映画「蛇の道」を観た。
柴咲コウが演じる精神科医の真意がどこにあるのか、あれこれ考えながら鑑賞することになる。もしかしたら、異国で精神のバランスを保つために、見境なく人を殺すシリアルキラーなのか、そのために患者の復讐に手を貸したのか、などと考えもした。終盤で真相が明らかになってくると、その推理も、強ち間違いではなかったことがわかる。
本作品のいくつかの特徴は、黒沢清監督の過去の作品に通じるところがある。
絶対的な悪意は「クリーピー 偽りの隣人」(2016年)
ある意味、奇想天外なストーリーは「散歩する侵略者」(2017年)
異国文化との微妙なふれあいは「旅のおわり世界のはじまり」(2019年)
主人公の思惑が最終盤まで明らかにならないところは「スパイの妻」(2020年)
考えてみれば、本作品は1998年の第一作目の「蛇の道」のリメイクだ。黒澤監督の世界観やら映画の手法やら、いろいろな要素が詰まっているのは当然のことだが、その詰まり具合が丁度よくて、物語の進行を邪魔しない程度に世界が膨らむ。
柴咲コウはすっかり中性的な感じになった。美人がコケットリーを削ぎ落とすと、近寄りがたい孤高の存在になる。主人公サヨコの精神性は如何なるものか。黒沢監督は、本作品では人間の心の闇に踏み込もうとしている。覗きたい気もするが、恐ろしくもある。