②の個人が整った状態になるため学問・技芸などを身につける意味ですから、学んで身につける意の修シュウが正解です。
(3)税金を「おさめる」は、物納である絹などの布帛を税として建物の内側に入れるかたちの納ノウが正解です。
(4)成功を「おさめる」は、日本的なかたちの用法です。正解は収シュウですが、収の本義は糾(あざな)った縄で人をとらえて収容する意ですが、転じて、手に入れる・とりいれる意になりました。日本では、成果や成功など良い結果を手にすることを「おさめる」と表現します。農作物を取り入れる「収穫シュウカク」という熟語に影響されたのかも知れません。

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