高レベル放射性廃棄物最終処分場の候補地選定のための調査を受け入れたいと町長が表明していることが問題となっている余呉町で10月28日午後、処分場誘致問題と町の将来を考える討論会が開かれ、調査受け入れを主張する畑野佐久郎町長と受け入れに批判的な「自治研究センターおかやま」の横山泉氏が出席、住民と意見を交わしました(ニュース番号0610/35などを参照)。
討論会は同町中之郷の山村開発センターで開かれ、地元や近隣の住民のほか、岐阜や京都など県外から参加した約150人が、処分場誘致問題、余呉町の財政問題や今後の町づくりなどについて討論を行いました。
畑野町長は、はじめに昨秋いったん調査受け入れを断念したにもかかわらず再び受け入れの意向を表明した理由について「昨年は前知事の強い反対があり、まだ不勉強であったこともあって断念したが、議員の中には断念に反対の議員もいた。その後、資源エネルギー庁や調査地を公募している原子力発電環境整備機構とも接触、6月には青森県六ヶ所村の核燃料関連施設を見学し、六ヶ所村の人々がそれほど心配していなことを知った。私は『誘致』したいと言ったことはない。(候補地選定の第一段階の調査である)文献調査を応募したいと言っているのだ」などと説明しました。
次いで同町長は文献調査へ応募したい理由として町の財政難を挙げ「平成10年度に3億6000万円あった税収は平成18年度には3億円程度にまで減少している。国の地方交付税による交付も最も多いときは20億円あったが小泉内閣になって15億3000万円程度にまで減っており、基金も底をついている。余呉町は自立できる町ではない。どうしても財源の確保が必要」などと説明しました。また、もうひとつの理由として核廃棄物に関する問題提起を挙げ、「日本は原子力発電に頼っているという現実を直視しなけばならない。特に関西電力の場合、原子力発電への依存率は(他の電力会社に比べて高く)45%に達しており、原子力発電で生じる核廃棄物をどうするかは国民的課題であり、余呉町から問題提起したい。現に全国からファックスルやメールでの反応がたくさん来ている」と説明するとともに「(文献調査は知事の同意を必要としないが)次の地質調査(概要調査)の段階で知事の同意が得られないかもしれず、より進んだ段階では住民投票などの方法で住民の意思を問うことを考える必要があるかもしれない」などと述べました。
一方、岡山県人形峠のウラン採掘の残土による放射能汚染問題に取り組み、自治体の財区分析にも詳しい「自治体研究センターおかやま」の横山泉氏は、まず核廃棄物の処分問題について問題点を指摘し、「地下深くに埋めるという方法は技術的に完成されたものでなく、世界的にみてもこの方法が実施されて例はない。岡山県も人形峠のウラン採掘の残土問題で苦労してきた。強い風が吹いたり、雨が降ったりすると放射能を含む残土が飛散するのではないかと心配は尽きなかった。このため岡山県ではすべての自治体が核関連施設を受け入れないことを表明している」と説明し、また国のやり方について触れ、「一方において中央と地方の経済格差を助長しておきながら、財政的に困っている財政規模の小さな自治体に狙いをつけており、原子力発電環境整備機構は財政規模が20億円程度の自治体について財務分析を行っている」と批判しました。次いで同氏は余呉町の財政問題に触れ、「文献調査の受け入れは町議会や知事の同意を必要としないが、応募すれば(2年間に)20億円が交付され、県にも25億円が交付されることになる。次の段階の調査では70億円程度が交付される。果たして文献調査を一度受け入れてしまえば、歯止めがきくだろうか」と危惧していることを述べるとともに、余呉町の財務分析の結果について資料を用いて説明し「確かに借金は多いが、全国的にみて同規模の自治体と比べた場合、飛びぬけて財政が悪化しているというわけではない。住民を対象に起債を行うなどの方法もある。調査受け入れによる交付金に頼らない方法を住民といっしょになって考えるべきだ」などと主張しました。
参加者からは「核廃棄物の問題が国民的な課題であることは理解できるが、なぜ余呉町が問題提起しなければならないのか、どうしても納得できない。国民的課題であるならば国が中心となってシンポジウムなどの方法で問題提起するのが本筋ではないか」、「そのような危険な施設を誘致して、子供たちにどのように説明するのか」、「余呉町の農産物の風評被害が懸念される」などの疑問や意見が出されました。
また座談会形式で行われた第2部では、司会の吉田一郎・元長浜歴史博物館長が「余呉はいいところ。プラス思考で議論を」と口火を切り、町内で古い民家を活用してさまざまな文化活動を行っている東野更正さん(72歳)と農業を始めた前田壮一郎さん(29歳)らが、町内外の参加者を交えながら、余呉町での暮らしで感じた魅力や可能性、今後の構想などについて話しました。
(10月29日付け、京都、毎日、朝日なども報道)
(写真は討論の前に説明を行う畑野町長。写真をクリックすると大きくなります)