Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

全米海洋教育者学会の様子

2010-07-24 | NMEA全米海洋教育者学会年会
 本大会は,全米科学基準のフレームワークの検討の他,水族館,シーグラント,学校等における教育プログラムの紹介,並びに教育学的研究,教育の重要性に関する討論会,オーシャンリテラシーのこれからの方向性などが大きなテーマになっている。

 中でも注目されるのは,生態的適応をめぐる伝統知識(Traditional Ecological Knowledge :TEK)に関する発表やミーティングである。スモーキーマウンテン周辺,ミシシッピ川,マサチューセッツ州に住んでいるネイティブ・アメリカン,黒人の強制移住のストーリーテラーなどが招待され,それぞれのTEKを発表し合った。

 日本は,西洋の生態的知識(Western Ecological Knowedge : WEK)を持ちつつ,TEKを持ったネイティブの国であるという,大変特殊な国であり,WEKとTEKをつなぐ重要な役割を持っている国である。
 
 私の方からは,60分の時間を与えられ,我が国の水圏に関する教育の紹介を行ったが,中でもオーシャンリテラシーを元にしてTEKを取り入れた水圏環境リテラシーは大変注目を浴びた。日本の取組に対して,賞賛する声が多く,中でも,漁業と食文化が密接に関わっていること,675年から1875年まで陸上の動物が食べることが禁じられていたということに関して聴衆から驚きの声が上がった。また,海,山,川に恵まれた自然環境がさまざまな魚食の文化を生み,現在の江戸前寿司のような食文化が発達していることにも注目が集まった。

 TEKに関しては,日本の取組みに対し多くの国々の研究者や教育者そしてネイティブの方々が期待している。ネイティブの方々にそれぞれの国々のTEKを発表していただき,お互いのTEKを認識しあう機会を設けたいものである。

 また,日本の海藻食に関しても注目された。日本人は海藻を好んで食べる。本研究室の学生が実施した60分の東京湾の取り組みに関するワークショップでは,大森海苔のふるさと館で販売している焼き海苔を食していただく場面があったが,「海藻は魚が食べるもので人間が食べるものではない」という発言があるぐらい,特別に見られているようである。

 山口水産高校で実施している鉄炭ダンゴによる海藻を増やす実験にについて紹介したが,参加者から「このような取組は初めて聞いた。これは日本の独自の考えだ。日本の高校生は素晴らしい。」「バージニア州でも海藻が減っている。ぜひ,高校生の交換留学をしてはどうか?」という声が上がった。

 海藻をひとつとってみても,海藻の取組の中にはTEKの要素が含まれている。海藻を食べることは陸上からの流出した栄養分を循環させることにつながる。また,海藻を増やすための発想は,森が海の魚を育てるという魚付保安林からきている。このような日本では当たり前のように思っていることを,TEKであると認識することが今求められているのではないか?