いいしらせのグッドニュース[パート・Ⅱ]

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吉村昭さんの「海の史劇」Ⅱ. つづきです。     12.10.

2014-12-10 17:45:38 | Weblog

       110年ほど昔、1905年5月30日、アメリカの新聞「ニューヨーク・サン」の社説。
       「日本艦隊がロシア艦隊を潰滅したことは、海軍史のみならず世界史上、例のない大偉業である。
       日本が鎖国をといたのはわずか五十年前であり、海軍らしい海軍を持ってから十年にもならぬのに、
       早くも世界一流の海軍国になった。
       今後、日本の地位はますます向上し、二十世紀のうちに日本は、まちがいなく世界の首位に立つだろう」
       と日本を絶賛する。このとき、大国アメリカはその後の太平洋戦争などを想像できたであろうか。
       小国日本は今、この社説の通りに首位の領域にある。経済での状況だが、やはり驚異である。




       
       日本海軍 戦艦『三笠』 イギリス・テームズ社建造。敷島型戦艦4番艦。(明治38年2月初旬 呉)
       
       日本海軍 戦艦『富士』 イギリス・テームズ社建造。富士型戦艦2隻の1番艦。
       
       ロシア海軍 防護巡洋艦『アヴローラ』 海戦で、撃沈または鹵獲を免れた数少ない艦の一つ。
       十月革命で冬宮を砲撃し、革命の成功に貢献したとされる。



       明治維新(明治元年1868年10月23日)から、37年しか経っていない(日本海海戦1905年)。 
       仁川沖海戦、旅順港閉塞作戦、黄海海戦、蔚山沖海戦、そして、日本海海戦、と連戦連勝であった。
       戦艦を自国でつくれないのに、である。巡洋艦レベルまでしか、つくれなかったという。
       戦艦三笠も、敷島も、富士も、朝日もイギリス製だ。
       しかし、この国の英知、勤勉さに驚く。
       次の比較で、その進化に驚くけれど、なにか間違いも感じる。

       

       1902年に就役した戦艦三笠と、1941年に就役した戦艦大和との大きさの比較。
       三笠は排水量15,000トン、30センチ主砲4門。
       大和は排水量64,000トン、46センチ主砲9門。わずか40年後に、大和・武蔵をつくる。


       吉村さんは、大勝利のあと政府と軍部がこれ以上戦うこと・戦争の継続を否定した事実を書く。
       過大な戦費が国勢を攻めつけ、乏しい国情はまさにジリ貧なのである。維新後37年。
       政府と軍部は講和するしかないと、ことをすすめる。しかし、勝利に酔う民衆は継続にはやる。
       小村寿太郎が講和のための役目を担う。すべてを熟知してである。
       しかし、ロシアの皇帝ニコライ二世は譲歩を許さない。
       内情は公・おおやけにできない。民衆は講和の結果に暴徒化する。



       



       愉快ではない戦後処理が後半で書かれる。ロシア兵捕虜の優遇に近い処遇、ロジェストヴェンスキー
       中将の帰国までの経緯。7万にも達する捕虜を優遇し、中将ら幹部は不満だらけで帰国するが、
       ロシア革命初期の民衆、下士官、兵の一触即発の恐怖の洗礼を受けることになる。
       割の合わない役目を全うした小村寿太郎に、少々肩入れしているように感じたが、吉村さんは
       人にはそれ以上踏み込むことはされない。東郷平八郎大将も、秋山真之中佐にも触れない。
       「史劇」ということでありましょう。



       



       巻末の解説を“田村隆一”さんが書かれていらっしゃる(文庫本のみか)。
       このマッチングがほほえましい。
       「(略) その海戦は凄惨であったが、戦闘方法をはじめ被害艦の乗組員救出とその収容方法等に
       一種の人間的な秩序がみられる」と語る著者・吉村さんの言葉を取り上げる。
       “人間的な秩序”。
       「“人間的な秩序”を恢復するため、その方法を模索するために書かずにはいられなかった
       のではあるまいか」と田村隆一さんは言い、圧倒的に支持する。
       「本書を読むことは、期せずして人間が人間であった時代、その人間たちが動かしていた
       歴史の現場に立ちあうことであり、そのような幸福をあたえてくれた吉村氏に感謝する(略)」。


       東郷艦隊の“敵前逐次回頭”、いわゆる“大回頭”に触れるつもりだったのですが、
       そういう現場の展開ではありませんでした。
       吉村昭さんに敬意を、です。





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