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「インゴ・マウラー」展 東京オペラシティアートギャラリー 9/10

東京オペラシティアートギャラリー新宿区西新宿3-20-2
「光の魔術師 インゴ・マウラー」展
7/8-9/18



「光の魔術師」と記されていたので、以前、原美術館で見たエリアソン展のような雰囲気なのかと勝手に思いこんでいましたが、実際にはかなり違いました。ドイツ生まれの照明デザイナー、インゴ・マウラー(1932-)による、主に、近未来系、SFテイストな照明とインスタレーションの並ぶ展覧会です。



まずは、電球をそのまま利用した照明作品のコーナーです。メタリックな素材と、無機質に輝く電球の組み合わせ。そこにマウラーの奇想天外な遊び心が加味されていきます。電球がまるで天使のように羽を生やしている。鵞鳥の羽を使ったシャンデリア、「バース・バース・バース」(1992)には驚きました。一体、どうやってこのような奇抜な照明を考え出すのでしょう。マウラーの頭の中をのぞいてみたいものです。



大きな傘から赤い光のもれる「ヘンリー・ハドソン・ドーム」(2000)と、まるでダイヤをガラスに散りばめたような「LEDのテーブル」(2003)はともに美しい作品でした。ちなみにこれらは、実際にミュンヘンの地下鉄駅やシャネルのショップなどで使われているのだそうです。照明が非日常の空間を演出する。日本の公共施設でマウラーを採用しているところはあるのでしょうか。是非、無機質極まりない東京メトロの地下空間を演出していただきたいと思いました。

照明デザインの展覧会でまさか金魚を見るとは思いもよりません。インスタレーションの「タブロー・シノワ」(1989)です。水流によってクルクルと回転するボードと金魚。正面にその光景が反射していました。水紋の靡く中を金魚が涼し気に泳ぎ回り、光が美しく照らし出される。実は今ひとつコンセプトが分からなかったのですが、ともかくその金魚と光のコラボレーションは素直に美しいと思います。ちなみにこの金魚は、毎日毎日、観客に囲まれていると疲れてしまうので、夜になるとしばしば近くの金魚店へ里帰りするのだそうです。これは金魚たちも大変です。展示の最後まで元気でいてくれることを願います。

 

ミュージアムショップでは販売されていましたが、マウラーの照明は一般の照明店でも手に入れることが出来るようです。お値段はそれなりでしたが、一つ家に置いてみたいと思わせる作品もありました。「カンパリ・ライト」(2001)などが食卓の上を飾っていたらお酒も進みそうです。

照明の世界の奥深さを見ることが出来ました。インテリアなどにご関心のある方には特におすすめしたいと思います。今月18日までの開催です。
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伊藤若冲派 「樹花鳥獣図屏風」 静岡県立美術館

静岡県立美術館
「伊藤若冲派 - 樹花鳥獣図屏風 - 」

静岡県立美術館所蔵の伊藤若冲(1716-1800)派「樹花鳥獣図屏風」です。美術館の図録に伊藤若冲派(ITO Jakuchu School)と紹介されていたので、拙ブログでも則っておきました。

一目見て真っ先に感じたのは、作品の状態が良くないと言うことです。表面は所々剥げ落ち、升目も絵具によって潰れている箇所が目立ちます。また、升目の彩色自体も粗く、升目の中に描かれた四角形がかなり崩れていました。どうやらこればかりは、先日拝見したプライス展の「鳥獣花木図屏風」の方が優れているようです。おそらくそちらの方が全体的に色付きが良く、また傷みも少ないのではないでしょうか。今後の保存や展示の行く末が心配になりました。これでは公開される機会が少ないのも仕方ありません。



画題はほぼ「鳥獣花木図屏風」と同じです。ただしその構図感は圧倒的に「樹花鳥獣図屏風」の方が優れています。特に鳳凰を取り囲んだ左隻は一目瞭然です。中心で構える鳳凰は目も艶やかで、その胴体もまさに筋肉隆々。緑のマフラーを巻いたような首筋から、美しい色のグラデーションを描く股の部分まで、非常に引き締まった体つきをしています。そして羽がダイナミックに靡く様子も圧巻です。特に後方へと伸びる二枚の羽が、まるで大蛇のように生々しくうねるのは見事でした。それに羽の一部は、体の方へと折り返すような表現を見せています。この半ばオーバーアクションとも言える羽の描写は、例えば動植綵絵の「旭日鳳凰図」などと良く似ています。これでこそ若冲の鳳凰と言えるのではないでしょうか。



左隻の核である鳳凰を取り囲む孔雀や鶏などの配置も適切です。鶏は大きく足を広げ、鳳凰を鋭い眼差しで見つめています。そして長く伸びる孔雀の羽や雉の尾は、まるで刃物のように尖った鋭く描かれていました。また、首を奇妙に傾げて鳳凰を覗き込む鵞鳥(?)も、あたかもそれを引き立てているかのように存在しています。それに鳳凰を見ていない鳥も、例えばその左下にて尾を伸ばす雉のように、睨みつけるような目でこちらを向いているのです。そして背景の水辺へ浮かぶ水鳥も、それこそ動植綵絵の「秋塘群雀図」のような一定のリズムを示しています。さらに付け加えれば、ここには「鳥獣花木図屏風」の左隻にあるような、画面構成上、殆ど不要とも思える鶴は描かれていません。動物をたくさん詰め込むことよりも、全体の構図感の方が優先されています。(絵の中に登場する動物や鳥の数も「鳥獣花木図屏風」より少ないようです。)この作品の見通しが良いのも、動物の配置が決して散漫になっていないからではないでしょうか。ようは、構図に、若冲ならではの緊張感を見出すことが出来るのです。



右隻でまず印象的だったのは、両端にある鹿と木の描写でした。鹿の首が「鳥獣花木図屏風」よりも二倍ほど長く突き出しています。そして木の表面を覆う色のグラデーションです。まるで流水紋様のような曲線が美しく描かれています。頭上を飾る緑をしっかりと支えていました。



中央にてどっしりと構える白象を中心に、右隻の動物は総じて険しい表情をしています。白象から首を突き出す猪は牙を剥き、その上の熊も、まるで何かを睨みつけるかのように振り返っていました。また動物の目は、それぞれまるで青い宝石をはめたように輝いています。どうやら動物たちの可愛らしさという点に関しては、「鳥獣花木図屏風」の方に軍配があがるようです。ば「樹花鳥獣図屏風」は全体的に線が鋭く、動物たちの体つきはかなりシャープです。丸みをあまり帯びていません。左上にて木からぶら下がる獣も、その細長い手を伸ばし、まるでブランコのようにぶら下がっていました。ただし白象の下にいる二匹の子犬だけは例外です。これだけは応挙の犬も真っ青なほどに可愛らしい姿を見せています。コロコロと転がるような丸い犬が戯れ合っていました。

「鳥獣花木図屏風」では目立っていた白象の上の敷物がありません。白い巨体をそのままに露にしています。ちなみにプライス展ではこの敷物の存在を、「ここが野生そのものの楽園ではないことがわかる。」として、それを仏教的意味の観点から定義付けていました。ただ私には、むしろ単にない方が白象の異様な存在感、ひいては人為的なもののない動物たちだけの楽園という印象が増すのではないかとも思います。如何でしょうか。

 

色のコントラストが「鳥獣花木図屏風」より優れています。カラフルな色に動物たちが埋もれることはありません。また「鳥獣花木図屏風」よりもはるかに立体的でかつ艶のある花々が、まるで絵の額のように画面を取り囲んでいます。それに背景の透き通るような青みも適切です。色付きは良くなくとも、その薄い青が手前のカラフルな動物や鳥を際立たせています。どうやら「鳥獣花木図屏風」の青は強過ぎるようです。あれでは色に動物が潰されてしまいます。

いわゆる升目描の作品は、散逸してしまったものを含めて僅か4点しか確認されていないそうです。当然ながら、若冲の手が入っているかどうかについては専門家の判断を仰ぐ他ありませんが、少なくとも絵自体は断然「樹花鳥獣図屏風」の方が魅力的だと思います。ただし今回この二点を拝見して改めて感じたのは、升目描の作品は決して若冲の最高峰ではないと言うことでした。この技法による作品が結果的に少なかったのは、あくまでも一種の創作の実験として作られたものに過ぎなかったからではないでしょうか。確かに驚くべき技法ですが、奇想天外な構図の中に冴え渡る線が渦巻く「動植綵絵」には遠く及ばないと思います。

今年の「樹花鳥獣図屏風」の公開は既に終えています。次の公開は、来年のゴールデンウィーク期間中を予定しているそうです。(他館への貸し出し予定も当分未定だそうです。)
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「小林正人『初期作品』展」 シュウゴアーツ 9/9

シュウゴアーツ江東区清澄1-3-2 5F)
「小林正人『初期作品』展」
9/2-16

以前、このギャラリーで個展を拝見して印象深かった小林正人の個展です。今回は、氏の初期の頃(1982-92)の作品が並んでいました。



前回の展示では、キャンバスが木枠から「解放」されていましたが、今回はどの作品もごく普通に枠の中へ収まっていました。朧げに浮かび出す赤や黄色の波。まるでしみのような色の美しいグラデーション。飲み込まれてしまいそうな色の渦がキャンバスをうごめいています。ただしその渦はあくまでも穏やかです。

遠目で眺めると、その色の波から人物が浮かび上がって見えるような作品がありました。しかし、それは前回の「ヌード」の展示のように、明らかに裸体の女性が描かれているわけではありません。あくまでも朧げにその気配を感じさせるだけです。いるかいないのか分からない。見えているようで見えていない。迷います。錯覚かもしれません。

小林の作品はMOTの常設でも拝見したことがありますが、いつ見てもふと目線を誘われるような魅力をたたえています。今週の土曜日までの開催です。また、神楽坂の高橋コレクションでも個展が開催されています。(ここにアップした画像はそちらの展覧会のハガキです。)

*関連エントリ
「小林正人『ヌード』」 シュウゴアーツ 3/4
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「三瀬夏之介展」 Bunkamura Gallery Arts&Crafts 9/9

Bunkamura Gallery Arts&Crafts渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura1階メインロビー)
「三瀬夏之介展 - web UFO - 」
8/28-9/10

MOTアニュアル展での奇想天外な巨大絵巻が記憶に新しい三瀬夏之介の個展です。「Bunkamura Gallery」にあるショップの中で開催されています。(同フロアのカフェ右手奥にも展示があります。)際限なく続くようなマキシマムな絵が、一転してミニマムを意識させる世界へと変わっていました。ぼんやりと浮かぶUFOのシルエットが、あたかも標本化されたように箱へ閉じ込められています。これはもはや絵というよりもオブジェです。



絵のモチーフは、タイトルの通りUFOや、今やすっかり忘れ去られてしまったネッシーでした。それが、約15センチ四方の木枠に収まった和紙の上にへ描かれている。ただしその素材はもはや和紙に見えません。樹脂が丹念に塗り込まれ、もはや陶のような質感すら漂わせています。キラキラと煌めく星に囲まれたUFO。それを、まるでアメーバように広がるエメラルドグリーンの物体が浸食します。またネッシーも同様です。首の突き出したその絵姿から、まるで涙が滴り落ちるようにエメラルドグリーンが垂れている。「web UFO」は、そんな一つずつ解体された幻影が、それこそUFOの形をして集まった作品でした。ただし切り刻まれているのでもう飛べそうもありません。

三瀬と言うと、私の中にはどうしても大きなドローイングのイメージがあるのですが、この個展でも、ミニマムなオブジェ風絵画がたくさん集まって巨大化した作品が展示されていました。それが2メートル四方はあろうかという、まるでタイル壁画のような「奇景」です。縦8枚、横10枚の「陶風和紙」の上へ積み重なった、9重とも、また10重とも見えるような「超高層版五重塔」。それが近代的なビルの並ぶ景色の上へ、あたかも古代からタイムスリップして来たように突き出しています。この塔は夕陽を浴びているのでしょうか。緑から、燃えるような赤へと美しいグラデーションを描いていました。ちなみにこの塔のモチーフは、もう一点、小さなサイズでありながらもさらに屋根の積み重なった作品で拝見出来ます。そちらもまたエメラルドグリーンのドットが浸食していました。

どれも一つずつ手に取って確かめたくなるような作品です。展示会場が二つに分散されていたのが少し残念(特にカフェの奥の展示は目立ちません。案内が不十分です。)でしたが、アニュアル展へ行かれた方は是非おすすめしたいと思います。今日までの開催です。
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「長沢明展」 ガレリアグラフィカ 9/9

ガレリアグラフィカ中央区銀座6-13-4 銀座S2ビル)
「長沢明展」
9/4-16

今年のMOTアニュアルにも出品があった長沢明の個展です。率直に申し上げて、アニュアル展の時はあまり印象に残らなかったのですが、今回は記憶に残る作品もいくつかありました。



長沢のモチーフと言えば、まるで怪物のような犬が挙げられるかと思いますが、今回の展示でもまた、画面を所狭しと這う巨大な怪物犬が何匹もうろうろしていました。目は真ん丸で、時に闇夜の猫のように鋭く光り、また牙を剥いた口を開けてこちらを見つめている。素材としては、岩絵具の味わいはもちろんのこと、それと交じり合った土の質感が上手く表現されています。パネルの目地が剥げ落ち、また絵具が固まり、土が微かにまぶされている。日本画の専門的な技法については全く分かりませんが、このような、それこそ泥臭さを感じさせる質感は見ていて飽きません。

それにしてもこの怪物の異様な形相だけは好きになれません。飢えているのか、それとも暴れているのか。首輪をしっかりとはめて歩いていても、少し油断したらこちらが食べられてしまいそうです。

来週の土曜日までの開催です。
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「コレクション 20年の熱情2 時代を超える個性」 静岡県立美術館 9/2

静岡県立美術館静岡市駿河区谷田53-2
「コレクション 20年の熱情2 時代を超える個性 - 若冲、クレーから戦後アメリカ美術まで - 」
7/26-9/3(会期終了)



ズバリ、若冲の「樹花鳥獣図屏風」を見るために行きました。静岡県立美術館の所蔵品のみで構成された展覧会です。「樹花鳥獣図屏風」の感想はまた別エントリにアップしたいと思いますが、展覧会自体も予想以上に見応えがありました。作品の並べ方、またはその見せ方に美術館側の強い熱意を感じます。優れた企画です。



まず、初めの展示室にていきなり見せてくれたのが、「若冲VS草間VSヴラマンク」のガチンコ対決コーナーでした。鮮やかな「樹花鳥獣図屏風」の前に披露されたのは、草間彌生の「最後の晩餐」(1981)です。赤、青と、色とりどりに映えるドット付きのダイニング・オブジェ一式が、「樹花鳥獣図屏風」の色彩感と呼応してさらに輝き出します。そして、もう一点が、オレンジ色のタッチが画面を波打つヴラマンクの「小麦畑と赤い屋根の家」(1905)です。こちらは、そんな草間VS若冲の真っ向勝負に押されてやや分が悪そうでしたが、ブラマンクとしては珍しいとも言える明るい色彩感が展示空間を引き立てていました。それにしても、草間と若冲を同じ空間で並べることなど思いもよりません。導入にクリムトが使われた東京国立近代美術館の「RIMPA」展を思い出させます。驚きました。



また草間と言えば、もう一つ、グレーのキャンバスの上を白い絵具が丸く這う「無題」(1959)も印象的でした。こちらは「白の世界」と題されたコーナーにて、李禹煥の「線より」(1979)とこれまた対決しています。そして、そんな「草間VS李」をまるで微笑ましく見るかのように置かれていたのが、円山応挙の「竹雀図屏風」(1785)でした。雨に打たれ、幻想的に佇む竹林の趣き。草間の「無題」が、まるで虫が蠢いているようにガサガサと音を立てているなら、李の「線より」はサラリと頬をなぞる風の感触、そして応挙の「竹雀図」は、湿った土に生い茂る青竹の香りのイメージでしょう。応挙と李を並べるなど私には最高の贅沢です。参りました。



木場のMOTでも印象深いドナルド・ジャッドの作品が、何と静岡県美では和室に展示されています。畳を前にした「無題」(1990)。同じくその和室には、狩野永祥の「山水図屏風」(19世紀後半)が、ガラスケースを使わずに、畳の上へ直に置くような形で展示されていました。畳の上とはプライス展も真っ青です。しかも作品は、手を伸ばせばすぐに届きそうな位置にある。左を振り向けば畳から伸びるジャッド、正面を向けば狩野永祥の美しい図屏風。ここはじっくり正座して拝見しました。人混みの中で押し合いへし合い作品を眺めるのではなく、静かな和室にて凛とした気持ちで見入ること。これぞ美術を楽しむ真の喜びです。

その他、「光の演出」付きの狩野派の作品、または静岡ならでの富士を画題をした作品も拝見出来ました。広々とした、ゆとりある空間で見る、思いがけない切り口で展示された作品たち。見慣れた日本画も、斬新なコンテンポラリーに接するような気持ちで楽しめます。「樹花鳥獣図屏風」だけでない、見所満載の展覧会でした。

*関連エントリ
「静岡市内美術館巡り 2006」 その1『静岡県立美術館』
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カフェレストラン「エスタ」 「栗モンブラン」 9/2

カフェレストラン「エスタ」
静岡県立美術館
栗モンブラン+アイスコーヒー

静岡県立美術館内にある雰囲気の良いレストランです。駅からの坂道で火照った体を少し冷ますことが出来ました。窓からは、眩しいばかりの緑を望むことも出来ます。(ただしお馴染みの富士山は見えませんが…。)美術館同様に見晴らしの良いレストランです。



こちらは店内の奥の部分です。窓際の席はいっぱいだったので…。

甘いものに目がないもので、早速、他の美術館のカフェでもお願いするようにケーキセットを注文しました。ケーキは栗モンブラン。クリームは抹茶でしょうか。これは静岡に来た甲斐がありました。(?)なかなか美味。アイスコーヒー(こちらはごく普通のお味です。)との相性もバッチリでした。


モンブランとアイスコーヒー。


くりの下には抹茶クリームが!


日本平ホテルの直営レストランです。本格的な食事も出来ます。(ランチは1000円程度から。)また、各企画展に合わせたコースメニューも用意されていました。次回はナスカ展とのことで、ペルー料理がアナウンスされています。そちらはどうなのでしょうか。

店内を演出するちょっとした小物も見逃せません。作品ポストカードや、「樹花鳥獣図屏風」のミニチュア屏風などが控えめに飾られていました。また展覧会の図録も常備されています。これも有難い気配りです。意外にも他の美術館ではあまり見かけません。是非やっていただきたいです。

次回、いつになるのかは分かりませんが、また機会があれば是非利用してみたいと思いました。
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「不思議の国・沖縄と芹沢けい介」 静岡市立芹沢けい介美術館 9/2

静岡市立芹沢けい介美術館静岡市駿河区登呂5-10-5
「不思議の国・沖縄と芹沢けい介」
6/10-9/3(会期終了)



染色工芸家、芹沢けい(金へんに圭)介(1895-1984)と、沖縄の染め物、つまり紅型との関係を概観する展覧会です。芹沢は紅型に深く感銘し、自身の制作の基盤として終生尊重し続けました。紅型に由来する鮮やかな色彩と、芹沢の洒落たデザインのコラボレーション。紅型を含む約90点の芹沢作品と、彼の蒐集した沖縄の工芸品が60点ほど並びます。見応え十分でした。

芹沢が初めて沖縄へ渡ったのは1939年のことです。その際、約2ヶ月間ほど滞在して紅型の技を習得しました。そして彼は、紅型だけではなく沖縄の風土そのものを愛します。その後も、何度となく沖縄へ向かい、芹沢風紅型とも言うべき染め物を制作し続けました。私は紅型を、また芹沢の作品をまとめて見るのは初めてですが、どれも沖縄の眩しい光を感じさせるような鮮やかな色彩が印象的です。まずはその色に惹かれます。



「那覇大市」(1940年頃)の美しさは格別です。真っ白い生地の上へ色鮮やかに描かれていたのは、賑わう那覇の市場の様子でした。まるで燃えるように赤い屋根と、その下に並んだカラフルな布地や器。売り物でしょうか。頭に荷物を載せた人々がのんびりと行き交います。そして大きな傘の下に食べ物を並べる人たち。赤、青、黄色、緑の色の響宴。どれもまるで万華鏡のようにキラキラと輝いています。また、所々、抽象デザインのように配された葉っぱの表現にも注目です。芹沢のシャープなデザイン感覚が冴えています。





賑わう沖縄の市場から、さらにその文物を取り出して描いたような作品が「沖縄みやげ二曲屏風」(1971)です。ここでは、それこそ「那覇大市」の店頭に並んでいたような布地が大きく表現されています。また、制作年代は逆行しますが、「那覇大市」で行き交う人々をクローズアップしたような「沖縄三人女」(1939)も魅力的でした。盆や布地を器用に頭へ載せた女性が二人。杖をついた老人とともに連なって歩いています。前からそれぞれ、赤、緑、黄色の明快なグラデーションを描き、さらには皆、同じ図柄の服を着せて全体の統一感を図っている。素朴な光景が微笑ましくも感じられる作品です。

 

芹沢作品の魅力の一つに、まず今見たようなカラフルな色の面白さを挙げることが出来ますが、その一方で色のない、つまり黒だけで描かれた作品にも味わい深いものが感じられます。その一例が、この「壷屋窯開六人女」(1940年頃)です。一番左上の女性は窯を覗き込んでいるのでしょうか。それから順に、窯を頭の上へ載せて運んだり、手に持っている女性が描かれています。木版画、または切り絵を見ているような感覚です。また「沖縄風物」(1939)も黒が目立ちます。中央に描かれているのはこれまた沖縄の市場の光景でしょう。そしてそれを取り囲んだ12個の沖縄の文物。四角と円が対比されています。まるで曼荼羅のように見えました。

芹沢の創作史を紹介するビデオも優れています。彼の作品の変遷などについて簡単に解説する内容ですが、音楽にもじっくりと耳を傾けて下さい。担当が現代作曲家の間宮芳生です。これは外せません。(このビデオは企画展の内容に関わらず、常に同じものが放映されていると思います。)

この企画展は既に先日終了してしまいましたが、芹沢けい介の作品は、千葉県柏市にある「柏市立砂川美術工芸館」でも多く拝見出来るようです。灯台下暗しとはまさにこのことでしょう。近場でしたがノーチェックでした。今度行ってみたいと思います。(また静岡でも、今、「静岡アートギャラリー」にて「芹沢けい介の生活デザイン」展が開催されています。こちらは今月24日までの開催です。)

先日のエントリでもご紹介した白井晟一の建物と合わせて、芹沢作品の魅力を存分に楽しめました。東名静岡インターからも近い(インターより車で10分弱。)ので、車でそちら方面へお出かけの際には立ち寄ってみても良いのではないでしょうか。おすすめです。

*関連エントリ
「静岡市内美術館巡り 2006」 その2『芹沢けい介美術館』+『登呂遺跡』
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「静岡市内美術館巡り 2006」 その2『芹沢けい介美術館』+『登呂遺跡』

静岡市立芹沢けい介美術館静岡市駿河区登呂5-10-5

もはや知らない人はいないのではないかと思うくらい有名な登呂遺跡ですが、その敷地公園内に、静岡の誇る染色工芸家、芹沢けい(金へんに圭)介を記念する美術館が建っています。静岡県立美術館と合わせて見学してきました。

静岡県美と芹沢けい介美術館のある登呂遺跡は、直線距離で約7キロほど離れています。直行するには車でないと無理でしょう。と言うわけで、遺跡へは、静岡駅、もしくは新静岡駅から出ている静鉄のバスを利用しました。ズバリ、登呂遺跡行きです。(本数が一時間に2、3本程度しかありません。時間には要注意です。)バスは、駅から平坦な住宅地を抜け、東名高速の方へと進みました。その間約20分ほど。終点の登呂遺跡に到着です。ちょうど遺跡の真ん前でバスが停まりました。高床式倉庫がいきなり目に飛び込んできます。ちょっとしたタイムスリップです。(?!)



復元高床倉庫です。


登呂公園内。広々しています。


復元住居。中へ入ることも出来ました。涼しい!


復元住居2


復元住居と登呂公園


登呂遺跡の名がこれほど知られているのはおそらく教科書の力が大きいのかと思いますが、言うまでもなくこの遺跡は、日本を代表する弥生時代の水田、集落遺跡です。1943年に発見され、その後も調査研究が行われましたが、現在は、登呂博物館、芹沢けい介美術館を含む登呂公園として整備されています。ここもまた思っていたよりも広大です。復元された住居や倉庫などが立ち並んでいます。それらの施設を見学しながら奥へ進むと、すぐに登呂博物館と芹沢けい介美術館が姿を現しました。殆ど隣り合った施設です。ここまで来たのに美術館だけでは勿体ない。せっかくなので登呂博物館へも行ってみることにしました。


左が登呂博物館、右が芹沢けい介美術館です。

この手の博物館というと、大概は、出土した品を適当に陳列して終わることが多いのですが、登呂博物館はちょっと違いました。さすがに有名な遺跡なので入場者も多いのでしょう。弥生人に扮した係の方と一緒に、火起こしをしたり、田下駄を履いたりすることの出来る体験コーナーが設けられています。もちろん参加費は入場料(200円!)さえ払えばタダ。少し時間がなかったもので私は遠慮したのですが、火起こしのコーナーには人だかりが出来ていました。(なかなか火が起きないようで難儀しておりましたが…。)この博物館は生きています。


黙々と火起こし!園内には弥生人の彫像がいくつもあります。

静岡市立芹沢けい介美術館の建物は洒落ています。設計が、あの松濤美術館を手がけた白井晟一(けいいち)と聞けば納得です。美術館を覆う石の外壁からして松濤美術館と良く似ていました。池のまわりを展示室が取り囲み、噴水と寒椿が水辺を演出する。一度、中へ入ってしまうと、外の景色が殆ど見えません。外部との連続性を退け、内部だけの独立した空間を包み込むように徹底して作り上げる。また、エントランス部分も松濤と同じです。あたかも洞穴へ潜り込むかのように、下へと降りて行きます。出口を抜けて再び受ける陽光が眩しい。瞑想するかのように作品と向き合える美術館でした。(美術館のサイトにも建物の写真が掲載されています。)


美術館入口。鬱蒼とした木立に石造りの塀が伸びています。


門を過ぎ、美術館の敷地内へ。整った木々と石塀がコントラストを描きます。


噴水、石塀、寒椿のコラボレーションです。非常に個性的な空間です。


美術館建物入口。まるで洞穴の入口です。


出口付近から敷地内をのぞむ。


展示は、芹沢の多彩な染め物作品と、彼がコレクションした品々で構成されていました。もちろんその作品も十分に見応えがありますが、木組みの温もりある天井や、丸みを浴びた石造りの展示室など、建物自体も非常に楽しめます。実は静岡へ行く直前まで、この美術館の存在を全く知らなかったのですが、これはわざわざ立ち寄って大正解でした。おすすめします。

展覧会の内容については、また後日まとめたいと思います。「静岡市立美術巡り 2006」シリーズはひとまずこれで終わりです。拙い写真を失礼しました。

*関連エントリ
「静岡市内美術巡り 2006」 その1『静岡県立美術館』
「不思議の国・沖縄と芹沢けい介」 静岡市立芹沢けい介美術館 9/2
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「静岡市内美術館巡り 2006」 その1『静岡県立美術館』

静岡県立美術館静岡市駿河区谷田53-2

東博のプライス展で「鳥獣花木図屏風」を見て以来、どうしてもその別バージョンである「樹花鳥獣図屏風」を確かめたくなりました。所蔵は静岡県立美術館、ちょうど先日までタイミング良く公開されています。もちろん静岡なら十二分に日帰り可能。と言うわけで先週末、いつもの美術館巡りの感覚で、静岡県立美術館と、同じく静岡市内にある芹沢けい介美術館へ行ってきました。まずは両美術館を、私の拙い写真と一緒にご紹介したいと思います。初めに静岡県立美術館からです。

静岡県立美術館は、ちょうど静岡市の名勝「日本平」を背にする形で建っています。辺りは住宅や畑、もしくは林の混在するなだらかな丘陵地帯です。また、美術館の近くには、中央図書館や県立大学なども並んでいました。率直に申し上げて、市中心部からのアクセスは良くありませんが、その風光明媚なロケーションはなかなか優れています。JR線なら東海道線「草薙駅」からバス便、また静岡鉄道なら「県立美術館前駅」から徒歩15分です。そしてここは迷わずに後者の静岡鉄道を選択しました。旅先ではなるべくその地元の交通手段を使うのが私のモットー(?)です。

県立美術館駅へは、静岡市中心部の新静岡駅から約10分程度で到着します。運賃は170円。平日・土日とも、昼間は約6分間隔で運行されていました。私の最寄りの下手な路線よりはるかに使い勝手が良い鉄道です。2両編成の可愛らしい電車に揺られながら、時折見え隠れする富士山を望みつつ、美術館前駅まで車窓を楽しみます。静岡は殆ど土地勘のない場所なので、目に飛び込んで来る景色は新鮮でした。



駅から美術館への道のり。

駅からは日本平へと向かうなだらかな坂道を進みます。歩道の整備された美しい並木道です。雰囲気の良さそうな喫茶店や雑貨店が点在していました。途中、少し坂がキツくなる箇所がありますが、これなら歩いていて飽きることはありません。ぶらぶらと歩き進むこと約10分。秋の日差しを受けながらの愉しい散歩道。ちょっと汗ばんできた頃に、ちょうど美術館や図書館を含む広大な公園が見えてきました。


公園入口です。緑が目に染みます。

公園内からは木陰の爽やかな「彫刻プロムナード」を進みます。ここには、舟越保武や清水九兵衛らの立体作品が約10点ほど展示されていました。プロムナードを抜ければそこは美術館の真ん前。それにしても立派な美術館です。まさかこれほどとは思いませんでした。


舟越保武「杏」(1982)


大西清澄「濤の塔」(1985-86)


トニー・スミス「アマリリス」(1965)と静岡県立美術館。


ここのコレクションはなかなか優れています。ロラン、ロイスダールからクールベ、ヴラマンク、応挙に探幽に広重、大観、さらには須田国太郎から長谷川潔、高松次郎に李禹煥まで。名前を挙げてしまうとキリがありませんが、洋の東西、または年代を問わずに幅広く作品を蒐集しています。そして最後には名物のロダン。ロダン館と名乗る広々とした別棟に、その名作がズラリと揃います。企画、常設、ロダン館の全てをゆっくり拝見すれば3時間ほどはかかるかもしれません。東京国立近代美術館の企画+常設をじっくり見るくらいの心構えは必要です。(?)

展覧会、もしくは「鳥獣花木図屏風」の感想はまた後日へ廻します。次のエントリ、その2は、芹沢けい介美術館と登呂遺跡です。

*関連エントリ
「静岡市内美術館巡り 2006」 その2『芹沢けい介美術館』+『登呂遺跡』
「コレクション 20年の熱情2 時代を超える個性」 静岡県立美術館 9/2
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9月の予定と8月の記録

若冲に燃えた夏(?)も終わりました。7、8月と、しばらく遠ざかっていたコンサートへもそろそろ足を伸ばしたいと思います。今月の「予定と振り返り」です。

9月の予定

展覧会
「コレクション20年の熱情2 - 時代を超える個性」 静岡県立美術館(9/3まで)
「不思議の国・沖縄と芹沢けい介」 静岡市立芹沢けい介美術館(9/3まで)
「インゴ・マウラー」 東京オペラシティアートギャラリー(9/18まで)
「花鳥の詩」 山種美術館(9/24まで)
「宗達・光琳・抱一 - 琳派芸術の継承と創造」 出光美術館(9/9-10/1)
「Gold - 金色の織りなす異空間」展 大倉集古館(10/1まで)
「智美術館大賞 現代の茶陶 - 造形の自由と用の見立て」 智美術館(10/15まで)
「モダン・パラダイス」 東京国立近代美術館(10/15まで)
「ピカソとモディリアーニの時代」展 Bunkamura ザ・ミュージアム(10/22まで)

コンサート
新国立劇場2006/2007シーズン」 ヴェルディ「ドン・カルロ」 9/7-21
東京都交響楽団第631回定期Aシリーズ」 プロコフィエフ「イワン雷帝」 9/14
NHK交響楽団第1577回定期Cプロ」 ショスタコーヴィチ「交響曲第10番」他 9/22


8月の記録(リンクは私の感想です。)

展覧会
 6日 「旅と画家」 山種美術館
 7日 「ポップアート 1960’s→2000’s」 損保ジャパン東郷青児美術館
 13日 「アフリカ・リミックス」 森美術館
 13日 「ヨロヨロン 束芋」 原美術館
 19日 「マギー 『THIS IS MORE』他」 トーキョーワンダーサイト
 20日 「近代絵画の巨匠たち」 泉屋博古館・分館
 20日 「花鳥風月」 ホテルオークラ東京
 26日 「ジャナイナ・チェッペ」展 トーキョーワンダーサイト渋谷
 27日 「川瀬巴水展」 ニューオータニ美術館
 27日 「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第5期」 三の丸尚蔵館
 00日 「若冲と江戸絵画」展(正統派絵画/京の画家/エキセントリック/江戸の画家/江戸琳派/特別展示

ギャラリー
 5日 「'Swimming Pool' 藤芳あい」 ヴァイスフェルト
 5日 「new acquisition」 オオタファインアーツ
 12日 「森山大道」展 タカ・イシイギャラリー
 12日 「エルネスト・ネト」展 ギャラリー小柳+小山登美夫ギャラリー
 26日 「BLOGRAFFITI 2004-2006」 キャスパーズギャラリー

静岡県立美術館+芹沢けい介美術館は、既に昨日拝見して来ました。もちろん一番のお目当ては、静岡県美で本日まで公開されていた若冲の「樹花鳥獣図屏風」です。近日中に記事をまとめたいと思います。

8月はともかくプライス展です。非常に見応えがあったので、その分、拙い感想も長くなってしまいました。その他では、同じく若冲の三の丸「動植綵絵」はもちろんのこと、原美術館の「束芋」展がまだ強く記憶に残っています。また、巴水の回顧展も講演会と合わせて印象的でした。千葉市美術館での展覧会からタイミング良く拝見出来て好運です。

今月のコンサートは、ヴェルディの中でも私が特に好きな「ドン・カルロ」を一番に挙げたいと思います。大変失礼ながら、指揮のマルティネスにあまり良い印象がないのですが、何せこのオペラを実演で見るのは初めてです。ここは祈るように勝手に期待させていただきます。

都響+デプリーストの「イワン雷帝」は今年の目玉なのでしょうか。サイト内に特設ページまでつくられました。これは必ず聴いてきます。(ポンテに出ていました。)また、アシュケナージのタコ10は都合がつけば行く予定です。

それでは今月も宜しくお願い致します。
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「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第5期」 三の丸尚蔵館 8/27

宮内庁三の丸尚蔵館千代田区千代田1-1 皇居東御苑内 大手門側)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第5期」
8/12-9/10

ついに最終回、第5期を迎えた三の丸尚蔵館での「花鳥」展です。今回はまず、応挙、徹山、若冲の「孔雀対決」から挙げたいと思います。

 

孔雀図と言えばやはり真っ先に応挙を推すべきかもしれませんが、その弟子である森徹山の「孔雀図」(18-19世紀)もなかなか優れています。その特異な構図感。雌の孔雀をただそれだけシンプルに描くとは珍しい。また雄も、尾をまるで旗のように高らかに掲げていました。そして背景に控えるのは、足元に僅かに生い茂る草だけです。このシンプルな構図の妙。もちろん、牡丹に囲まれながら尾を雅やかに披露する応挙の「牡丹孔雀図」(1776)も見事ですが、あえてそれと真っ向勝負せずにオリジナリティを追求したような「孔雀図」も印象に残りました。さてどちらが良いでしょうか。



三羽の中で、唯一真っ白に輝いていたのは若冲の「老松孔雀図」(作品番号2-9)です。彼らしいシャープな線によるスリムな孔雀。首は細く、また長く突き出し、足はまるで鋼のようにピンと伸びている。そして身に纏うのはやや黄金色を帯びた白いドレスです。その透き通るような鮮やかな質感。前方へ大きく垂れ下がった羽は、まるで一つ一つを白い糸で束ねたように連なっています。ちなみに孔雀の口は応挙も徹山も閉じていますが、この若冲だけは大きく開いて吼えていました。それにヒョイと片足をあげているのもお馴染みの動きです。この辺の細かい表現もまた彼ならで魅力かと思います。

以下、上で挙げた「老松孔雀図」を除く「動植綵絵」の感想です。少し長くなりました。


「芙蓉双鶏図」(作品番号2-10)

ともかく変な格好をした雄と雌鶏です。雌鶏が下から雄を覗き込むかのように首を曲げているのはまだしも、何故、雄は体操選手のように頭を180度回転させているのでしょう。鶏冠部分から回転した背中、さらにはその先の羽にかけて、ちょうど円を描くような曲線が美しく伸びています。そして上からその様子を見下ろす可愛らしい小鳥。赤と青のツートンカラーが目立っていますが、彼の視線はちょうど雄、雌の目の位置へと向かっています。またツタがクルクルと回転するような花の様子(特に画面の左下部分です。)も面白い。絵の中の動線にも注意して見たい作品でした。


「薔薇小禽図」(作品番号2-21)

赤、ピンク、白などの色とりどりのバラが、まさに滝のようになって流れ落ちています。そしてそのバラの枝の上で、とても気持ち良さそうに踊っている小鳥が一羽。やはり片足をあげていました。お馴染みの決めポーズです。それにしても、バラの花の部分へ垂れ込んでいる黒い物体は何でしょうか。(岩?)良く分かりません。


「群魚図(蛸)」(作品番号2-27)

下の「群魚図(鯛)」と対になる作品です。メインは中央部分の巨大なタコ。吸盤をたくさん付けた足が水にゆらゆらと揺れていますが、その一つだけ長く伸びた足先に注目です。この作品の陰の主役である子ダコが、足を器用に絡めて吸い付いていました。もう絶対に離れないぞと言わんばかりくっ付き方です。ユーモアにも富んでいます。


「群魚図(鯛)」(作品番号2-28)

こちらは蛸と比べると真面目な作品と言えそうです。子連れの魚は泳いでいません。鯛の腹の部分の白さが際立っています。それこそ初めに挙げた孔雀の羽のように光り輝いていました。


「紅葉小禽図」(作品番号2-30)

まだ紅葉にはかなり早いのですが、これから訪れる秋の情緒を先取りさせてくれる作品です。直線的に交差する枝に、紅葉がやや控えめに色付いている。葉は、まるで上から色紙を貼ったかのように浮き出て見えました。そしてその色は、赤、朱、それにまだ緑のものと多種多様。軽快な色のリズムを刻んでいます。また、ひらひらと落ちていく一枚の葉も味わい深い。赤にも映える青い小鳥が、贅沢にも紅葉狩りをしていました。鮮やかな色を用いながらも、若冲にしてはとても落ち着いた風情を見せる作品です。

三月から見続けてきた動植綵絵も、約半年ほどかけてその全てを拝見することが出来ました。ちなみに来年5月からは、全30幅がまとまった形にて承天閣美術館(京都・烏丸今出川、相国寺内。)で公開されます。そちらも是非行ってみたいです。

さて、全て見終えたと言うことで、早速「BLUE HEAVEN」で企画進行中の「動植綵絵人気投票」に参加してみました。動植綵絵の中から好きな一作品を選ぶというこの究極の選択にはかなり迷ってしまいますが、結局「老松白鳳図」へ投票することにします。私としては、この作品と一緒に、「菊花流水図」、「紫陽花双鶏図」、「池辺群虫図」の三点を、特に好きな作品として挙げておきたいです。もう殆ど甲乙付けることが出来ません。

晩春から楽しませてくれた動植綵絵ともしばしおさらばです。また「花鳥」展全体では、若冲だけでなく、抱一の「花鳥十二ヶ月図」や伝銭選の「百鳥図」なども印象に残りました。終ってしまうのが名残惜しい。第5期は今月10日までの開催です。

*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」 三の丸尚蔵館 第1期(4/9)第2期(5/22)第3期(6/18)第4期(7/16)
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「太陽の塔」と「明日の神話」

先日まで汐留で公開されていた岡本太郎の壁画「明日の神話」を、大阪府吹田市が誘致しようと正式に名乗りあげたようです。これまで、その大きさ、または公開・保存の難しさから、展示先がなかなか決まらなかったそうですが、これで本決まりとなるのでしょうか。

岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」誘致 吹田市が名乗り(asahi.com)
岡本太郎さん壁画「明日の神話」 吹田市、誘致に名乗り(Sankei Web)

吹田市内の万博記念公園には、誰もが知る岡本太郎の超有名作「太陽の塔」も展示されています。市では、それと合わせる形で展示する意向を示しているようです。国立国際美術館が大阪・中之島へと移転して少し寂しかったこの公園も、また「明日の神話」の登場で、さながら岡本太郎の新たな聖地として再整備、もしくは記憶されていくのかもしれません。

 

現段階で、正式に誘致へ動き始めた自治体は吹田市だけです。ただ、民間レベルでは長崎市や広島市などでも誘致活動が続いています。記事によれば、正式に決まるのは2011年頃。私など、川崎市の岡本太郎美術館はどうかとも思いましたが、おそらくスペース的に無理なのでしょう。それにしても、これだけの作品となると、その保存などには相当の費用がかかると思います。(太陽の塔もかなり老朽化していると聞きますが…。)その裏付けを明確にした上で、なるべく早く落ち着き先が決まればと思いました。

*関連エントリ
岡本太郎の「明日の神話」と「汐留アート塾」 inシオサイト:(先日私もこの壁画を拝見してきました。)
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