猫じじいのブログ

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最悪の事態に命を賭ける人たちがいないなら原発を再稼働してはならない

2021-03-07 22:58:01 | 原発を考える


きのうのNHK ETV特集『原発事故“最悪のシナリオ”~そのとき誰が命を懸けるのか~』は、10年前の福島第1原発事故はいかに危険なものだったかの証言を集めたドキュメントである。いろいろな驚愕の事実もあり、私はきのうテレビで見て、きょう、YouTubeでもう一度見た。

この事故は幸運にも日本に誰も住めなくなるような最悪事態を結果的には避けられた。緊急冷却水を原子炉に注がなかったので、老巧化した原子炉が割れることはなかった。老巧化していたから、格納容器のあちこちから、発生した水素ガスがもれて、建屋の水素爆発で済んだ。メルトダウンした核燃料は、制御棒の差込口から地下に抜け落ち、そこでデブリとなって水没した。水蒸気爆発がなかったのである。

10年後のいまなお、避難民が放射線量が高くて帰還できていなし、また、原子炉の廃炉作業の見通しが立たないが、それでも、最悪シナリオよりも良かったのだ。

最悪シナリオとは、福島第1原発が制御不可能になり、全員退避せざるをなくなることである。そして、それが、10kmも離れていない福島第2原発の制御不能を引き起こし、さらに飛び火をして女川原発も制御不能になるというシナリオである。すると、東京の住民も避難しないといけない。東日本の広大な領域に人が住めなくなるというものである。アメリカは200マイル圏内の米軍を撤退させる計画を立てていた。

米軍幹部から自衛隊幕僚長だけでなく、アメリカ政府からも日本政府は、事故処理の英雄的行動を求められたという。命がけで、犠牲をも払ってでも、原発事故の最悪シナリオを防げといわれたのだ。

いっぽう、東電幹部が政府に東電社員の退避を伺い、当時の首相、菅直人が怒って、細野豪志首相補佐官を東電本社に駐在させた。そして、政府と東電との統合本部を作ろうとした。しかし、政府が何をやってくれるのか、という不満を東電はあらわにした。勝俣恒久会長は、自衛隊に瓦礫の撤去を要求し、さらに、自衛隊に原子炉の管理をも任せますとまで言った。

そのころ、福島第1原発では、本社から交代要員や補充員が来ず、体調不良者や、泣きわめく者、現場からいなくなる者が続出していったのである。

その中で、政府も何かやらざるを得ず、壊れた4号機建屋最上階の核燃料保管プールの放水が始まったのである。経済産業省技官の戒能一成が自衛隊に目的とそのリスクを説明し、計画が実行された。もし、核燃料がメルトダウンしていれば、放水で水蒸気爆発を起こし、よりコントロール不可能になる。したがって、むき出しになった保管プールにヘリコプターから少し水をかけ、何が起きるか、見ることを戒能は提案した。

3月16日、自衛隊のヘリコプターは放水に4号機に向かったが、放射線量が高くて、引き返した。翌日、再び、4号機に向かったが、前日より放射線量が低く、放水を実行した。幸運にも、本当に幸運にも、水蒸気爆発は起きなかった。使用済み核燃料はメルトダウンしていなかったのである。

もし、水蒸気爆発したら、自衛隊員は生きて戻れなかっただろう。当時、私はヘリコプターの放水をテレビで見ていたが、水蒸気爆発の危険や、アメリカ政府と米軍からの圧力を知らなかった。たんに、自衛隊機の放水がへっぴり腰だと誤解していた。

その後、東京消防庁のレスキュー隊が来て、本格的な放水が始まった。

あとでわかったのだが、4号機の水素爆発は、3号機の水素ガスが4号機の建屋に流れ込むという施工ミスがあったのである。

さて、福島第1原発にはいろいろな不備があったことが、10年たっても新しく指摘されている。国は事前に設計ミスや施工ミスを発見できるとは限らないのである。

さらに、重要なことは、福島第1原発事故に先立つ、スリーマイル島原発事故やチェノルブイ原発事故は、保守点検のため原子炉を停止したときの人為的なミスによって起きている。

すなわち、原子力規制委員会がいくら頑張っても、完全に原発事故が起きないことは、あり得ないのだ。政治家に「世界で一番厳しい規制で再稼働している」と言われても、原子力規制委員会は困惑するだけである。絶対の安全なんて保障できないのである。だからこそ、「最悪のシナリオ」のとき、命を投げ出す覚悟の人がいなければ、原発を再稼働してはいけないのだ。

北澤俊美元防衛相が言うように、自衛官も人間であるから、民間企業が重大事故を起こしたから、国民のために死ね、とは簡単に言えないのである。自衛官は災害救助のために動員されても、死ぬために動員してはならないのである。


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