犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

法坂一広著 『弁護士探偵物語』

2012-07-04 23:01:35 | 読書感想文

p.378~ 茶木則雄氏の書評「新機軸とも言うべき《リーガル・ハードボイルド》の誕生を、大いに寿ぎたい」より

 事件の背景にアクチュアリティを感じるかと問われれば、否と答える他ないだろう。ハードボイルド・ファンであっても、今どき流行らない古典芸能の様式美をあえて追求する稚気を買うかどうかは、人それぞれだろう。

 しかしそれでも、この作品の根底には、瑕をものともしない強靭な意志がある。それを感じさせてくれたのは、弁護士の「私」が懲戒処分を受けるに至った過去の回想部分だ。現役弁護士の強みを存分に生かした、法曹関係の圧倒的ディテールと迫真性は、第一級のリアリティを構築してさすがと言わざるを得ない。

 それよりも何よりも、刑事事件における司法と検察、弁護の馴れ合いを糾弾する作者の筆致が、実に素晴らしい。筆は活き活きと躍動し、お得意のワイズクラックも、ここはぴたりと決まっている。

 おそらく作者は、法曹界の抱える今日的問題を俎上に載せるため、この小説を書いたのだろう。そう思わせるだけの意気込みが、行間から如実に伝わってくる。書きたいテーマを持ち、それを書かずにはいられないという作者の気概が、瑕だらけの原石の隙間から、仄見える。


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 ハードボイルドとは、ミステリの分野のうち、思索型ではない行動的な性格の探偵が登場する作風を表す用語として定着しています。弁護士の「リーガル・ハードボイルド」となれば、これはいかなる残酷な事件を目の当たりにしても感情に流されず、常に冷酷非情であり、感傷的な人間を卑下するような行動を指すことになると思います。そして、このような世界の捉え方は、迫真性やアクチュアリティの欠如と表裏一体だと思います。

 冷淡な合理主義者である弁護士において、その筆致が最も迫真性を帯びるのは、やはり懲戒請求を受けた場面であると思います。悲惨な殺人事件や死亡事故に対して何の怒りも覚えない弁護士であっても、自身がいわれのない懲戒請求を受けたときには、感情を露わにして怒りに燃えるのが通常です。法曹界の抱える今日的問題とは、プロのメンツやプライドという点に親和性があり、当事者の苦悩や絶望に入り込むことよるディテールや迫真性とは方向が異なるものと思います。

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