映画「おまえの親になったるで」を観た。
日本の再犯率は2022年の統計で50%弱だそうだ。覚醒剤犯罪に限定すると、同じ2022年の数字は68.1%に跳ね上がる。薬物依存は繰り返す傾向にある。芸能人が何度も覚醒剤で逮捕される報道から、その実感がある。
本作品でフィーチャーされている草刈健太郎さんの奮闘には頭が下がる。「男が泣くな」という家父長制度みたいな差別的な発言はちょっと気になったが、再犯率50%弱の出所者たちの面倒を見て、裏切られてもチャンスを与えつづける寛容は、凡人には真似のできない姿勢である。
そもそも薬物に限らず、依存症からの脱却は難しい。以前は中毒と呼んでいた。アルコール中毒、麻薬中毒、賭博中毒、ニコチン中毒、セックス中毒。他にもたくさんあるが、中でもアルコール中毒はアル中、麻薬中毒はヤク中と省略されて、一般化していた。中毒ではないが、四六時中熱心に仕事をする人が仕事中毒と呼ばれることもあって、日本人のことをWorkaholics living in rabbit hutches と揶揄する表現が伝わってきたことがある。
依存症という言い方になってからは、治療が可能な症状として捉えられている。といっても、病気と違って、本人が進んで取る行動だから、基本的には本人の意志でやめるしかない。
私見だが、依存症は人間だけに特有の症状だと思う。猿やチンパンジーは、何かに夢中になることはあるだろうが、依存症になることは考えづらい。それ以下の動物はそもそも能力的に不可能だ。動物は無駄なこと、危険なことはしない。
ということは、ちょっと飛躍するが、怠惰な人は依存症になりにくいと言えるのではないか。ストーカーも依存症だが、かなりの行動力が必要である。相手をつけ回したり何度も電話やメールをしたり自宅を訪ねたりするのは、怠け者にはとてもできない行動だ。
小人閑居して不善を為すとは、人間を差別的に分類した世界観の諺で、小人(しょうじん)も大人(たいじん)も、客観的には存在しない。不善は単なる人間の行為である。
犯罪の成立要件の中でもっとも重要な項目は「人の行為であること」である。行為をしなければ、犯罪は成立しない。怠け者は依存症になりにくいだけでなく、犯罪も犯しにくいという訳だ。「頑張らない勇気」が肯定されるなら、怠けること、行動しないことも肯定されていいと思う。生産性がない人間が否定される世の中は、犯罪を助長する世の中だ。