「坂茂ー紙の建築と災害支援」 世田谷文化生活情報センター生活工房

世田谷文化生活情報センター生活工房
「坂茂ー紙の建築と災害支援」
11/28-12/20



世田谷文化生活情報センター生活工房で開催中の「坂茂ー紙の建築と災害支援」を見てきました。

2014年にはプリツカー賞を受賞した世界的建築家、坂茂。元々、世田谷区に生まれ育ち、建築設計事務所も同区内にあるそうです。その由縁でしょうか。三軒茶屋の生活工房にて、坂の業績と活動を紹介する展覧会が行われています。


「坂茂ー紙の建築と災害支援」会場風景

まず目に飛び込んで来るのが「紙管」と白いカーテン。言うまでもなく、坂がかねてより取り組んできた災害支援の一つである避難所の間仕切りシステムです。


「大分県立美術館」 2014年 日本

そのシステムが展示の言わば造作です。坂の建築作品がカーテンを背に写真、および模型を交えて紹介されています。はじまりは一般住宅や美術館です。最近では今年開館したばかりの「大分県立美術館」が注目を集めているのではないでしょうか。木材を多用した外壁も個性的。構造が竹工芸のようになっているそうです。


「ニコラス G ハイエック センター」 2007年 日本

身近なところでは銀座の「ニコラス G ハイエック センター」も坂建築です。1階は間口の狭いファサードを逆手に取り、前後のガラスシャッターを開放すると通り抜けが出来るようになっています。またいわゆる垂直の庭こと、壁面を飾る緑も特徴的と言えるかもしれません。

坂といえば紙の建築家です。特にトイレットペーパーの芯として利用される紙管を建築の構造に取り込むことで知られています。最初に紙管を恒久的な建築に使ったのは、1995年の「紙の家」だそうです。より大掛かりな建物では2000年の「ハノーバー国際博覧会日本館」も挙げられます。


「ハノーバー国際博覧会日本館」 2000年 ドイツ

博覧会のテーマは環境問題。パビリオンは閉会後、解体されます。よって坂はリサイクル可能な紙管を採用しました。さらに屋根は紙です。紙というと、如何せん燃えやすいというイメージも拭えませんが、そこは耐火性のある膜材で覆ったそうです。


「避難所用間仕切りシステム」より紙管

後半は坂の災害支援の取り組みです。紙管は安価。また工業製品として一度に大量生産することができます。そのため仮設住宅を建てるための素材としても重宝されるようになりました。


「紙のログハウス 神戸」 1995年 日本
 
阪神・淡路大震災の被災者のために作られたのが「紙のログハウス」です。壁と小屋組が紙管、屋根はテント膜、そして基礎には何と砂袋を詰めたビールケースを使用しています。再利用品の有効活用です。建設も解体もさほど時間はかかりません。


「紙の教会」 1995年 日本

同じく震災時に神戸に建てられたのが「紙の教会」です。並ぶのは59本の紙管。建材は企業から寄付を受け、建設にはボランティアが募られました。おおよそ5週間で完成したそうです。


「キリンダ村復興プロジェクト」 2007年 スリランカ

こうした坂の活動は何も日本だけに留まりません。世界各地で災害が起こる度に行動を起こしています。また一時的な仮設住宅だけでなく、より長いスパンで利用可能な住宅も提供しました。一例が2007年の「キリンダ村復興プロジェクト」です。場所はスリランカ南東部、海岸沿いの村です。災害とはかのスマトラ沖の大地震です。津波で家を失った現地住民のため、復興プロジェクトとして67棟の住宅を建設しました。


「女川町仮設住宅」 2011年 日本

そして東日本大震災です。コンテナを活用した「女川町仮設住宅」では住宅用地の不足を解決するため、多層型、つまり2、3階建ての住宅を建設。海上輸送用のコンテナを積み上げて作りました。


「JR女川駅」 2011年 日本

また女川町では再建された駅舎も坂が設計したそうです。イメージは鳥が翼を広げた姿。内部には駅や売店だけでなく、町営の温泉施設までが入っているそうです。カーブしては建物を覆う木の屋根の存在感が際立っています。


「避難所用間仕切りシステム」 

坂が考案して実際に利用された避難所用間仕切りシステムを体験することが出来ました。紙管の長さは梁も柱も180センチ。家族の人数などに応じては必要なサイズに合わせられるようになっています。


「避難所用間仕切りシステム」

仕切りシステムは災害が起こる度に改良されています。よって幾つかのバリエーションがありました。もちろん日常と隔絶した避難所での生活は被災した方にしか分かりません。ただそれでもこうしたシステムに触れることで、坂がいかにして災害時にアイデアを出し、行動したのかを、より臨場感のある形で知ることが出来るのではないでしょうか。


「ネパールプロジェクト」 2015年 ネパール

今年4月に起きたネパール地震でも坂は被災者向けの住宅の開発を行っています。最初のプロトタイプが発表されたのは10月下旬。今後、必要とする地域に提供するほか、学校などの建設も手がけていくそうです。


「避難所用間仕切りシステム」

あまり広くないスペースではありますが、写真や解説は充実。模型は多くありませんが、先の避難所システムのほか、紙管の実物なども見ることが出来ました。現在進行形で活動する坂の「今」を知るにも重要な展示と言えそうです。


「坂茂ー紙の建築と災害支援」会場入口

入場は無料です。12月20日まで開催されています。

「坂茂ー紙の建築と災害支援」 世田谷文化生活情報センター生活工房@setagaya_ldc
会期:11月28日(土)~12月20日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~19:00 *最終日は17時まで。
料金:無料
住所:世田谷区太子堂4-1-1 キャロットタワー3F・4F。
交通:東急世田谷線三軒茶屋駅よりすぐ。東急田園都市線三軒茶屋駅より徒歩3分。
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