都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第5期」 三の丸尚蔵館 8/27
宮内庁三の丸尚蔵館(千代田区千代田1-1 皇居東御苑内 大手門側)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第5期」
8/12-9/10
ついに最終回、第5期を迎えた三の丸尚蔵館での「花鳥」展です。今回はまず、応挙、徹山、若冲の「孔雀対決」から挙げたいと思います。
孔雀図と言えばやはり真っ先に応挙を推すべきかもしれませんが、その弟子である森徹山の「孔雀図」(18-19世紀)もなかなか優れています。その特異な構図感。雌の孔雀をただそれだけシンプルに描くとは珍しい。また雄も、尾をまるで旗のように高らかに掲げていました。そして背景に控えるのは、足元に僅かに生い茂る草だけです。このシンプルな構図の妙。もちろん、牡丹に囲まれながら尾を雅やかに披露する応挙の「牡丹孔雀図」(1776)も見事ですが、あえてそれと真っ向勝負せずにオリジナリティを追求したような「孔雀図」も印象に残りました。さてどちらが良いでしょうか。
三羽の中で、唯一真っ白に輝いていたのは若冲の「老松孔雀図」(作品番号2-9)です。彼らしいシャープな線によるスリムな孔雀。首は細く、また長く突き出し、足はまるで鋼のようにピンと伸びている。そして身に纏うのはやや黄金色を帯びた白いドレスです。その透き通るような鮮やかな質感。前方へ大きく垂れ下がった羽は、まるで一つ一つを白い糸で束ねたように連なっています。ちなみに孔雀の口は応挙も徹山も閉じていますが、この若冲だけは大きく開いて吼えていました。それにヒョイと片足をあげているのもお馴染みの動きです。この辺の細かい表現もまた彼ならで魅力かと思います。
以下、上で挙げた「老松孔雀図」を除く「動植綵絵」の感想です。少し長くなりました。
「芙蓉双鶏図」(作品番号2-10)
ともかく変な格好をした雄と雌鶏です。雌鶏が下から雄を覗き込むかのように首を曲げているのはまだしも、何故、雄は体操選手のように頭を180度回転させているのでしょう。鶏冠部分から回転した背中、さらにはその先の羽にかけて、ちょうど円を描くような曲線が美しく伸びています。そして上からその様子を見下ろす可愛らしい小鳥。赤と青のツートンカラーが目立っていますが、彼の視線はちょうど雄、雌の目の位置へと向かっています。またツタがクルクルと回転するような花の様子(特に画面の左下部分です。)も面白い。絵の中の動線にも注意して見たい作品でした。
「薔薇小禽図」(作品番号2-21)
赤、ピンク、白などの色とりどりのバラが、まさに滝のようになって流れ落ちています。そしてそのバラの枝の上で、とても気持ち良さそうに踊っている小鳥が一羽。やはり片足をあげていました。お馴染みの決めポーズです。それにしても、バラの花の部分へ垂れ込んでいる黒い物体は何でしょうか。(岩?)良く分かりません。
「群魚図(蛸)」(作品番号2-27)
下の「群魚図(鯛)」と対になる作品です。メインは中央部分の巨大なタコ。吸盤をたくさん付けた足が水にゆらゆらと揺れていますが、その一つだけ長く伸びた足先に注目です。この作品の陰の主役である子ダコが、足を器用に絡めて吸い付いていました。もう絶対に離れないぞと言わんばかりくっ付き方です。ユーモアにも富んでいます。
「群魚図(鯛)」(作品番号2-28)
こちらは蛸と比べると真面目な作品と言えそうです。子連れの魚は泳いでいません。鯛の腹の部分の白さが際立っています。それこそ初めに挙げた孔雀の羽のように光り輝いていました。
「紅葉小禽図」(作品番号2-30)
まだ紅葉にはかなり早いのですが、これから訪れる秋の情緒を先取りさせてくれる作品です。直線的に交差する枝に、紅葉がやや控えめに色付いている。葉は、まるで上から色紙を貼ったかのように浮き出て見えました。そしてその色は、赤、朱、それにまだ緑のものと多種多様。軽快な色のリズムを刻んでいます。また、ひらひらと落ちていく一枚の葉も味わい深い。赤にも映える青い小鳥が、贅沢にも紅葉狩りをしていました。鮮やかな色を用いながらも、若冲にしてはとても落ち着いた風情を見せる作品です。
三月から見続けてきた動植綵絵も、約半年ほどかけてその全てを拝見することが出来ました。ちなみに来年5月からは、全30幅がまとまった形にて承天閣美術館(京都・烏丸今出川、相国寺内。)で公開されます。そちらも是非行ってみたいです。
さて、全て見終えたと言うことで、早速「BLUE HEAVEN」で企画進行中の「動植綵絵人気投票」に参加してみました。動植綵絵の中から好きな一作品を選ぶというこの究極の選択にはかなり迷ってしまいますが、結局「老松白鳳図」へ投票することにします。私としては、この作品と一緒に、「菊花流水図」、「紫陽花双鶏図」、「池辺群虫図」の三点を、特に好きな作品として挙げておきたいです。もう殆ど甲乙付けることが出来ません。
晩春から楽しませてくれた動植綵絵ともしばしおさらばです。また「花鳥」展全体では、若冲だけでなく、抱一の「花鳥十二ヶ月図」や伝銭選の「百鳥図」なども印象に残りました。終ってしまうのが名残惜しい。第5期は今月10日までの開催です。
*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」 三の丸尚蔵館 第1期(4/9)・第2期(5/22)・第3期(6/18)・第4期(7/16)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第5期」
8/12-9/10
ついに最終回、第5期を迎えた三の丸尚蔵館での「花鳥」展です。今回はまず、応挙、徹山、若冲の「孔雀対決」から挙げたいと思います。
孔雀図と言えばやはり真っ先に応挙を推すべきかもしれませんが、その弟子である森徹山の「孔雀図」(18-19世紀)もなかなか優れています。その特異な構図感。雌の孔雀をただそれだけシンプルに描くとは珍しい。また雄も、尾をまるで旗のように高らかに掲げていました。そして背景に控えるのは、足元に僅かに生い茂る草だけです。このシンプルな構図の妙。もちろん、牡丹に囲まれながら尾を雅やかに披露する応挙の「牡丹孔雀図」(1776)も見事ですが、あえてそれと真っ向勝負せずにオリジナリティを追求したような「孔雀図」も印象に残りました。さてどちらが良いでしょうか。
三羽の中で、唯一真っ白に輝いていたのは若冲の「老松孔雀図」(作品番号2-9)です。彼らしいシャープな線によるスリムな孔雀。首は細く、また長く突き出し、足はまるで鋼のようにピンと伸びている。そして身に纏うのはやや黄金色を帯びた白いドレスです。その透き通るような鮮やかな質感。前方へ大きく垂れ下がった羽は、まるで一つ一つを白い糸で束ねたように連なっています。ちなみに孔雀の口は応挙も徹山も閉じていますが、この若冲だけは大きく開いて吼えていました。それにヒョイと片足をあげているのもお馴染みの動きです。この辺の細かい表現もまた彼ならで魅力かと思います。
以下、上で挙げた「老松孔雀図」を除く「動植綵絵」の感想です。少し長くなりました。
「芙蓉双鶏図」(作品番号2-10)
ともかく変な格好をした雄と雌鶏です。雌鶏が下から雄を覗き込むかのように首を曲げているのはまだしも、何故、雄は体操選手のように頭を180度回転させているのでしょう。鶏冠部分から回転した背中、さらにはその先の羽にかけて、ちょうど円を描くような曲線が美しく伸びています。そして上からその様子を見下ろす可愛らしい小鳥。赤と青のツートンカラーが目立っていますが、彼の視線はちょうど雄、雌の目の位置へと向かっています。またツタがクルクルと回転するような花の様子(特に画面の左下部分です。)も面白い。絵の中の動線にも注意して見たい作品でした。
「薔薇小禽図」(作品番号2-21)
赤、ピンク、白などの色とりどりのバラが、まさに滝のようになって流れ落ちています。そしてそのバラの枝の上で、とても気持ち良さそうに踊っている小鳥が一羽。やはり片足をあげていました。お馴染みの決めポーズです。それにしても、バラの花の部分へ垂れ込んでいる黒い物体は何でしょうか。(岩?)良く分かりません。
「群魚図(蛸)」(作品番号2-27)
下の「群魚図(鯛)」と対になる作品です。メインは中央部分の巨大なタコ。吸盤をたくさん付けた足が水にゆらゆらと揺れていますが、その一つだけ長く伸びた足先に注目です。この作品の陰の主役である子ダコが、足を器用に絡めて吸い付いていました。もう絶対に離れないぞと言わんばかりくっ付き方です。ユーモアにも富んでいます。
「群魚図(鯛)」(作品番号2-28)
こちらは蛸と比べると真面目な作品と言えそうです。子連れの魚は泳いでいません。鯛の腹の部分の白さが際立っています。それこそ初めに挙げた孔雀の羽のように光り輝いていました。
「紅葉小禽図」(作品番号2-30)
まだ紅葉にはかなり早いのですが、これから訪れる秋の情緒を先取りさせてくれる作品です。直線的に交差する枝に、紅葉がやや控えめに色付いている。葉は、まるで上から色紙を貼ったかのように浮き出て見えました。そしてその色は、赤、朱、それにまだ緑のものと多種多様。軽快な色のリズムを刻んでいます。また、ひらひらと落ちていく一枚の葉も味わい深い。赤にも映える青い小鳥が、贅沢にも紅葉狩りをしていました。鮮やかな色を用いながらも、若冲にしてはとても落ち着いた風情を見せる作品です。
三月から見続けてきた動植綵絵も、約半年ほどかけてその全てを拝見することが出来ました。ちなみに来年5月からは、全30幅がまとまった形にて承天閣美術館(京都・烏丸今出川、相国寺内。)で公開されます。そちらも是非行ってみたいです。
さて、全て見終えたと言うことで、早速「BLUE HEAVEN」で企画進行中の「動植綵絵人気投票」に参加してみました。動植綵絵の中から好きな一作品を選ぶというこの究極の選択にはかなり迷ってしまいますが、結局「老松白鳳図」へ投票することにします。私としては、この作品と一緒に、「菊花流水図」、「紫陽花双鶏図」、「池辺群虫図」の三点を、特に好きな作品として挙げておきたいです。もう殆ど甲乙付けることが出来ません。
晩春から楽しませてくれた動植綵絵ともしばしおさらばです。また「花鳥」展全体では、若冲だけでなく、抱一の「花鳥十二ヶ月図」や伝銭選の「百鳥図」なども印象に残りました。終ってしまうのが名残惜しい。第5期は今月10日までの開催です。
*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」 三の丸尚蔵館 第1期(4/9)・第2期(5/22)・第3期(6/18)・第4期(7/16)
コメント ( 12 ) | Trackback ( 0 )
« 「太陽の塔」... | 9月の予定と8... » |
>バラの花の部分へ垂れ込んでいる黒い物体は何でしょうか。(岩?)良く分かりません。
そーなんです!これがすごく気になってしまいました。
思いつきで「ええい、やっちゃえ」って感じだったんでしょうか。
来年、京都に行ってしまいそうな予感です。。。ああ、美術な遠出がクセになりそう。。。
秋の到来とともに、終わってしまいますね。
最後に「紅葉小禽図」持ってきたのも納得です。
鶏さんおかしな格好していましたが
鳥って結構頭が回転します。
うちのインコもそうです。
(噛み付かれますが…)
人気投票にも参加していただき感謝です。
TB送らせていただきました。
約半年、あっという間でしたね。
京都へはどう考えても行けそうにないので(涙)、また東京で再会できる日を首を長~くして待とうと思います。
早速のコメントとTBをありがとうございました!
>来年、京都に行ってしまいそうな予感です。。。ああ、美術な遠出がクセになりそう。。。
楽しみですよね!
30幅全て揃った姿を一度だけでも見てみたいものです。
目がクラクラしそうですが…。
@TAkさん
こんにちは。コメントありがとうございます!
>鳥って結構頭が回転します。うちのインコもそうです。
まるちゃんも180度の回転業を!
何でこんなに曲がっているのかと不思議で仕方がありませんでした。
>最後に「紅葉小禽図」持ってきたのも納得
なかなか良かったですよね。
私も同感です。
>人気投票にも参加
群鶏図と南天雄鶏図のデッドヒートが熱いですね!
栄冠に輝くのはさてどの作品でしょう?
@tsukinohaさん
こんにちは。
>東京で再会できる日を首を長~くして待とう
動植綵絵が尚蔵館で見られなくなってしまうのが残念ですが、
相国寺への里帰りも真っ当なのかなと思います。
宮内庁所蔵の作品なので、
またきっとあの場所で拝見出来ますよね!
これで終わりかと思うと少々センチになってしまいますが、見終えた達成感の方が強いですね。
若冲の最高傑作をこの目に収めることができて、良かったと心からそう思いました。
>絵の中の動線
確かに、若冲の絵には「隠し」的な要素でそういった部分がかなり多いような気がします。しばらくは図録でそういった部分を確認し、来年の承天閣に備えたいと思います。
若冲以外にもいろいろな発見があり嬉しかったです。
三の丸尚蔵館にも初めて足を運んで、こんな所が
あったのかと知りました。
動植綵絵へのいろいろな方の感じ方の違いも
とてもためになりました。
とくに第4区間に素晴らしいランナーが揃っていました。
季節が巡り、最終期が終わって、いざ投票となると本当に迷ってしまいます。
「秋から冬への動植綵絵」であれば違う結果になるのかもしれません。
最後に、若冲と三の丸尚蔵館関係者に最敬礼!
>若冲の最高傑作
私も若冲の全てを見たわけではありませんが、
今のところこれが最高傑作だと思います。
とにかく文句の付けようがありません。
>若冲の絵には「隠し」的な要素
若冲の絵の独特な躍動感は、
そういった構図の隠し要素から由来しているのかもしれませんね。
何度見ても飽きないと思います。
@一村雨さん
こんばんは。
>三の丸尚蔵館にも初めて足を運んで、こんな所が
あったのかと知りました。
同じです。まさかあのような場所に展示室があるとは…。
ただもう少し広げて、常時お宝を展示していただいても良いのではないかと思いました。
少し狭いですよね。
@とらさん
こんばんは。
>第4区間に素晴らしいランナー
同感です。4期が特に良かったですよね。
>季節が巡り、最終期が終わって、いざ投票となると本当に迷ってしまいます。
もう私も迷いに迷いました。
若冲は、動植綵絵に限らず「この一点」というのが見出しにくい作家ですよね。
どれも良く描けているというのか、
まさに甲乙付け難いものばかりです。
5期に関係なくて恐縮ですが(笑)、「老松白鳳図」への投票がうれしいです。
5期の白孔雀は、鶴の白レースの羽と黒い針金足をベースに、滝の流れるようなハートマークの尾羽を加えたモノ。そして羽を開き、尾羽を振り上げると白鳳へと変化する。そんなことを思いながら観ていると、あの絵も若冲の集大成に思えます。
もっと年をとると、時空を超越するような「菊花流水図」の評価が上がるのでしょうが、それはまた別の話(笑)。
コメントとTBをありがとうございます。
>「老松白鳳図」への投票がうれしいです。年をとると、時空を超越するような「菊花流水図」の評価が上がる
流水図とさんざんまよったのですが、
結局こちらにしました。
あのハートと目を見ているともう頭から離れられないもので…。
もちろん流水図も素晴らしいのですが…。
また迷ってきました…。
私は終了日前日に見に行きました。
やっと全部見終わりました~ほっとしました。
なんだか感慨深いものがあります、半年通ったんですもんね~。
トラックバックさせていただきました。
>私は終了日前日に見に行きました。
私もその日少しだけ尚蔵館へ行きました!
会期が終わるのが寂しかったもので、
もう一度の鑑賞です。名残惜しいですよね。
mashenkaさんもご完走おめでとうございます!