犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

柳原三佳著 『家族のもとへ、あなたを帰す――東日本大震災歯科医師たちの身元究明』より(1)

2013-03-03 22:49:24 | 読書感想文

p.65~

 現状では、歯科所見の採取や、試料用の歯を抜くために口を開かせたいという理由で遺体の頬などを切開した場合でも「死体解剖保存法」という法律に基づく解剖資格だけでなく、裁判所から発行される「鑑定処分許可状」も必要になる。これらがないまま切開してしまうと、最悪の場合、刑法上の「死体損壊罪」に問われてしまうこともあるのだ。

 岩手県歯科医師会としても、日本法医学会や日本歯科医師会に対して「今回のような大規模災害時には、歯科医師による検死作業のガイドラインをきちんと作成すべきだ」と要請していたのだが、この時点ではまだ、適切なガイドラインが示されていなかった。

 会場に不安なざわめきが起こったとき、説明会に出席していた岩手医科大学の出羽厚二教授は、きっぱりとこう言い切った。「とにかく開けてください。開けて、正確な歯科所見をとってください。目的は、身元不明のご遺体を遺族にお帰しすることなのです。私がすべての責任をとります」。


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 東日本大震災直後の居ても立ってもいられない焦りが、私は今となってはどうしても思い出せません。震災から2ヶ月くらいの間、「自分は自分の仕事をするしかない」と頭ではわかっていても、今のこの時期に本当に役に立っているとは思えない仕事とは何なのか、私は「自分の仕事」の意味について日々考えさせられていました。

 被災地に駆けつけて犠牲者の身元究明に奔走する歯科医師の報道に接した時は、私はただただ頭が下がりました。結論としては「自分は自分の仕事をするしかない」に戻るしかないのですが、このような「責任感」「使命感」「義務感」を見せられてしまった私は、単にワードとエクセルで自分の仕事をするだけでは済まなくなったと思いました。

(続きます。)

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