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功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『ラスト・キョンシー』

2010-06-30 23:36:39 | カンフー映画:佳作
「ラスト・キョンシー」
「キョンシー・セブンキッズ」
原題:靈幻七小寶/靈幻七小子/哈哈小疆屍
英題:Aloha Little Vampire Story/The Cute Vampire
製作:1988年

▼多くの名作を送り出し、台湾映画界に大きな功績を残した巨匠・李作楠(リー・ツォナン)。彼が作る作品は、一筋縄ではいかないストーリーと高度な功夫アクションが持ち味で、郭南宏(ジョセフ・クォ)作品と共に功夫映画ファンからは全幅の信頼を得ている。攻防戦に重点を置いた『鷹爪興蟷螂』、不戦の誓いを立てた男が闘う『勾魂針奪魂拳』、棍術を題材した『セイント・スティック/怒りの聖拳!』等々…どれも傑作と呼ぶに相応しいタイトルばかりだ。
 だが、功夫片の時代を過ぎた80年代中期ごろから、李作楠は突然失速してしまう。ニンジャ映画ブームの際には、『地獄のニンジャ軍団・クノイチ部隊』のような見世物小屋的な作品を撮り、以後は羅鋭(アレクサンダー・ルー)作品に参加。キョンシー映画ブームになると、『妖魔伝』『新・桃太郎3』等を手掛けるが、どれもこれも傑作と呼ぶには程遠いものばかり。時折、キラッと光る物を見せる事もあるが、功夫片を作っていた頃と比べるとあまりにもレベルが違いすぎるのだ。
時代が移り変わる中で、流れに乗り切れなかった映画人は大勢いる。しかし、李作楠は時代の主流に乗ろうとせず、ニンジャやキョンシーに固執するという奇妙な行動を見せている。単に「落ちぶれた」という一言では語れない李作楠の動向…果たして、彼は何を思ってこれらの作品群を作っていたのだろうか?

■ある日の夜、キョンシーたちの宴で大人のキョンシーが大ゲンカを繰り広げ、ウンザリしたベビーキョンシー・鄭泰祐が家を飛び出してしまった。
鄭泰祐は山で遊んでいた陳彦儒(『新・桃太郎3』では羅鋭の息子を演じる)たちと出会い、なんだかんだで次第に親睦を深めていく。一方、街の名士・常山(!)は吸血鬼になった男を救うため、子供のキョンシーの血を欲していた。この常山が雇った道士…の息子が陳彦儒とケンカしたことから、道士に鄭泰祐の存在が発覚してしまう。
 こうして鄭泰祐は、彼の血を狙う道士&連れ戻そうとする大人のキョンシーの双方から狙われる羽目になった。鄭泰祐は混乱を避けるため、陳彦儒たちと一緒に町から脱出を試みるのだが、道士と大人のキョンシーは追及の手を緩めようとはしなかった。
野を越え山を越え、時にはアクシデントに遭遇しながらも、鄭泰祐を生家へと送り届けようとする子供たち。しかし、鄭泰祐は皆に迷惑をかけまいと、陳彦儒たちの元から去ってしまった。陳彦儒は鄭泰祐を追いかけるのだが、行く手には道士のワナが待ち構えていた…。

▲本作は李作楠と荘胤建の共同監督作であるが、内容はそれほどはっちゃけた物ではなく、ごくごく普通の子供向けキョンシー映画となっている。前半はよくあるキョンシーもののドタバタ劇で、後半からは子供たちの逃避行を描いており、便乗作品としては良心的な部類に入る。
ただ、太陽が苦手である・人間の血を好む・息を止めたら襲ってこない…といったキョンシーの基本設定は完全に忘れ去られているので、キョンシー好きにはちょっと辛いかも?ちなみにラストで常山が悪人であり、道士を騙していたという説明がなされるのだが、常山が何をやりたかったのか解らないまま終わっている。一応、このへんのどんでん返しは李作楠らしいと言えばらしい気はするが…。
 そんなわけでストーリー面にアラがあり、とても李作楠の作とは思えない代物になっている本作。しかし、武術指導が羅鋭&李海興であるため、功夫アクションだけは妙に気合が入っているのだ。ラストでは大人のキョンシーVS常山一味のバトルが展開されるが、常山は当たると爆発する電磁グローブを着用し、途中からバリバリ動ける吸血鬼までもが参戦!正直言って、ここだけ羅鋭作品みたいになっちゃってて浮いてます(笑
データベースサイトでは荘胤建の単独監督作として扱われているので、本作を李作楠の監督作だと断定していいのか微妙だが(ただしオープニングではしっかりと導演:荘胤建&李作楠と表記されている)、少なくともキョンシー映画としては悪くない作品だ。李作楠作品とは思わないで、単なるキョンシー映画の便乗作品として見れば、そこそこ楽しめるかもしれない。

『侠客シラソニ』

2010-03-24 22:51:12 | カンフー映画:佳作
侠客シラソニ
英題:Invincible From Hell
製作:1980年(81年説有り)

▼(※…画像は本作を収録したDVDパックの物です)
 ちょっと前に『黄砂塵』という奇妙な映画を紹介したのを覚えているだろうか?香港製なのか韓国製なのかよく解らない珍品で、結局は私も正体が解らなかったのだが、その作品で武術指導を担当していたマスター・リーという人が主演した韓国映画を、このたび発見することができた。
このマスター・リーさん、名前は李大根という韓国の大物映画スターらしい。この作品でも武術指導を兼任しているので、武術の心得のある人であろうことはなんとなく察せられる。本作はタイトルにある「シラソニ」というヤクザを扱った話のようで、要するに『将軍の息子』みたいな作品のオールドタイプということなのかな?(すいません…こういった方面の話は本当に疎いんです・汗)

■IFDプレゼンツという韓国産功夫片おなじみの嘘テロップを挟みつつ、ストーリーはナイトクラブで幕を開ける。
いきなり登場するこの赤帽のサエないおっさんがダイコンさん(と呼ばせて頂きます・笑)か?と思いきや、こいつは偽物で本物のダイコンさんが後から登場。ダイコンさん自身は普通のおっさんみたいな風貌なのだが、パンチや蹴りが早い!しかもテコンドー一辺倒でない動きを見せ、なかなか魅せてくれます。
そんな素早いダイコンさんを、日本のヤクザが虎視眈々と付け狙っていた。日本人のリーダーは様々な手でダイコンさんを陥れようと企み、遂には彼の友人が殺されてしまう。悪い事は続くもので、どうやらダイコンさんは持っていた大事な手帳?を無くしちゃったご様子。おまけに友人の息子は行方不明で、ダイコンさんを恨む日本人のボスまで登場。ダイコンさんは、たった1人でこの困難に立ち向かっていく羽目になるのだった。
 その後、奇襲で傷付いていたダイコンさんはバーのお姉さんに助けられたが、敵に居場所を悟られないようにとバーを後にした。すると、バーからそう離れていない路地で友人の子供を発見し、幸運にも再会できたのだった…って、そんな展開でいいんかい!?友人の子供はかなり不機嫌だったが(そりゃそうだ)、行動を共にしているうちに関係は修復。友人の子供は「僕も父ちゃんの仇を討ちたい」と言うが、子供を戦いに巻き込むわけにはいかないとダイコンさんはこれを拒否した。
知り合いの女性に友人の子供を預け、単身ヤクザと闘おうとするダイコンさんだが、先手を打ったヤクザによって友人の子供が誘拐されてしまう。すぐさまダイコンさんは敵地へと乗り込むも、逆に捕まって絶体絶命の窮地に立たされた。もはや打つ手なしかと思われたが、ダイコンさんの知り合いだった神父が斬り殺されるに至って、とうとう怒りが爆発!幹部やリーダーをしこたま蹴散らし、ボスとの一騎打ちになるのだが…。

▲実を言うと、私はこういった韓国ヤクザ映画というものはあまり好きではなかったりします。
私が初めて見た韓国ヤクザ映画は『将軍の息子』という作品だったが、のっぺりした顔で好きになれない主演俳優、まるでスタント吹替えを使っているようなアクションシーン、そして知っている顔が誰1人いない空間に耐え切れず、途中で視聴を中断してしまった経験があった。そのため、どうにも韓国ヤクザ映画には良い印象を持っていなかったのである。
 しかし、本作はダイコンさんと少年の交流が主軸として描かれ、殺伐とした雰囲気にはなっていない。また、重複するが格闘シーンが手技中心の見応えあるアクションとなっていて、韓国映画にありがちなテコンドー系アクションとはまた違った迫力を発揮している(特に、友人の子供を肩車したまま闘う場面が、コミカルながら凝っていて面白い)。それに、最初こそサエないおっさんにしか見えなかったダイコンさんのキャラも、見ていくうちに魅力的に見えてくるから困ったものだ(苦笑
会話が中心となるシーンは見ていて退屈であり、出てくる役者が全員ブサイクだったりと荒々しい部分もあるが、個人的には嬉しい不意打ちを喰らった佳作…といった感じの作品でした。ちなみに本作はシリーズ物の1本らしいが、他の作品ではどのようなダイコンさんの活躍が見られるのか、ちょっと気になります。

『アンディ・ラウの餓狼烈伝』

2009-11-18 00:00:00 | カンフー映画:佳作
「アンディ・ラウの餓狼烈伝」
「餓狼烈伝」
原題:同根生
英題:Bloody Brotherhood
製作:1989年

●大陸から来た不法移民の劉徳華(アンディ・ラウ)は、香港へ密入国する際に両親を失い、兄の林威(デビッド・ラム)と離れ離れになってしまう。彼は漁師の田青とその孫娘・温碧霞(アイリーン・ワン)に助けられるが、一方で林威は国境警備隊に逮捕されて強制労働に従事していた。
一方、劉徳華は黒社会の幹部・陳惠敏(チャーリー・チャン…余談だが、日本版DVDのストーリー解説では彼が劉徳華の兄だと表記されている。陳惠敏と林威じゃエラい違いだぞ・笑)と知り合う。
 仁義を重んじる彼に惹かれ、舎弟となった劉徳華は着実に成り上がっていくが、同じ組織の幹部・沈威にとっては実に面白くない。やがて劉徳華は温碧霞と結ばれ、陳惠敏の計らいで盛大な挙式を催すが、沈威の嫌がらせは2人の結婚式にまで及んだ。
やくざに組する恋人の身を案じた温碧霞は、台湾にいる叔父・王侠の元へ行かないかと提案する。ところが沈威の差し金によって、陳惠敏が独房へと放り込まれてしまう。「俺には構うな」という兄貴分の言葉に従い、やむなく劉徳華は台湾へと去った。
 裸一貫での再スタートを切った彼は、新天地で子宝に恵まれ、王侠からも信頼を得はじめていたが、運命は再び狂い始める。対抗馬がいなくなったことで完全に組織を牛耳った沈威が、タイから麻薬を密輸しようと画策。王侠の会社に協力するよう脅しを掛けてきたのだ。
当然それを突っぱねる劉徳華だが、卑劣な沈威は鉄砲玉として雇い入れた男に「劉徳華の娘を誘拐しろ」と命令する。実はその男こそが行方不明だった林威であり、何も知らない彼は任務遂行中に弟の娘を死なせてしまうのだった。
 復讐を誓った劉徳華は香港に戻り、再起不能となった陳惠敏と再会。これを予期していた沈威は林威と狄威(ディック・ウェイ)を送り込み、陳惠敏は狄威の凶刃に倒れた。その時、雷光のなかに弟の姿を見た林威は、一転して狄威を殺害する。
かくして悲劇の兄弟は7年越しの再会を果たした。だが、台湾に残してきたはずの温碧霞が現れた事で、林威は弟の娘を殺してしまったことに気付く。己の罪を償うため、彼はひとりで沈威のところへ乗り込むが、温碧霞ともども捕まってしまう。
高らかに笑う沈威だが、その背後に大ナタを手にした劉徳華が近付きつつあった…。

 功夫俳優から映画監督となった王龍威(ワン・ロンウェイ)が、『香港極道・復讐の狼』に続いて再び不法移民の苦しみを取り上げた作品です。ただし『香港極道』の時よりもダークさは増し、より救いようの無い物語が展開されていました。
物語は引き裂かれた兄弟を中心に進み、弟は何度か成功に手をかけつつも報われず、兄は香港の裏街道で生きる事を余儀なくされ、最終的にはどちらも破滅に向かって突き進んでいきます。さしずめ本作は、兄弟というキャラクターを加えた『香港極道』のバージョンアップ版といったところでしょうか。
 このシリアスかつ骨太なストーリーに対し、出演者たちも演技に熱が入ってます。とりわけ陳惠敏は、前半と後半で境遇の異なる役柄をさらりと演じ分けていて、単なる往年の功夫スターに止まらない芸達者ぶりを見せていました。
アクションにおいては、動作片によくあるマーシャルアーツ的な動きではなく、荒々しいバイオレンスさを強調。刃傷沙汰の殺し合いが何度となく繰り広げられ、生々しい迫力に満ちた立ち回りを見ることが出来ます。
ストーリーは重苦しいけど見応えはあるし、功夫アクションもそれなりにあるので、王龍威作品としてもイチオシの一本。なお、一部サイトでは「アンディ・ラウとトニー・レオンが競演を果たし…」などと書かれていますが、梁朝偉(トニー・レオン)の出演は確認できませんでした。

『沖天炮/冲天炮』

2009-09-15 22:44:37 | カンフー映画:佳作
沖天炮/冲天炮
英題:Two Graves to Kung Fu/The Inheritor of Kung Fu
製作:1977年(73年?)

▼多分このブログを見ている人は既にご存じかと思いますが(2回目)、この秋に協利作品が何本か発売されるようです。
もうそのラインナップは各所で公開されてますが、まさか『天才功夫』に『匯峰號黄金大風暴/闖禍』までソフト化されるとは未だに信じられません(笑)。しかし『猴形扣手』発売中止の件もあるので実際にリリースされるまで油断はしない方が良いかと思われます(個人的には『猛男大賊[月因]脂虎』の商品化には納得できないところもあるのですが・爆)。ということで今回は『カンフー・クエスト/覇者の剣』に引き続き、再び協利電影発売を記念した協利レビューをお送りしていきます。
この作品、主演はショウブラから出向してきた劉家榮(ラウ・カーウィン)で、同じくショウブラで仕事をこなしてきた仲間たちが会しているが、どうも彼の単独主演作は(私が知る限りでは)本作だけのようだ。劉家榮の代表作として有名な『Mr.ノーボディ』は石天(ディーン・セキ)が脇に来るし、デブゴン映画ではサモハンが影の主役として立ち回った。もっともこれらは後出しの付加価値に過ぎないが、結果的に本作は歴史上唯一の劉家榮単独主演作ということになる。流石は協利電影、目の付け所が斜め上を行っているぞ(笑

■物語はとてもシンプルで、劉家榮と4人の悪党が切った張ったの大勝負を繰り広げるというものだ。劉家榮は採石場で働く好青年で、石堅(シー・キェン)の道場に通っている。そんな劉家榮たちの町に、突如として怪しげな男たち(徐蝦・王將・黄培基)が出没するようになった。不穏な空気が町を支配する中、劉家榮は王將が起こした殺人事件の濡れ衣を着せられ、時を同じくして石堅は徐蝦ら極悪トリオに殺害されてしまった。
この極悪トリオを操っているのは、連中のボスである陳鴻烈(チェン・ホンリェ)だ。彼らの目的は町全体の支配にあり、警察署長を買収して自らが警備隊に成り代わると、職権を乱用して横暴の限りを尽くし始めた。劉家榮の友人である馮克安(フォン・ハックオン)が、石職人の任浩が次々と極悪トリオの手によって命を落としていく。面会に来たヒロイン・李影と牢獄から脱出した劉家榮だが、これは資産家である李影の父から財産を巻き上げようと、陳鴻烈が仕組んだ罠であった。
続いて李影も敵の手に落ちるが、極悪トリオの悪質さについていけなくなった警備隊員から密告を受け、遂に立ち上がる劉家榮。怒りの火の玉となった劉家榮は王將と黄培基を、そして徐蝦を撃破して陳鴻烈に立ち向かうが、そこにはあまりにも哀しい結末が待っていた…。

▲正直、少し期待外れな作品だ。ストーリーはただ単に陰惨なだけだし、片っ端から善良な人物が殺されていく様は気持ち良くない。
監督は本作でボスも演じた陳鴻烈だが、あまり奥行きの感じられない物語になってしまったのは残念である。また、唯一の劉家榮単独主演作であると先述したが、本作における劉家榮はどこか個性に欠けていた。別に劉家榮の演技が悪いわけではないが、やはり彼はダブルキャストでこそ光る存在なのだと改めて認識しました。そういえば劉家輝はともかくとして、劉家良も単独主演作をあまり撮ってないような気が…(ピンの主演は『秘技・十八武芸拳法』くらいか?)。
これで功夫アクションも淋しい出来だったら目も当てられないが、こちらは劉家榮自身が渾身の殺陣を構築していて本当に素晴らしい。右も左も悪役俳優ばかりで占められた本作だが、似た感じのキャスティングである『白馬黒七』のような体たらくには陥っておらず、立体的な技の応酬を見ることができる。特に黄培基と徐蝦は劉家榮と同じ殺陣師ということもあって、ラストの2連戦は手に汗握る名バトルと言えよう。
ただし問題なのは…そう、陳鴻烈だ。これまでにも『燃えよジャッキー拳』『唐手[足台]拳道』などでラスボスとして君臨した陳鴻烈だが、どちらの作品もモタついた立ち回りに終始している。本作では劉家榮を相手に闘っているが、徐蝦たちの見せた前哨戦に比べると物足りない内容だった。そもそもこの陳鴻烈、劇中では徐蝦らに指示しているだけで戦闘には参戦しておらず、彼が動き出すのはラストバトルのみ。せめて石堅にトドメを刺す役が彼だったら「陳鴻烈は強い」と印象付けられたと思うのだが……。
と、ちょっぴり厳しい評価になりましたが、功夫アクションは協利らしくサービス満点だし、レア対戦も数多く実現しているので、とりあえず見て損は無い作品かと。

『危うし!タイガー』

2009-07-05 20:50:52 | カンフー映画:佳作
「危うし!タイガー」
原題:硬漢
英題:Tough Guy/Revenge of the Dragon
製作:1972年

▼1972年、この年の香港映画界は陳星(チン・セイ)による怒涛の快進撃が続いていた。呉思遠(ン・シーユエン)と組んで撮った『蕩寇灘』『餓虎狂龍』は大ヒットを記録し、『黒名單』も年間トップ10に食い込んだりと、その活躍は実に目覚しかった。
そんな陳星の作品が日本で巻き起こったドラゴンブームの流れに乗って公開されたのも、至極当然の成り行きだったのだろう。ちなみにこの映画の武術指導は袁和平で、実は日本に初お目見えした袁和平作品でもある。

■ストーリーは実にシンプルで、『餓虎狂龍』から陳星の部分だけを抜き出して一本仕上げたような作りだ。
捜査官の陳星は上司から「山怪に近付き悪を討て」との命令を受け、山怪の脱獄の手引きを行った。その後、何故か港で于洋や火星らと荷物運びの仕事に就いていた陳星は、元締めの馮克安とトラブルを起こしたことから孫嵐らに狙われることに。そこで彼を倒さんと立ち上がったのが山怪で…要するに陳星、この孫嵐らを倒すために潜入しようと山怪に近付いたわけである。山怪の勧めで孫嵐の元に身を寄せる陳星だが、仲良くなっていた于洋たちからは「裏切り者め!」と吐き捨てられた。
そんな中、新たに孫嵐らの仲間である方野と王清が到着し、連中が火星たちを襲っていたところに何も知らない陳星が居合わせ、激しい戦闘となる。これにより組織の空気が険悪なものとなり、火星たちは「陳星はどっちの味方なんだ?」と首をかしげる始末。悪い事は重なるもので、陳星と連絡員の張力(リャン・リー)が接触している現場を馮克安が目撃したため、組織内では陳星に対する不信感が強まっていった。
義侠心の強い山怪は最後まで無実だと信じていたが、陳星が孫嵐の倉庫へ潜入した際に待ち伏せを受けてしまい全てが発覚、陳星は窮地に立たされてしまう。一方、陳星と共に潜入して何とか脱出した張力は于洋たちと出会い、事の真相を話して彼らの助力を仰ぐ…が、追ってきた方野と王清によって火星と于洋の妹が殺された。そのころ陳星は馮克安を倒して敵陣から脱出し、逃走を図る孫嵐と山怪を追いかけて果てしない激突を繰り広げていく…。

▲明らかに呉思遠作品を意識している作品だが、『蕩寇灘』『餓虎狂龍』のように深みのあるものではなく、ストーリー面に少々パンチが欠けている。
とはいえ、当時の作品としては平均以上の出来を保っており、何よりも袁和平が指導した功夫アクションは流石に面白い。ラストは延々20分以上に渡るマラソンバトルで、陳星VS山怪・于洋VS方野・張力VS王清が手を変え品を変えてひたすら戦い続けるという凄まじいものだ。絡み役も当時の袁家班総出動で、ところどころに袁信義や袁日初らが顔を出しているのがミソ。珍しく山怪がラスボスというのも特筆で、本作での石頭キャラ(正確には仕込みだが)は後の『酔拳』における彼を髣髴とさせている。
なお、本作を製作した富國影業は于洋と袁和平をそのまま起用して『石破天響』『狼狽爲奸/狼狽為奸』を作り、監督の江洪(ジェームズ・ナム)は張力と組んで『小覇王』を製作した。前者は中々の佳作として名高いが、後者は何故か後年は呂小龍(ブルース・リ)と共に道を歩み、陳星ともども晩年まで呂小龍と付き合う羽目になってしまうが、これはまた別の話である。

『下南洋』

2009-05-07 22:24:18 | カンフー映画:佳作
下南洋
英題:Tough Guy/Black Dragon
製作:1974年

▼(※…画像は本作を収録したDVDパックのものです)
再びロン・ヴァン・クリフ&白彪(バイ・ピョウ)主演の長江電影作品だが、本作はロンが香港映画にデビューした記念すべき最初の作品だ。作品としてはやはり李小龍を意識した作風で、話の内容は『ドラゴン危機一発』を連想させる。こうして見てみると『怪客』『唐手[足台]拳道』は『ドラゴン怒りの鉄拳』モチーフ、『龍争虎鬥精武魂』は『燃えよドラゴン』モチーフで特色が分けられており、いっそ白彪主演の『死亡遊戯』風な作品や『ドラゴンへの道』風の作品を、監督・魯俊谷の味付けで見てみたかった気がしないでもない。

■白彪は田舎で畑仕事に勤しむ純朴な青年で、フィリピンで成功して帰ってきた兄・劉鶴年の姿に憧れを抱き、自分もフィリピンで一旗挙げようと出立を決意する。こうして海の向こうへ出稼ぎに来た白彪だが、ケンカをしている謎の黒人・ロンと遭遇したり、スリの陳流と知り合ってトラブルに遭遇したりと、まずは波乱の船出となった。
そんなこんなで白彪は港で積荷を運ぶ労働のバイトに就くも、例によって労働環境はかなり劣悪。粗暴な職員と悶着を起こしたが、功夫の腕を上司の高岡に見込まれてバイトから職員のリーダーへと飛び級でランクアップした(笑)。そんな時、白彪の前にシマを荒らす謎の連中が殴りこみを仕掛けてきたが、その中にロンの姿があった。彼らを撃退した白彪は報酬として高岡に風俗へ連れてってもらい、そこで無理に働かされていた風俗嬢を助け出す。が、そこに再び現れたロンは「お前は自分のやっている事が解っているのか?」と、意味深な言葉を投げかけた。
この風俗嬢は白彪にホの字になるが、彼女の口から高岡たちが裏でアヘンの密売をしている事を聞かされ、高岡の元に乗り込んだ彼は事実を目の当たりにしてしまう(ロンたちは麻薬を蔓延させる高岡たちと闘っていたのだ)。真実を知った白彪はロンと和解して高岡のところへ直談判に出向いたが、社員契約を結んだ際の書類が元で自由に動く事が出来なかった(このへんの展開がちょっと不明瞭)。高岡たちをとっちめるには契約書が邪魔だ…そこで白彪の話を聞いた陳流は高岡たちのアジトへ潜入し、半殺しの目に遭いながらも契約書の入手に成功した。
こうして大手を振って闘えるようになった白彪はアヘン蔵を占領。当然高岡たちは黙っているはずもなく、用心棒としてデブの東洋人・ヒゲの白人・金髪白人・そして何と劉鶴年の4人を召集した(劉鶴年の勤め先が高岡のところだったらしい)。特に一番手強いのが劉鶴年で、陳流が殺されて風俗嬢は敵の手に落ちてしまう。怒りの火の玉と化した白彪は単身敵地に乗り込み、高岡と用心棒軍団を相手取って死闘を演じるのだが、その先には悲劇の兄弟対決が待ち構えているのだった。

▲本作は白彪の完全主演作で、抵抗メンバーの1人としてロンは要所要所で出てくるが、どちらかというとサブキャストの位置に落ち着いている。
しかし作品としては『唐手[足台]拳道』『龍争虎鬥精武魂』よりも出来が良く、最後の白彪VS劉鶴年で白彪がトドメを刺さない事以外は、取り立てて不満を感じることはなかった。功夫アクションは李小龍的なスタイルだが、派手な回し蹴りを連続で繰り出すダイナミックな殺陣で、最後に白彪が敵陣へ乗り込んで大暴れするシーンはとても迫力がある。先に述べた白彪VS劉鶴年は決着の付け方と尺の短さこそアレだが、『龍争虎鬥精武魂』に続いて再び劉鶴年のポテンシャルの高さに気付かされました。
だが本作で一番おいしい役どころだったのは、何といっても陳流だろう。陳流といえば意地悪そうな悪役や汚れ役で功夫映画ではお馴染みの脇役俳優だ。『闘え!ドラゴン』では吹き矢の殺し屋、『風拳鬼手の道』では何宗道を裏切る側近、『雑家高手』では青白い顔の狂人、『獣 KEDAMONO』では極悪刑事を憎々しげに演じている。そんな彼が本作では「軽薄だが友達思いの相棒」という、韓國才あたりがよく演じているような役に扮しているのだから驚きだ。
白彪が鶏肉を食べてる横で文句を言いながら饅頭を食ったり、友の為に敵のアジトへ潜り込んだり、風俗嬢との交流では卑しくない笑顔を見せたり…こんな好感を抱けるような陳流なんて、果たして今まで見たことがあるだろうか?もしかしたら、ここだけでも本作は見る価値があるかも知れません(笑

『雙龍屠虎』

2009-04-20 20:47:17 | カンフー映画:佳作
雙龍屠虎
英題:Two Dragons Fight Against Tiger/The Young Kickboxers
製作:1974年(1977年、1975年説あり)

●王冠雄は出稼ぎで砂金取りの仕事をしていたが、仲間同士のケンカの最中に偶然大きな金鉱脈を発見。しかし王冠雄は早く妻の待つ実家に帰りたかったため、報酬を受け取ることなく帰郷した。ところが雇い主の余松照は金を独り占めにせんと企み、工員の張紀平を言いくるめて金を我が物にしてしまい…。一方、地元に帰ってきた王冠雄は、妻が悪徳警察署長の黄飛龍に乱暴されて自害したことを知る。今すぐに黄飛龍を叩きのめしたい王冠雄だったが、妻の姉から「罠を用意してチャンスを待つのよ」と言われ、その案に従い大勢の女たちを連れ立ってどこかへ出発した。
そのころ余松照は護身用の拳銃を入手し、金を高値で売りさばこうと暗躍していたが、その周辺を怪しい男・龍天翔が嗅ぎまわっていた。客棧でまみえた王冠雄と龍天翔は戦闘(龍天翔が警官の変装をしていたため、王冠雄が敵だと勘違い)となり、その間に余松照は王冠雄の連れていた女たちを人質に逃走を図る。だが、隙を突いて女たちは逃げ出し、追ってきた王冠雄によって余松照の野望は潰えたのだった。ところが、今度は龍天翔が王冠雄を当て身で昏倒させ、打倒・黄飛龍に手を貸すという。謎多き龍天翔の動向に疑念を抱いた王冠雄は再び龍天翔と衝突するが、あくまで龍天翔は自身の秘密を明かそうとはしなかった。
こうして始まった黄飛龍暗殺作戦。まずは先の客棧を貸し切り、王冠雄の妻の姉が「新しい店がオープンしたので皆さんで来てほしいわ♪」とアプローチ。女好きである黄飛龍の油断を誘うために連れてきた女たちを従業員として宛がい、宴の最中に他の警官たちの銃から信管を引き抜いて使用不能にさせると、ザコを一掃して黄飛龍だけを残した。あとは奴を倒すだけなのだが、思ったよりも黄飛龍が手強くて龍天翔ひとりでは苦戦を強いられてしまう。「みんなだけ龍天翔の秘密を知っててずるいぞ」とふてくされていた王冠雄(笑)だったが、土壇場でその正体を知るや否や、最後の対決に推参する!

いまいち細部が不明だが中々の佳作だ。デビュー間もない頃の王冠雄と龍天翔が主演を飾っている事が特徴で、独自性のあるストーリーは意外と引きこまれるものがある。武術指導は誰なのか不明だが、呉思遠タッチの功夫アクションは一見の価値ありで、余松照や黄飛龍がこんなにいい動きを見せているのもまた珍しい。ただし「話がもっと解っていれば…」という部分もあるので、理解できていればもっと楽しめたはずだ(龍天翔の正体と最後のオチが何だったのかが、ちょっとよくわかんなかったなぁ)。
ところで、本作はこれとは別にもうひとつ妙な点がある。というのも、これは後から手が加えられたようだが(発売元のTAI SENGの差し金か?)たまに功夫アクションで早回しがキツくなる時があるのだ。時には常軌を逸した速度になるシーンもあり、どうしてオリジナルのスピードのままにしてくれなかったのか甚だ疑問である。

『ニンジャ・ハンター/炎の勇者たち』

2009-03-08 21:30:37 | カンフー映画:佳作
「ニンジャ・ハンター/炎の勇者たち」
原題:忍者大決鬥/忍者大決闘
英題:Ninja Hunter/Wu Tang Vs Ninja
製作:1984年

●本作は「羅鋭(アレクサンダー・ルー)の最高傑作にして代表作である」という前評判を聞いていた作品だが…いや、ここまでムチャやってる作品だとは思いませんでした(爆
少林派の常山に敗れた白眉道人の龍世家(ジャック・ロン)は、修行の末に不死身の肉体・鐵布杉を身に付けた。だが彼はそれだけで飽き足らず、忍者軍団の閻浩と手を結んで更なる勢力拡大を狙っていた。忍者という想定外の助っ人には少林寺も太刀打ちできず、少林派の拳士たちは忍者の力を得た武當派に次々と駆逐されていく。遂には、この機に乗じて武當派と結託していた朝廷が少林寺の焼き討ちを決行し、俗家弟子を含めた多くの拳士が犠牲となった。
 龍世家も強いし忍者も強い!…というか少林寺が一方的に圧倒されすぎているような気がするが、龍世家は発火能力(おいおい!)まで習得して手の付けようが無いほど強くなっていた。かつて龍世家と闘った常山までもが倒され、もはや武林の天下は龍世家の手の中に…。それから時は流れて10年後、少林寺の焼き討ちから生き延びた龍冠武(マーク・ロン)は、息子の羅鋭と王龍(マイク・ウォン!)を少林派最後の望みとして鍛えまくっていた。
そんな彼らの元に、忍者の追撃を逃れて来た常山の娘が、鉄指拳の秘伝書を携えて現れた。羅鋭と王龍はこの鉄指拳に全てを賭け、ひたすらその修行に打ち込んでいく。だが、敵はとうとう羅鋭たちの家まで攻め入ってきた。しかも頼みの綱である鉄指拳は通用しなかった上に、龍冠武が羅鋭らを逃がすために犠牲となってしまう。常山の娘が敵の手に落ち、修行を終えた羅鋭と王龍はいよいよ敵地に突入するのだが、一体どうやってあの馬鹿強い龍世家を倒すのであろうか…?

 本作は「少林寺と武當派の流派間争い」という功夫片ではお馴染みの物語だが、武當派へ忍者が介入するため、いつものVS清朝という図式ではないストーリーが展開される(最後に戦う相手も清朝ではなく、忍者軍団と龍世家のみ)。
功夫アクションはいつもの過剰な早回しファイトだが、今回は羅鋭作品常連の戴徹(ロバート・タイ)…ではなく朱客が武術指導を取り仕切っている。そのため、早回しでもマンネリに陥らない濃厚な功夫アクションが拝見できるのがポイント。ストーリーが詰め込みすぎている感もあるが、全体的な完成度は羅鋭作品の中でも上位に位置している。
 なお、羅鋭ら主役たちが登場するのは中盤を過ぎてからで(なにしろ役柄が洪文定と胡亞彪なので)、そこに至るまでの前半部は龍世家の大暴れが繰り広げられる。この龍世家演じる白眉道人が凄まじいまでに強く、恐らく羅鋭作品の中で最も強いボスキャラなのではないだろうか?
そのイロモノ具合も『ニンジャ・キッズ』の鬼面忍者や『スーパー・ニンジャ』の張一道を凌ぐ程で、女性にエッチな悪戯をして強くなるわ、気功で女性の服を脱がしたりするわと、まさに羅鋭作品を象徴するかのような素晴らしいキャラクターなのだ(笑
 さながら『ドラゴン太極拳』の銀魔王を彷彿とさせる無敵っぷりだが、実は本作の監督である呉國仁(ジェームズ・ウー)は、その『ドラゴン太極拳』に参加しているらしい。端役として『ドラゴン太極拳』という傑作に触れた呉國仁は、「いつかは俺も…」と第2の『ドラゴン太極拳』を作りたいと思ったのだろう。奔放に暴れ回る龍世家の影には、もしかしたら呉國仁の郷愁めいた思いが秘められていたのかも知れない…。

『スー・チーin ミスター・パーフェクト』

2009-02-23 23:25:48 | カンフー映画:佳作
「スー・チーin ミスター・パーフェクト」
原題:奇逢敵手
英題:Looking for Mr. Perfect/Finding Mr. Perfect
製作:2003年

●本作は舒淇(スー・チー)の日本に上陸した主演作のひとつで、監督に林嶺東(リンゴ・ラム)が当たり、製作側には社[王其]峰(ジョニー・トー)が控えている。それでいて上記のパッケージを見たら、誰がどう見たってハードなアクション物しか予想できないところだが、これでコメディアクションなのだから恐れ入る(笑)。しかもこれがかなりユルい作品で、敢えて言うなら簡素な『七福星』といったところだろうか。
舒淇は強気な性格の婦人警官。舒淇は舒淇なので勿論モテモテなのだが、夢の中に出てくるある男性が気になるご様子。そんなある日、舒淇は仕事で異国へ向かう友人のモデル・陳逸寧(イザベラ・チャン)とくっついてマレーシアの地へと渡った。スポンサーであるエロオヤジの林雪(ラム・シュー)がかなり鬱陶しいが(笑)その一方で秘密諜報員の安志杰(アンディ・オン)がミサイル制御装置を巡って任達華(サイモン・ヤム)らと対立してた。
実はこの安志杰こそ舒淇が夢の中で見たあの男性だったのだが、コソドロカップルが横槍を出してきた事で状況は更に混乱してしまう事になってしまい…。

とまぁ、話に関してはありきたりな部分が多い。コメディアクションということで随所にギャグが挟まれているが、80年代の香港映画にあったようなエネルギッシュな笑いは減退している。
もしこの作品が80年代に作られていたら、さしずめ舒淇は惠英紅で安志杰はユンピョウあたりが演じていたに違いない(林雪は樓南光か?)。80年代…といえば、本作には台湾映画などに出演していた呉大維(デビッド・ウー)が久しぶりに顔を見せている。呉大維は陳逸寧が惚れる撮影スタッフを演じているのだが、残念な事に現在の彼は少し太り気味。顔の幅も大きくなっていて、かつての甘いマスクが見る影もなくなっているのはちょっと幻滅だ(オチも含めて)。
全体的に見ても平坦な作品である事は否めないが、その中で1人孤軍奮闘しているのはやはりこの男…安志杰だ。前半では任達華と黄卓玲を相手取って功夫アクションを見せ、クライマックスではド派手なバイクチェイスに挑戦し(この時点で主役だった舒淇は負傷退場しており、完全に安志杰の一人舞台・笑)、最後は安志杰VS任達華&黄卓玲という対決にもつれ込む。
ここのファイトシーンはおちゃらけたBGMとコメディ描写のせいで軽く見えがちで、任達華も『タイガー刑事』同様に替身を使いまくってはいるものの、内容に関しては意外に凄い事をやっている。武術指導は以前レビューした『忍者』も手がけた李忠志(ニッキー・リー)。彼は現在、呉京(ウー・ジン)の初監督作である『狼牙』で呉京のバックアップを勤めた他、『インビジブル・ターゲット』や『奪師』などで絶賛活躍中だが、注目すべきは彼がジャッキー系の武師であるという点だ。
袁和平(ユエン・ウーピン)に見初められて『ブラック・マスク2』で初主演を飾った安志杰だが、作品自体は珍妙な怪作として終わった。続いて本作に出演した後に『スター・ランナー』で評価を得たが、案外とジャッキーは李忠志から安志杰の話を聞き、『香港国際警察/New Police Story』への出演を打診したのではないだろうか(あくまで想像ですが)?取るに足らない作品ではあるが、もしかしたら本作は安志杰にとってターニングポイントとなる作品だったのかもしれない…。

なお、本作が女ドラゴン映画ではなく普通の功夫片にカテゴリしているのは、舒淇がアクション的な見せ場が1つも無かったから。それに加えて、吹替え版の舒淇の声がヒドかったのも女ドラゴン映画から外した一因であります(爆

『潮州怒漢』

2009-02-16 22:52:38 | カンフー映画:佳作
潮州怒漢
英題:The Hero of Chiu Chow/Hero of the waterfront
製作:1973年

▼李作楠監督作、アイザック・フロレンティーン監督作、鮑學禮監督作、松田優主演の格闘映画と、今月は大作や傑作を中心にレビュー構成を組んでいるが、今回はスーパーキッカー譚道良(タン・タオリャン)初主演作の登場である。その類稀なる足技で名高い譚道良は、本作に出演後は李小龍の後釜を求めていたゴールデンハーベストで数本の作品に主演。その後は李作楠など名匠の元で活躍を続けていった。
彼自身はご存知の通りプライベートでの素行の悪さが有名だが、技量に関しては文句無し(ただし足技限定で・笑)のお方である。そんな彼が最初で最後の劉家良(ラウ・カーリョン)とコラボを果たしたのが本作で、劇中の功夫アクションはすこぶる良質だ。李小龍と張徹作品に譚道良の足技を加えたそのスタイルは、後年の足技を格好良く見せようとしすぎる譚道良スタイルとは一線を画しており、今見ると中々新鮮でもある。

■物語はタイトルそのまんまに、港の労働者と悪らつな雇い主との攻防を描いた物語である。大勢の労働者たちに対し、雇い主側が給料の支払いに応じなかったことが原因で、港町は一触即発の状態となっていた。この騒動に功夫の達人である譚道良が乗り出し、問題の解決に奔走していく事になる…のだが、雇い主側は断固として支払うことを拒否し続け、遂には目障りな譚道良を潰してしまおうと強硬手段に乗り出した。
これにより身内が殺された譚道良は雇い主である苗天に反旗を翻し、本拠地である製鉄所に押し入って苗天を倒す(この場面、もしかして『酔拳2』の元ネタか?)のだが、真の敵は苗天を裏で操っていた知事・孟昭勲だった。孟昭勲は先手を打って譚道良の母や妻子を誘拐し、殴りこみに現れた譚道良を卑怯な手段で戦闘不能にしてしまう。妻子や母と共に監禁された譚道良は怪我を押して脱出を図るが、途中で母が死んで脱出が発覚してしまう。
四方八方敵だらけという不利な状況の中、譚道良は孟昭勲とその一味を相手取って最後の死闘を繰り広げるが…。

▲労働者と雇い主との対立…これと同様の図式は『空手ヘラクレス』でも展開されていたが、本作に動員されるエキストラや功夫アクションのクオリティは、『空手ヘラクレス』とは比較にならないほど大きい。
劉家良の参加も含め、いかに譚道良を売り出そうとプッシュしていたかが窺い知れるが、一方でストーリーはやたらめったら暗いのだ。オチは『レディ・ハード/香港大捜査線』の逆パターンだし、悲劇の連続だけで押し切る物語はジャッキーの『ファイティングモンキー昇龍拳』を髣髴とさせるほど。どうしてこんなにネガティブな内容になってしまったのだろうか?
当時のヒット作である李小龍の『危機一発』『怒りの鉄拳』や張徹の諸作品は、全て悲劇とその反動で爆発させる功夫アクションが必須だった。本作もそれにあやかって悲劇に走ったようだが、李小龍や張徹は悲劇であっても中身は面白かったのに対し、本作では単に悲劇"だけ"で終わっているのだ。
悲劇という引き金は容易に引けるが、傑作となるには的を射抜かなくてはならない。本作は残念ながらその的を外してしまった…ということなのだろう。ところで本作の根本となる雇い主と労働者たちの骨肉の争いだが、どことなく近年の派遣切り騒動を彷彿とさせる気がするのは気のせいだろうか…(爆