【写真:JR野洲駅(中央奥)近くのアサヒビールの土地=野洲市】
野洲市は10月25日、JR野洲駅前の一等地約9400平方メートルを所有するアサヒビール(本社・東京)から、土地の売却方針が伝えられたことを明らかにした。市に購入意思を打診し、今月末までに意思表明がなければ第三者への売却を進めるという。財政難の市は、駅前開発の方針が定まらないまま売却するのは「承服できない」と反発。「検討期間を1年程度みてほしい」とアサヒビールに申し入れる。
同日の市議会で山仲善彰市長が明らかにした。
市の説明によると、旧野洲町は1983年、駅前の土地1.5ヘクタールを所有する日本麦芽工業(現・アサヒビールモルト)から、駅前開発を前提に土地を買い取る合意書を結んだ。しかし、86年に同社を買収したアサヒビールは自社開発の方針を打ち出し、合意書は履行されなかった。後に一部が売却され、市の駅前ロータリーが整備され、民間業者のマンションが建ったが、残る9400平方メートルの開発のめどは立っていない。
山仲市長によると、今年7月末、アサヒビールの役員が市役所を訪れ、土地の一部を貸しているスーパー銭湯の業者との契約が来年7月に切れるのを機に、土地を売却する意向を伝えてきた。さらに今月8日、「市に購入の意思があれば今月末までに申し出てほしい。要望がなければ第三者への売却活動を進める」「今年11~12月に入札説明会を開き、来年7月以降に物件を譲渡する」などと記した文書が届いた。
問題の土地は、以前は「近隣商業地域」だったが、いまは容積率の制限がさらに緩和された「商業地域」。「地価は倍にはね上がり、とても買える状況ではない」と市幹部。「とはいえ、市の顔である駅前が切り売りされるのはかなわない」
市の言い分はこうだ。83年の合意書を履行せず、自社開発を打ち出したアサヒビールに不満があったものの法的手段は取らなかった。逆に同社の駅前開発に市が協力する覚書、確認書を数回にわたり交わしてきた。
結局、同社は自社開発をあきらめ、売却方針に転じた。市幹部は「過去の努力を水の泡にするのか」「屈辱的だ」と、不信感を隠さない。
ただ、市側に弱みもある。市は2005年、アサヒビールは土地の売却の際は市の意見を尊重するものの、意見に沿うことができない場合、「市は最終決定に異議申し立てをしない」との確認書を交わしていた。08年に就任した山仲市長は「引き継ぎがなかった」として当時の経緯を調べる方針だが、確認書に従えば売却方針を覆すことはできない。
一方で、確認書には「相互尊重と協調の精神に基づき、野洲駅前の活性化と発展を共に願い、目指していくことを基本理念とする」ともあり、山仲市長は「この基本理念や過去の経緯も踏まえた対応をしてほしい」と訴えている。
アサヒビールの広報担当者は「市の立場はまだ直接聞いていないので、コメントできない」としている。(飯竹恒一)
(10月26日付け朝日新聞・電子版)
http://mytown.asahi.com/areanews/shiga/OSK201010250203.html
野洲市は10月25日、JR野洲駅前の一等地約9400平方メートルを所有するアサヒビール(本社・東京)から、土地の売却方針が伝えられたことを明らかにした。市に購入意思を打診し、今月末までに意思表明がなければ第三者への売却を進めるという。財政難の市は、駅前開発の方針が定まらないまま売却するのは「承服できない」と反発。「検討期間を1年程度みてほしい」とアサヒビールに申し入れる。
同日の市議会で山仲善彰市長が明らかにした。
市の説明によると、旧野洲町は1983年、駅前の土地1.5ヘクタールを所有する日本麦芽工業(現・アサヒビールモルト)から、駅前開発を前提に土地を買い取る合意書を結んだ。しかし、86年に同社を買収したアサヒビールは自社開発の方針を打ち出し、合意書は履行されなかった。後に一部が売却され、市の駅前ロータリーが整備され、民間業者のマンションが建ったが、残る9400平方メートルの開発のめどは立っていない。
山仲市長によると、今年7月末、アサヒビールの役員が市役所を訪れ、土地の一部を貸しているスーパー銭湯の業者との契約が来年7月に切れるのを機に、土地を売却する意向を伝えてきた。さらに今月8日、「市に購入の意思があれば今月末までに申し出てほしい。要望がなければ第三者への売却活動を進める」「今年11~12月に入札説明会を開き、来年7月以降に物件を譲渡する」などと記した文書が届いた。
問題の土地は、以前は「近隣商業地域」だったが、いまは容積率の制限がさらに緩和された「商業地域」。「地価は倍にはね上がり、とても買える状況ではない」と市幹部。「とはいえ、市の顔である駅前が切り売りされるのはかなわない」
市の言い分はこうだ。83年の合意書を履行せず、自社開発を打ち出したアサヒビールに不満があったものの法的手段は取らなかった。逆に同社の駅前開発に市が協力する覚書、確認書を数回にわたり交わしてきた。
結局、同社は自社開発をあきらめ、売却方針に転じた。市幹部は「過去の努力を水の泡にするのか」「屈辱的だ」と、不信感を隠さない。
ただ、市側に弱みもある。市は2005年、アサヒビールは土地の売却の際は市の意見を尊重するものの、意見に沿うことができない場合、「市は最終決定に異議申し立てをしない」との確認書を交わしていた。08年に就任した山仲市長は「引き継ぎがなかった」として当時の経緯を調べる方針だが、確認書に従えば売却方針を覆すことはできない。
一方で、確認書には「相互尊重と協調の精神に基づき、野洲駅前の活性化と発展を共に願い、目指していくことを基本理念とする」ともあり、山仲市長は「この基本理念や過去の経緯も踏まえた対応をしてほしい」と訴えている。
アサヒビールの広報担当者は「市の立場はまだ直接聞いていないので、コメントできない」としている。(飯竹恒一)
(10月26日付け朝日新聞・電子版)
http://mytown.asahi.com/areanews/shiga/OSK201010250203.html