小さな国と大きな国が 大戦争になりました。
最初 勢いのよかった小さい国は、各地で負け、戦局は悪化していました。
武器も乏しく、多くの兵士は倒れ、食料すらままなりません。
それでも小さな国は負けを認めず、最後の決戦が近づいていました。
しかし、なにしろみんな腹ぺこです、腹がへっては戦なんてできません。
手っ取り早く魚を獲ろうにも、海は敵の船でいっぱいです。
誰ともなく 淡水魚にしよう と言いました。獲りやすくて大きい淡水魚といえば“鯉”です。
鯉は雑食で、虫をやれば早く育ちます。
上官が言いました「鯉の餌となる蝿を取ってこい、千匹集めたら、一日の帰郷を許す」
それを聞いた若い兵士は「よしっ!」と叫びました。
故郷に サエカという美しい婚約者が待つその兵士は、一日の休みがほしくて、
それこそ目の色を変えて蝿を追いかけたのです。
蝿なんていくらでもいるようですが、戦争の備えや訓練の合間に、千匹も取るのは容易ではありません。
一日50匹としても20日間、それでも帰りたい一心で、くる日もくる日も蝿を取りました。
「おい、蝿男、集まったかい?」と からかわれながらも 必死でした。
ほぼ1ヶ月後、「上官どの、蝿千匹であります」と、兵士は敬礼して、紙袋を差し出しました。
千匹の蝿なんて、上官は、なかば冗談の命令を出したのですが、現実に袋いっぱいの蝿をみると、
ぞっとしながら「む、そうか..よし、数えてみろ」と言いました。
ほの暗い電灯の下、一つ二つと古新聞の上に並べてゆきます
...700..800..893.894.895 ..
新聞紙を埋めつくす、真っ黒な蝿の死骸。
毎日毎日 それを一人で取り貯めた凄まじい執念。
そのころは部隊中の兵士が集まってきました。 みんなで声を上げて数えています。
...996.997.998...
「あ、ああぁ、おしまいだ...2匹足らん」
とそのとき、誰かが パンと手を鳴らしました。「999!」と、上官の声がして、ぺちゃんこの蝿が紙の上に落ちてきました。
...あと1匹。
「仕方ないな、よぉし、それまでだ。この作戦は終了。1匹でも未遂は未遂。命令は命令。
第一、蝿などにかまっているときではなぁい。解散、解散だっ」と、上官は立ち上がって手をふりました。
「サエカ、すまん、おまえの誕生日だったのに、会えなんだ...」
若い兵士は、夜空を見上げて涙ぐみました。
8月5日の広島の深い夜です。
敵に見つからないように真っ暗にした兵舎の上に、天の川が異様なまでに濃く光の帯を広げています。
そのころ、はえ座の見える南のテニアンという島から、誰にも知られず、大きな爆撃機が飛び立ちました。
宇中仁 作。
8月15日の朝日新聞社説に基づく、新藤兼人監督の実話から、啓示を受けて脚色。
だから、日付を07.8.15としておく。
☆SAE☆さんが「はえ座」で物語を作りたいと言っていたので、無理やり登場してもらった。
画像は上弦の月
最初 勢いのよかった小さい国は、各地で負け、戦局は悪化していました。
武器も乏しく、多くの兵士は倒れ、食料すらままなりません。
それでも小さな国は負けを認めず、最後の決戦が近づいていました。
しかし、なにしろみんな腹ぺこです、腹がへっては戦なんてできません。
手っ取り早く魚を獲ろうにも、海は敵の船でいっぱいです。
誰ともなく 淡水魚にしよう と言いました。獲りやすくて大きい淡水魚といえば“鯉”です。
鯉は雑食で、虫をやれば早く育ちます。
上官が言いました「鯉の餌となる蝿を取ってこい、千匹集めたら、一日の帰郷を許す」
それを聞いた若い兵士は「よしっ!」と叫びました。
故郷に サエカという美しい婚約者が待つその兵士は、一日の休みがほしくて、
それこそ目の色を変えて蝿を追いかけたのです。
蝿なんていくらでもいるようですが、戦争の備えや訓練の合間に、千匹も取るのは容易ではありません。
一日50匹としても20日間、それでも帰りたい一心で、くる日もくる日も蝿を取りました。
「おい、蝿男、集まったかい?」と からかわれながらも 必死でした。
ほぼ1ヶ月後、「上官どの、蝿千匹であります」と、兵士は敬礼して、紙袋を差し出しました。
千匹の蝿なんて、上官は、なかば冗談の命令を出したのですが、現実に袋いっぱいの蝿をみると、
ぞっとしながら「む、そうか..よし、数えてみろ」と言いました。
ほの暗い電灯の下、一つ二つと古新聞の上に並べてゆきます
...700..800..893.894.895 ..
新聞紙を埋めつくす、真っ黒な蝿の死骸。
毎日毎日 それを一人で取り貯めた凄まじい執念。
そのころは部隊中の兵士が集まってきました。 みんなで声を上げて数えています。
...996.997.998...
「あ、ああぁ、おしまいだ...2匹足らん」
とそのとき、誰かが パンと手を鳴らしました。「999!」と、上官の声がして、ぺちゃんこの蝿が紙の上に落ちてきました。
...あと1匹。
「仕方ないな、よぉし、それまでだ。この作戦は終了。1匹でも未遂は未遂。命令は命令。
第一、蝿などにかまっているときではなぁい。解散、解散だっ」と、上官は立ち上がって手をふりました。
「サエカ、すまん、おまえの誕生日だったのに、会えなんだ...」
若い兵士は、夜空を見上げて涙ぐみました。
8月5日の広島の深い夜です。
敵に見つからないように真っ暗にした兵舎の上に、天の川が異様なまでに濃く光の帯を広げています。
そのころ、はえ座の見える南のテニアンという島から、誰にも知られず、大きな爆撃機が飛び立ちました。
宇中仁 作。
8月15日の朝日新聞社説に基づく、新藤兼人監督の実話から、啓示を受けて脚色。
だから、日付を07.8.15としておく。
☆SAE☆さんが「はえ座」で物語を作りたいと言っていたので、無理やり登場してもらった。
画像は上弦の月