ヴォルフガング・ライプ 「米の食事」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
常設展示
「ヴォルフガング・ライプ - 米の食事 - 」(1998)

2003年に東京国立近代美術館で開催された「ヴォルフガング・ライプ」展をご記憶の方はいらっしゃるでしょうか。実はそれこそが、私が現代アートにハマる(?)切っ掛けともなった展覧会ですが、今、同美術館の常設展示に「米の食事」(1998)が出品されています。ライプの作品が常設展に登場したのはおそらく初めてです。



ドイツ生まれのヴォルフガング・ライプ(1950-)は、初め医学の道を志しながらも後に芸術家へと転向したという、やや異色の経歴を持つアーティストです。彼の作品は、一言で申し上げれば極めて瞑想的です。「美はつくり出すものではなく、関与するものである。」と述べるライプは、その作品素材へのまさしく「関与」を通して、半ば自然讃歌とも言える芸術世界へと誘います。蜜蝋、花粉、米粒、さらには牛乳などの生命を育む素材と、大理石や真鍮など強固な構造体を組み合わせて、非常に静謐で、またフォルムとしても美しい作品を作り上げました。ちなみに、彼の作品の殆どはオブジェよりも、インスタレーション的な側面を持ち合わせています。作品自身の力を鑑みることよりも、その作品を置くことで生じる「場」の気配を楽しむアーティストと言えるかもしれません。その点、2003年の個展は優れていました。作品同士の連鎖が、まるで一つのユートピアのような世界を形成していたのです。

8つの円錐形の真鍮が並ぶ「米の食事」(1998)は、中にたくさんの米粒が詰まった作品です。(ここに挙げた作品画像は、この作品と良く似た「9つの惑星のための米の食事」です。)まるで寺院の尖塔のように立つ円錐。下に散らばる米粒は、円錐を立てる際に中からこぼれ落ちたものです。米粒を真鍮に詰め、地に捧げるようにして並べていく。これはまさに、収穫を自然に感謝するための供え物なのかもしれません。また円錐の単純な反復とそのランダムな配置は、どこかミニマルアート的な味わいが感じられます。米と真鍮が相互に依存し合って、一つの暗号のような形を作る。何らかの祭儀の道具のようなイメージもわいてきます。

ライプの研ぎすまされた美的意識は、その作品の繊細な表情にも見て取れると思います。彼の作品は、どちらかと言えば借景があればより映えるのかもしれません。それこそ美術館の展示室に閉じ込めないで、もっと広がりのある空間に置いた方が良いのでしょう。(そういう意味では、今回、作品の配置に制約のある常設展示の物足りなさが付きまといます。)しかしそれでも、ここにはライプの「関与」の一つのあり方が示されている。難しいこと抜きにして、ただ鈍く黄金色に照るそのフォルムに見入っても良く、また米の洩れた床面に限りなく顔を近づけて、そこから円錐をまさに塔のように見上げても面白いのではないでしょうか。

2003年の個展では、「ミルクストーン」や「ライス・ハウス」なども深く心に残りました。彼の作品は、単体ではなく、いくつか組み合わせることで生きてくる面もあります。是非もう一度、ライプ作品に囲まれた静謐な場を味わってみたいものです。
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