【毎日新聞特集「湖国の人たち」:オピニオン’10 林繁晴さん】
◇臓器提供、意思表示を--県腎臓病患者福祉協会副会長・林繁晴さん(59)=甲賀市
家族の承諾のみで脳死での臓器提供が可能になった改正臓器移植法の施行から2カ月半。県内でも先月(10月)18日、近江八幡市立総合医療センターで20代女性が30代男性の腎臓の移植を受けた。だが、本人の意思が不明の場合、遺族や臓器提供を打診する医療機関の負担が増すという声もある。3日の全国一斉の腎臓移植普及推進キャンペーンを前に、腎臓提供を待つ県腎臓病患者福祉協会副会長の林繁晴さん(59)に話を聞いた。【稲生陽】
◇家族に可否判断は負担
--林さんは、なぜ移植が必要になったのですか?
私はJRの駅員だった12年前、急に疲れやすくなる症状に襲われました。尿管の弁が逆流し、腎臓が機能しなくなっていたんです。電車好きで入ったJRで、いつかは大きな駅の駅長になりたいという夢も断念。上級職の試験に通って辞令が出る直前だったので本当に悔しかった。やむなく泊まり勤務のない子会社に出ましたが、人工透析のために休むことが理解されず、居づらくなって退職しました。不摂生をしていたわけでもなく、「なぜ自分だけこんな目に」と落ち込みました。
今は週3回の透析が欠かせず、水は1日500ミリリットルまでと制限されています。この夏は熱中症が本当に怖かった。地震など災害時にはどうなってしまうのかと恐れています。
--脳死者からの移植についてどのように感じますか。
正直言って、死者からの提供が最も犠牲の少ない方法です。
腎臓は二つある臓器。腎移植が必要な人の大半は家族からもらいますが、私の場合、妻には乳がんの疑いがあってできません。息子や娘が提供を申し出てくれますが、これから長い人生のある若者からもらって生き延びるのがよいのか……。透析患者の平均年齢は65歳を超えています。この年で若い家族から臓器提供を受けるのは現実的でないように思います。
-今回の法改正で、遺族が同意すれば本人の意思表示は必要なくなりました。
自分の体は何でも提供しますが、家族については悩むものです。私の父も15年前、がけから転落して脳死状態になりました。手を触ると温かく、医師から臓器摘出を提案されたとしても同意できたかどうか、ジレンマがあります。
提供しないと判断しても、家族や医師に負担をかけないために、あらかじめ意思表示をしてほしいものです。3日のキャンペーンでは、県腎協のメンバーらが県内19カ所でカードとリーフレットを配ります。今では臓器提供意思表示カードを持たなくても、免許証や保険証で意思表示できるようになりました。この機会に家族で話し合ってみてください。
==============
■提言
◇迷わせないために
臓器提供を待つ自分ですら、かつて家族が脳死したときに病院から提案されていたら、どう判断していたか迷いを感じる。死者がどう思っていても、残された家族や医師にとって、意思の分からない人からの提供可否を判断するのは大きな負担になる。自分は提供するという人も、したくないという人も、残される人のために意思表示すべきだ。
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■人物略歴
◇はやし・しげはる
1951年2月生まれ。週3回、各4時間の人工透析を受け、日常生活でも水分や塩分は厳しく制限されている。県によると、県内で臓器移植希望者として登録しているのは、いずれも腎臓で60人(6月末)。県内の死者からの摘出は、日本臓器移植ネットワークができた95年以降、法改正までの間に9件あったが、脳死段階での摘出は08年の1件にとどまっている。
【関連ニュース番号:1010/14、10月2日】
(10月2日付け毎日新聞・電子版)
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20101002ddlk25040616000c.html
◇臓器提供、意思表示を--県腎臓病患者福祉協会副会長・林繁晴さん(59)=甲賀市
家族の承諾のみで脳死での臓器提供が可能になった改正臓器移植法の施行から2カ月半。県内でも先月(10月)18日、近江八幡市立総合医療センターで20代女性が30代男性の腎臓の移植を受けた。だが、本人の意思が不明の場合、遺族や臓器提供を打診する医療機関の負担が増すという声もある。3日の全国一斉の腎臓移植普及推進キャンペーンを前に、腎臓提供を待つ県腎臓病患者福祉協会副会長の林繁晴さん(59)に話を聞いた。【稲生陽】
◇家族に可否判断は負担
--林さんは、なぜ移植が必要になったのですか?
私はJRの駅員だった12年前、急に疲れやすくなる症状に襲われました。尿管の弁が逆流し、腎臓が機能しなくなっていたんです。電車好きで入ったJRで、いつかは大きな駅の駅長になりたいという夢も断念。上級職の試験に通って辞令が出る直前だったので本当に悔しかった。やむなく泊まり勤務のない子会社に出ましたが、人工透析のために休むことが理解されず、居づらくなって退職しました。不摂生をしていたわけでもなく、「なぜ自分だけこんな目に」と落ち込みました。
今は週3回の透析が欠かせず、水は1日500ミリリットルまでと制限されています。この夏は熱中症が本当に怖かった。地震など災害時にはどうなってしまうのかと恐れています。
--脳死者からの移植についてどのように感じますか。
正直言って、死者からの提供が最も犠牲の少ない方法です。
腎臓は二つある臓器。腎移植が必要な人の大半は家族からもらいますが、私の場合、妻には乳がんの疑いがあってできません。息子や娘が提供を申し出てくれますが、これから長い人生のある若者からもらって生き延びるのがよいのか……。透析患者の平均年齢は65歳を超えています。この年で若い家族から臓器提供を受けるのは現実的でないように思います。
-今回の法改正で、遺族が同意すれば本人の意思表示は必要なくなりました。
自分の体は何でも提供しますが、家族については悩むものです。私の父も15年前、がけから転落して脳死状態になりました。手を触ると温かく、医師から臓器摘出を提案されたとしても同意できたかどうか、ジレンマがあります。
提供しないと判断しても、家族や医師に負担をかけないために、あらかじめ意思表示をしてほしいものです。3日のキャンペーンでは、県腎協のメンバーらが県内19カ所でカードとリーフレットを配ります。今では臓器提供意思表示カードを持たなくても、免許証や保険証で意思表示できるようになりました。この機会に家族で話し合ってみてください。
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■提言
◇迷わせないために
臓器提供を待つ自分ですら、かつて家族が脳死したときに病院から提案されていたら、どう判断していたか迷いを感じる。死者がどう思っていても、残された家族や医師にとって、意思の分からない人からの提供可否を判断するのは大きな負担になる。自分は提供するという人も、したくないという人も、残される人のために意思表示すべきだ。
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■人物略歴
◇はやし・しげはる
1951年2月生まれ。週3回、各4時間の人工透析を受け、日常生活でも水分や塩分は厳しく制限されている。県によると、県内で臓器移植希望者として登録しているのは、いずれも腎臓で60人(6月末)。県内の死者からの摘出は、日本臓器移植ネットワークができた95年以降、法改正までの間に9件あったが、脳死段階での摘出は08年の1件にとどまっている。
【関連ニュース番号:1010/14、10月2日】
(10月2日付け毎日新聞・電子版)
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20101002ddlk25040616000c.html