三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

風姿花伝「いま、ここにある武器」

2016年08月17日 | 映画・舞台・コンサート
「いま、ここにある武器」という芝居を観た。
http://www.fuusikaden.com/weapon/
 
シアター「風姿花伝」は西武池袋線の椎名町駅が最寄り駅だが、乗り換えが面倒だ。そこで副都心線の池袋駅から歩くことにした。立教大学の横を通り、山手通りを下って目白通りに入ったらすぐに劇場が見える。このルートは歩道が広くてとても歩きやすい。池袋駅C4出口から大体20分ほどかかるが、快適なウォーキングだ。

到着したシアターはこじんまりしたマンションの2階で、やや心配になった。このところ大劇場にばかり行っていて、小さくても世田谷パブリックセンターのシアタートラムくらいだから、「風姿花伝の」の狭さはかつて渋谷の公園通りにあった小劇場「ジァンジァン」を思い出させる。学生だった頃によく通っていて、イヨネスコ作、中村伸郎主演の「授業」は何度も何度も観たものだ。

さて、今日の芝居「いま、ここにある武器」は、ドローンに代表される無人テクノロジーを使用した武器が話の中心となる。舞台はロンドンだ。
芝居の前半はテクノロジー開発の中心であるエンジニアとその兄、開発に関わる大企業と政府の関係性について会話劇で十分な説明が行われる。テーマは弟のエンジニアに対して兄が投げかける次の質問だ。
「お前は自分の仕事を子供たちに話せるか」
兄は戦争の犠牲者を目の当たりにしたことがあり、軍需産業に対してヒューマニズムの観点を述べる。もちろん話は平行線に終わる。

後半は、兄の言葉に心を動かされて開発から離れようとしたエンジニアと、それでも執拗に追いかけ追い詰める大企業およびCIAエージェントの対決が、やはり会話だけでテンポよく描かれる。
テーマは多岐にわたり、政治と倫理、ビジネス、文明の発展と人類の被害、世界観と善悪の基準、自己実現と承認欲求、そして不安と恐怖、などなど。

芝居では軍需産業とCIAが勝ち、ヒューマニズムは蹂躙されるが、命までは奪われない。生き残って細々と生きていくのだが、その生活の糧の一部は軍需産業に搾取され、子供を殺す武器へと変貌していくのだ。そのような絶望感に満ちた、とてもアイロニカルな芝居だったが、観劇の後味は悪くない。それは、このような絶望的で悲観的なテーマを真剣に考えている人間がいるという、ある種の安堵感であるような気がする。