犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

郷原信郎著 『「法令遵守」が日本を滅ぼす』

2008-01-26 15:46:56 | 読書感想文
1月25日に就任したNHKの福地茂雄新会長は、記者会見において、「コンプライアンス(法令遵守)の徹底をNHKの企業風土にする」との決意を語った。これは、NHKの職員3人による株のインサイダー取引が発覚したことに伴うものである。福地新会長は、NHKの現状を「崖っぷち」と表現し、視聴者からの信頼回復を最大の課題に掲げた。そして、職員のインサイダー取引については、経営委員会が求めた第三者による調査委員会を早急に設置し、徹底調査する意向を示した。

何かにつけてコンプライアンス(法令遵守)という単語を耳にする機会が増えたが、実際のところはどうなっているのか。福地新会長の言うことを信頼してよいのか。こういう時は、数年前に語られた言葉を見てみるに限る。


●2004年(平成16年)7月 海老沢勝二会長の会見
海老沢会長は、職員の不正な経理処理が発覚したことにつき、「放送に携わる者に常に高い倫理観が求められている中で、公共放送NHKに対する皆さまからの信頼を損ねることになってしまい、残念でなりません。深くおわび申し上げます」と述べて、改めておわびの意を表した。
海老沢会長は、今回のような不祥事が二度と起きないようにするための防止策について触れ、「業務改革を進めてきた中で不祥事が起き、痛恨の極みである。私どもはこれを深く受け止めて、問題がどこにあるか更に究明しながら、二度とこのようなことが起こらないよう、業務改革に取り組まなければならない。NHKに対する視聴者、国民の皆さまの信頼の回復に全力を挙げて取り組みたい」と述べて、万全の再発防止策を取る決意を表明した。
http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/toptalk/kaichou/k0407-2.html

●2006年(平成18年)6月 橋本元一会長の会見
「コンプライアンスについては、NHK内部の取り組みだけでなく、外部の専門家を入れて抜本的に取り組むよう、経営委員会からも指摘を受けている。どうすれば実効あるものになるのか、また屋上屋を重ねることにならないよう、現在、検討しているところだ。できるだけ早く具体化したい」
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/toptalk/kaichou/k0606.html#04


このように振り返ってみると、おそらく今後もダメである。そもそも株取引というものは、いち早く情報を得て、上がりそうな株は買い、下がりそうな株は売るマネーゲームである。「報道に携わる者が情報を悪用した」などと述べて人間の倫理観の問題に解消しようとしたところで、無理なものは無理である。金儲けが嫌いな人は株取引などできないし、しようとも思わない。今や株取引に長けた人間は、一瞬にして一生分の給料に匹敵する額を手に入れることもできる。株で1億円を儲ければ、当分の間は遊んで暮らせる。満員電車に乗る必要もない。上司にペコペコする必要もない。お客様からのクレームに対応する必要もない。このようなシステムを維持しつつ、コンプライアンス(法令遵守)を要求するなど、最初からまず無理な話である。

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