功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

メジャー大作を振り返る:香港編(2)『少林寺』

2016-04-08 23:32:28 | 李連杰(ジェット・リー)
「少林寺」
原題:少林寺
英題:Shaolin Temple
製作:1982年

▼香港が功夫映画の最先端を突っ走っていた80年代初期、その地位を脅かさんとする刺客が中国大陸から現れました。各省を代表する武術家たちを集結させ、“本物”の迫力で観客を魅了した超大作…そう、かの有名な『少林寺』です。
本作は世界的なスターとなった李連杰(リー・リンチェイ)のデビュー作であり、日本においても大ヒットを記録しています。後世の作品に与えた影響は大きく、功夫映画史を語る上でも外せないタイトルといえるでしょう。
ところが本作は、そうした大きな意義を持っている一方で、とてもアバンギャルドな一面を秘めているのです。実を言うと、私が本作を視聴したのは割と最近の事であり、予想とは違う内容に「マジで!?」と驚いた覚えがあります(苦笑

■隋の時代、戦乱に揺れる中国では干承恵(ユエ・チェンウェイ)将軍が台頭し、力による支配で民を苦しめていた。彼に父親を殺された李連杰は、重傷で倒れていたところを少林寺の門弟たちに救われる。
師匠の干海(ユエ・ハイ)、兄弟子の胡堅強(フー・チェンチァン)や孫建魁と親睦を深めた彼は、仇討ちのために少林寺で武術を学ぼうと決意。しかしその道のりは険しく、血気にはやる李連杰は「何年も修行していられない!」と寺を飛び出してしまう。
 彼はその足で敵陣に向かい、捕まっていた干海の娘・丁嵐(ティン・ナン)とともに戦うが、干承恵の巧みな剣術の前に敗走。彼女の説得で少林寺に戻った李連杰は、改めて修行に打ち込んでいった。
その後、李連杰が干承恵と敵対する勢力の将軍を救った事で、図らずも少林寺に戦火が及んでしまう。果たして少林寺の運命は、そして仇討ちの行方は…!?

▲過去の少林寺映画では、たびたび「復讐心を捨てよ」「仏法を守るべし」という教えが提唱されてきました。これは少林寺という題材を描く上で絶対に無視できない要素であり、功夫片にも通ずるワードを見出すことが出来ます。
しかし驚いたことに、少林寺映画のパイオニアであるはずの本作では「肉を食う?人を殺めた?御仏の慈悲があるから大丈夫でしょ!」というノリで一貫され、説教臭い要素が削ぎ落されているのです(笑
 このアバウトさは主人公のキャラクター像にも反映されています。本作における李連杰(めっちゃ若い!)は堪え性がなく、復讐心を捨てずに最後までリベンジまっしぐら。埋葬した犬を食べるシーンには私も仰天してしまいました。
師匠や兄弟子たちも戒律をあまり重要視しておらず、館長にいたっては全てを御仏の慈悲に丸投げという有様。ここまでムチャクチャだと清々しさすら感じます(爆

 ストーリーも行き当たりばったり感が強く、これだけならヒットしたのが不思議に思えてしまうところです。しかし、抜群のロケーション効果と本物の武術家の投入により、本作は比類なき存在感を得ました。
特に武術家たちの出演は、アクションシーンの向上だけに留まらず、作品そのものに確固たる説得力を持たせています。モノホンを起用した映画は世界中に数あれど、ここまで素材の味を生かせた作品は二つとありません。
劇中のファイトに関しても、映画向けにデフォルメされていた香港系のものとは違い、表演や演武をそのまま持ってきたような流麗さがあります。そのため、ややメリハリに欠けている部分があるものの、見事なバトルが展開されていました。
 荒々しい李連杰の棍術、胡堅強と計春華(チー・チュアンホワ)の死闘、華麗な酔棍で舞う孫建魁などなど…。無論、本作もそれなりに誇張された部分はあるのでしょうが、随所に“本物”を感じさせる気迫が存在しています。
映画としては未整理な部分が目に付くも、今や大陸産功夫片から失われた“本物”の魅力が凝縮された逸品。本作の成功が『少林寺2』や『阿羅漢』、ひいては『黄河大侠』へ繋がっていくと思うと、なんとも感慨深いものを感じてしまいますね。
さて次回は、都会にやって来たドラゴンが大暴れ! 唸るヌンチャクと怪鳥音、そして波打つ贅肉に迫ります!

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
主人公のやってることが精武門と近いけど視聴者の印象が全く違う (二白桃)
2016-04-10 01:54:48
こんばんは。

『少林寺』で個人的に一番凄いと思うのは演技・演出面ですね。
演武経験はあっても映画出演経験はなかったような演者がほとんどだったはずなのに、演技に不自然な点がほとんど感じられませんでした。
これって結構珍しいことなのではないでしょうか?
他にこれほど大勢の武術家を起用した映画が思い浮かばないので、比較がしにくいですし、吹き替えの効果も強力だとは思いますが、、、

日本で思いつく限りでは、西城正三・畑山隆則・魔裟斗・舞の海の演技はぎこちなかった記憶があります。
(魔裟斗は段々改善していった記憶もあります。)

彼らに比べると、『黒帯 KURO-OBI』の主役と中達也さんは演技が上手かったと思いますが、
彼らの空手アクションは娯楽映画向きには見えなかったので、中国武術界は映画界と相性が良いんでしょうね。
返信する
返信。 (龍争こ門)
2016-04-12 23:34:32
二白桃さんこんばんは、お返事お待たせしました。

>『少林寺』で個人的に一番凄いと思うのは演技・演出面ですね。
 そういえば、確かに劇中はどの出演者もぎこちなさを感じさせず、ナチュラルに演技をしていましたね。演舞や表演が演技の下地になっていたのか、それとも監督の演出力の賜物なのか…気になるところです。

>日本で思いつく限りでは、西城正三・畑山隆則・魔裟斗・舞の海の演技はぎこちなかった記憶があります。
 こちらについては、私は西城氏・魔裟斗のみ確認しています。魔裟斗に関しては『武勇伝』が個人的にお気に入りで、確かに演技面からは拙さを感じます。しかし殺陣は迫力満点で、キレのいい動きには圧倒されました。
ちなみに『黒帯』は残念ながら未見なんですが、あの西冬彦氏が関わっているということなので、いずれチェックしてみたいと思います。
返信する
こんばんは。 (ひろき)
2016-04-17 23:21:52
龍争こ門さん、こんばんは。
いつもお世話になります。
よろしくお願い致します。

「少林寺」、懐かしいですね。
確かに、ストーリーは微妙でしたが、アクションに関しては、とても一般人の普通の人間には真似出来な様な、「本物」の超人的な技や動作の数々に、「酔い」しれました。
ストーリーはともかく、あの超人的な動きが、当時のカンフー映画ファンの心を鷲掴みにしたのだと思います。
特に、一番印象に残っているのが、地面に着けた頭を軸にしての連続ヘッドスプリングに度肝を抜かれた記憶があります。
あの動きはとても人間技とは思えませんでした。
そう言えば、ジャッキー・チェンも、「ドランクモンキー・酔拳」での酔拳の型を一つ、一つ、披露する、演武シーンで、連続ヘッドスプリング(二回連続。)を披露していましたね。
正に、鍛え抜かれた人間しか出来ない、神技だと思います。
リー・リンチェイの演武シーンも、切れ味するどい武器裁き、そして、スピーディー且つ華麗な動きに、魅了されてしまいました。

>劇中のファイトに関しても、映画向けにデフォルメされていた香港系のものとは違い、表演や演武をそのまま持ってきたような流麗さがあります。そのため、ややメリハリに欠けている部分があるものの、見事なバトルが展開されていました。

上記の龍争こ門さんがご指摘されているポイント、凄く分かりますよ。
初めて、テレビで、「少林寺」を見たとき、今まで、沢山、見て来て、馴れ親しんだ、ジャッキー・チェンを始めとする、香港系のコミックカンフー映画独特の「型重視」の京劇をベースにした一つ、一つの技や動作がリズミカルで、段取りどおりの振り付けによるコテコテのカンフーアクションとは違っていました。
おまけに、効果音も、小さ目だし、宙返り系のアクロバットも、控え目で(って言うか、あまりなかったと記憶しています。)、香港系のコミックカンフー映画のディフォルメされた動きと比べると、メリハリが欠けている部分もあるのですが、でも、その代り、「本物」の魅力がありましたね。
ただ、「魅せる」動作も、垣間見れたりするので、本格的なカンフーアクション、いわゆる、マーシャルアーツ(フリースタイル)でもないんですよね。
なので、振り付けは、京劇スタイルとマーシャルアーツ(フリースタイル)の中間位でしょうかね。(個人的な意見ですが。)

それから、以前、本物の少林寺武僧の舞台「SHAOLIN 少林寺 ~生命の輪~」を日本で観たことがありますが、超人的な技や動きの数々に、度肝を抜かれてしまい、とても感動しました。
正に、映画「少林寺」と同じような世界でしたね。


●SHAOLIN 少林寺 ~生命の輪~の予告編でございます。日本で、ビデオ(VHS)化されているので、いつか開会があれば、是非ご覧になって下さいませ^^

https://www.youtube.com/watch?v=a0SGQcxk_Ag

●少林寺武僧がダンスとアクロバットで魅せる舞台、Sutra(スートラ)の初来日が決定したみたいですね。

https://www.youtube.com/watch?v=-ziJsWLXYnY

それでは、失礼致します。
返信する
返信。 (龍争こ門)
2016-04-23 20:43:52
ひろきさんこんばんは、お返事お待たせしました。

>確かに、ストーリーは微妙でしたが、アクションに関しては、とても一般人の普通の人間には真似出来な様な、「本物」の超人的な技や動作の数々に、「酔い」しれました。
 この「本物」の魅力こそが本作の魅力ですよね。当初は武術チャンプではない役者さんを主役に添えようとしていたそうですが、「本物」を起用する方針に転換したのは大正解だったと思います。
また、アクションシーンは香港映画に比べて洗練され切っていないものの、かえってその荒々しさが印象に残りました。

>「SHAOLIN 少林寺 ~生命の輪~」
 こちらは海外の功夫映画をまとめたDVDセットなどにも収録されていますね。どの格闘技でもそうですが、やはり実物の動きはスクリーン上のものとはまた違った、得も言われぬ迫力に満ち溢れています。
私はあまりこの手の表演やドキュメンタリーを見ていませんが、いつかは目を通して見たいと考えています。
返信する

コメントを投稿