功夫電影専科

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『迷蹤霍元甲/迷踪霍元甲』

2010-10-29 20:16:40 | カンフー映画:佳作
迷蹤霍元甲/迷踪霍元甲
英題:Young Hero
製作:1980年

▼コメディ功夫片が全盛を極めていた80年代初頭は、七小福にとって最も忙しい時期であった。七小福とは、かつてジャッキーやサモハンらが在籍していた事で知られる京劇グループで、ここから多くの優秀な人材が巣立っている。
『酔拳』のヒット以降、七小福に着目した映画人たちはこぞって彼らの主演作を作り、第2のジャッキーを発掘しようと躍起になっていた。その結果、サモハンとユンピョウは見事に成功を収めたが、主役級のスターとなれたのは彼らぐらい。その他の七小福は中堅俳優や武術指導家としての地位を確保し、スーパースターにこそなれなかったが、現在も様々な分野で活躍している。
 話を80年代に戻すと、当時は孟元文・呉明才・元徳・呉元俊などの主演作が作られていた。本作でも七小福から2名を主役として迎えているが、元武と元菊が主人公とは随分と冒険をしたものである(爆
元武は主にサモハン映画などへ出演し、『燃えよデブゴン7』で韋白(ウェイ・パイ)と闘った棒術使い…といえばご存じの方も多いはず。元菊は映画出演そのものが少ないが、そのアクションセンスは七小福らしくしなやかで華麗。「カンフー映画大全集」で谷垣健治導演が語ったところによると、今は九龍城の定食屋にいるそうだ。

■本作はそんな七小福の起用だけに留まらず、『酔拳』に出演した多数の俳優を呼び寄せ、『酔拳』のように実在の達人・霍元甲を取り上げたりと、とにかく『酔拳』を意識しまくっている。ただしコメディ要素は控えめで、霍元甲が題材なだけに抗日要素を含んでおり、復讐が復讐を呼ぶシリアスな話になっている。
元武は武術の名門・霍家の末っ子で、功夫の腕もそこそこ止まり。トラブルで元菊と闘ったときも、女性である元菊にまったく歯が立たなかった。同じ頃、元武の家に日本人武術家・黄正利(ウォン・チェン・リー)が現れていた。彼は蒋金や陳流を従え、手下と共に各地の武館を荒らし回っており、元武の父・權永文も敗北を喫してしまう。
 元菊が霍家の家庭教師の孫娘だったと判明する中、その霍家では黄正利との再戦に備え、激しい特訓が続いていた。しかし未熟な元武は修業を許されず、兄の王將たちを尻目に机に向かう毎日だ。ところが、元武に勉強を教えている家庭教師が功夫を知っていて、元菊と一緒に教えてくれた(このへんの展開は倉田保昭の『激突!キング・オブ・カンフー』と同じ)。
權永文は「黄正利の足技に負けたからこっちも足技だ!」と足技の強化特訓をスタート。一方で元武もメキメキと腕を上げ、王將とのコンビネーションで黄正利の手下を撃破した。…が、これがまずかった。激怒した黄正利一派が霍家を襲撃し、なんとか退けたものの、家庭教師や王將など多くの人々が犠牲になってしまう。
 霍家で生き残ったのは元武・元菊・權永文の3人だけとなった。生前の家庭教師の教えを胸に、猛特訓を開始する元武と元菊。その後も色々な出来事を経て、道場も「精武會」と名を変えて再建された。だがしかし、そこに黄正利一派が姿を見せ…。

▲コメディ功夫片ブームの際、実在の人物を扱った作品は幾つか存在したが、本作はその題材選びで失敗してしまった作品である。本作でフィーチャーされた霍元甲は迷踪拳の達人で、精武門を創始した存在としても有名だ。だが、日本人による毒殺説や『ドラゴン怒りの鉄拳』の影響により、彼が関係する映画作品は必ずといっていいほど抗日的な要素を含んでいる。
こんなシリアス一辺倒なキャラでコメディ功夫片が作れるはずもなく、本作では話が進むにつれて次々と人が死んでいく悲惨な物語が展開されている。キャスティングに気を配り、ロケ地も『酔拳』と同じ場所を選んだりと、かなり力を入れているのは解るのだが…いかんせん題材が悪かったとしか言いようがない。
 功夫アクションは權永文や王將が自ら担当しているが、ちょっと立ち回りの繋ぎが粗く、アクションのバリエーションもそんなに豊富ではない。が、やはり七小福出身の元武と元菊の動きには目を見張るものがあり、權永文の力強いテコンドーキック、珍しく完全な悪役である蒋金の動き、そして黄正利のパワー溢れる蹴りの数々など、決めるべき所はしっかりと決めている。
ラストバトルは精武會での乱闘から始まり、元菊が死亡して(彼女まで殺さなくても良かったと思うのだが)元武&權永文VS黄正利の対決となる。なぜかロッククライミングや身の隠し合いなどを交えつつ、最後は捨て身の死闘が繰り広げられるのだが、この闘いもなかなか悪くない。…つくづく題材のミスマッチさが惜しい作品である。

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