最近、どうも中国政治の内圧がひそやかに高まりつつあるような気がします。ぐっと押し付けられて、圧縮熱が生まれつつあるような気配といったところでしょうか。
――――
国内的には表立った争いはみられません。経済政策をはじめとした各方面の政策に異論が出てメディアを使った代理戦争(互いに自説の正当性をアピールする署名論文を掲げるなどした論争)、これは中国における権力闘争の典型的な型なのですが、胡錦涛政権のやり方に公然と異を唱える向きは、メディアにおいては見当たりません。
「中央vs地方」という暗闘は依然続いています。ただこれは権力闘争とか政争というほどのものではなく、中央にとっては政策貫徹という面でやりにくい部分はあっても、また中国経済全体への悪影響を懸念しつつも、結局はただやりにくいというだけです。また「中央vs地方」と同時に「地方vs地方」というライバル意識もあるため、全国各地の「諸侯」がまとまって中央に抵抗するには至っていません。
以前は「諸侯」の利益代弁者として上海閥が存在していましたが、ご存知のように次世代を担う筈だった陳良宇・前上海市党委員会書記が胡錦涛らによって失脚させられたため、事実上無力化してしまいました。放っておいても現役の年寄りどもが引退していけば上海閥は自然に立ち枯れてしまう訳です。まあ陳良宇が斬られるまで攻め込まれた時点で上海閥は終わったも同然、ともいえます。
それでは誰が内圧を高めているのかといえば、軍部ということになるでしょう。どうも最近ピリピリしているようにみえます。だいたい五輪開催を翌年に控えた国が、他国に実害を及ぼしかねない弾道ミサイルによる衛星破壊実験なんてことをやりますかね普通?しかもこれは軍事バランスを不安定にしたり新たな軍拡競争を呼びかねない挙でもあります。
その衛星破壊実験がどうやら独断専行らしい気配は以前お伝えした通り、中国外交部など胡錦涛政権の対応ぶりからみてとれます。
●衛星破壊ミサイル実験:当局もメディアもちょっと変。・上(2007/01/21)
●衛星破壊ミサイル実験:当局もメディアもちょっと変。・下(2007/01/21)
●寄り切りでアンチ組の勝ち。――でも胡錦涛優位は変わらず。・上(2007/01/25)
●寄り切りでアンチ組の勝ち。――でも胡錦涛優位は変わらず。・下(2007/01/25)
――――
軍部が一致団結して勝手な振る舞いに出た訳ではないでしょうが、弾道ミサイルで衛星破壊ですから、軍上層部にそれを支持する勢力があることは確かでしょう。今年度予算の大幅増を求める動きにしては派手過ぎますし(笑)。
ただ衛星破壊実験は別としても、軍全体がピリピリしてもおかしくない要素が、少なくとも軍部にとっては盛り沢山ではあります。北朝鮮の核問題でも多少はストレスがたまったでしょうけど、それよりも「仮想敵の蠢動」と制服組の目に映るであろう事象がまとまって群がり起こっているからです。
まず日本の防衛省誕生や安倍晋三首相の訪欧時におけるEUの対中武器禁輸措置に対する明白な解除反対姿勢。ムカついたでしょうねえ(笑)。その後EUは禁輸解除に動いてはいますが、人権問題など中共政権にとってはかなり高いハードルを前提条件として提示してきました。
日米同盟であれば尖閣諸島を念頭に置いたと思われる離島奪回合同軍事演習の実施、そして日米安保の共同戦略目標に「台湾有事」を含めることが再確認されたことが何より大きいでしょう。米軍による最新鋭戦闘機・F-22ラプターの沖縄配備もそれを裏付けているように制服組には感じられたことでしょう。
その台湾も衛星破壊実験に反応するかのようにミサイル基地増設を決めています。……それ以上に軍部を刺激したであろう出来事は、台湾の教科書問題ですね。簡単にいえば大陸すなわち中国本土を外国扱いするようなスタンスに改まったことです。台湾は台湾でひとつの国、という方向性が誰の目にも明らかで、こうなると胡錦涛も同盟関係ひいては掌握しつつあるのかも知れない軍部を抑えるのが一苦労でしょう。
2004年には日米同盟及び軍部にとって最重要課題である台湾問題についての鬱屈が「反国家分裂法」制定の動きを生み、同法は翌2005年の全人代(全国人民代表大会=立法機関)で制定されています。今回の台湾のアクションに対して、独断専行めいた新たな反応が飛び出してもおかしくない状況です。
――――
ところがその一方で、「仮想敵の蠢動」が別の方角で発生して軍部の神経を刺激しています。それが今回の標題であるインドの動きです。これまた軍部ひいては中共政権からみて挙動不審といえるであろう動静を示しているのです。
●インド軍、近代化加速へ100億ドル投入(新華網 2007/01/28/09:03)
http://news.xinhuanet.com/mil/2007-01/28/content_5663057.htm
大枚をはたいて主に陸軍と空軍の面目を一新させようというもので、国境画定作業が順調に進まず、チベットのラサにおける総領事館開設というインドの要求も一蹴している中共政権としては気になるところでしょう。
もっともこのニュースは『青年参考』という『中国青年報』(胡錦涛の御用新聞)の弟分が報じたもので、もともと青臭いというか稚拙な傾きのある新聞なので気にするほどの信憑性があるかどうかは疑わしいのですが、国営通信社の電子版「新華網」がこれを転載しています。それだけインドに対し、党中央も軍部も神経質になっているということでしょう。
それからこの2本。
●インドが空軍の再編・強化とともに宇宙司令部設立へ(新華網 2007/01/29/07:55)
http://news.xinhuanet.com/mil/2007-01/29/content_5666738.htm
●インド、航空宇宙防御司令部を設立し空軍力の強化狙う(新華網 2007/01/29/08:20)
http://news.xinhuanet.com/mil/2007-01/29/content_5666945.htm
上が「国際在線」、下が「中国新聞網」からの転載で、いずれも報道媒体としてはしっかりしたところです。……で、この2本の記事をみる限りではインドが軍拡路線へと舵を切ったような印象を受けますが、「宇宙」という言葉と記事の日付でわかるように、これは例の弾道ミサイルによる衛星破壊実験を受けてインドが示した反応なのです。いわば中共の自業自得。もちろんそんなことは記事のどこにも出てきませんけど。
――――
ところが、インドが軍部を神経過敏にさせる動きはこれにとどまらなかったのです。中共にとっては盟友にも似た関係を築きつつある筈のロシアが最近になってインドに急接近。いや、どちらから接近したかはともかく、軍事面での両国の関係が非常に緊密になりつつあることをうかがわせる報道が中国国内で流れました。
●プーチン訪印に華やかな礼砲、印露両国が第五世代戦闘機の共同開発へ(新華網 2007/01/28/08:33)
http://news.xinhuanet.com/world/2007-01/28/content_5662928.htm
インドもロシア製の武器を色々買い込んだようですけど、ロシアも戦闘機の共同開発にとどまらず、資源開発プロジェクト「サハリン3」へのインドの参加を認めるなどお土産はなかなかのものです。ともあれ武器購入だけでなく「共同開発」まで踏み込めば軍部は焦燥感にかられることでしょう。
……ただこれは『人民日報』傘下の電波系基地外国際紙『環球時報』の報道ですから眉唾な部分があるかも知れません。ただこれを国営通信社が転載したことに意義があるといえるでしょう。中共が気にしているということです。
それからこれ。今度は新華社系の基地外国際紙『国際先駆導報』(『環球時報』よりは電波弱め)の報道です。
●印露、売買関係より踏み込んだ軍事協力(新華網 2007/01/29/09:26)
http://news.xinhuanet.com/herald/2007-01/29/content_5667561.htm
「これまでロシアは領土内で他国の軍隊と共同演習を実施することに消極的だったが、今回インド軍に対してかくもオープンなのは、両国の軍事関係が尋常ならぬ緊密さを帯びていることを物語っている」
とかなんとか。共同軍事演習などをやって「自分がいちばんの仲良し」と中共が思い込んでいたロシアが、インドともっと仲良くなりつつあることに焦りを隠せないようです。
最後はオリジナルの新華社電。ただし『産經新聞』などの報道を下敷きにしているようです。
●ロシアとインド、二国間関係強化に向け新たな原則確立(新華網 2007/01/29/10:27)
http://news.xinhuanet.com/world/2007-01/29/content_5668191.htm
中共政権にすれば何やら「中国封じ込め」が進みつつあるように思えるのかも知れません。どの記事だったか(以前のものかも知れません)、
「こうして国際社会において(米国一極ではなく)多極化が進むのは喜ばしいことだ」
などと書いているものがありましたが、負け惜しみというか何というか。……そんなに虚勢を張ることもないでしょうに。
――――
可哀想ですね。インドが急接近した相手が日本であれば中共系メディアも色々悪態をつけるでしょうに、ことロシアとあってはその機嫌を損じる訳にもいきませんから、引きつった微笑を続けなければなりません。
ともあれ、こうした諸事情により軍部が中国政治の内圧を高めているような観があることは気になります。独断専行、どうせやるなら北京五輪が吹っ飛ぶくらいのインパクトのあるものを中国本土&朝鮮半島限定でやってほしいものです。
「コロニー落とし」とか(笑)。
| Trackback ( 0 )
|
|
1936年3月7日ラインラント進駐 同年8月ベルリン五輪
1916年 ベルリンオリンピック中止 第一次世界大戦
1940年 東京オリンピック返上 シナ事変(日中戦争)
1940年 ヘルシンキ五輪中止 冬戦争→継続戦争
1980年 モスクワ五輪 79年アフガニスタン侵攻
1988年 ソウル五輪 87年大韓航空機爆破事件
「恐怖」について
リアリスト系の学問ではこのへんの研究がすでにけっこう進んでいて、戦争というのはどうやらある大国の国力が落ち始めて、国内社会が不安になった時に起こりやすい、という研究結果を出しております。ようするに不安が恐怖感につながって攻撃的になる、と。
簡単な例としては第一次世界大戦。
この時はドイツが「まわりに囲まれてしまう!」という恐怖におののいて、戦争を仕掛けたという部分がとても大きい。
これを踏まえると、東アジアで次の戦争が起こるタイミングもおぼろげに見えてきます。そうです、(囲まれている!と感じた)中国が、国力の落ち始めた時です。
サイト管理者の認識の一部
>元世界ナンバーワンのイギリスを抜いていたわけで、恐怖を感じる必要は全くなかったはずです。
これは確かにそうなんですが、問題はイギリスじゃなくてロシアにあると私は考えてます。1905年の時点で日露戦争に負けたロシアは崩壊寸前だったのですが、第一世界大戦まで経済体制がフランスの支援もあって盛り返してます。これが相対的なパワーの減少となってドイツは恐怖感を感じておりました。三国協商もありましたしね。
韓国07/12・ロシア・台湾08/3月・アメリカ08/11月
インドも選挙で指導者を選んでいるんだし、
中国共産党も選挙くらいすればいいのに棒読み…。
法輪功とかは、まだ隠然たる力を持ってるんですか?
08年秋の非常任理事国選挙への立候補、政府が決定
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070124i113.htm
この時期に常任理事国に立候補できるのはありがたい。
中国や韓国、北朝鮮にとっては目障りだろうけど…。
しかも、毒たっぷりの。
おっとそれ以前に、向こうにいる日本人の身が。
でも、どうせなら北京狙いと行きたいところですが、こっちへのとばっちりがいやですから思案のしどころです。
あ、話がそれてますか。
しかし、衛星破壊はすっかり藪蛇だったようで。
周辺国には人権問題なんかよりよっぽど派手にアピールしちゃったようですね。
何より、人間と違って隠せないし。
他国に対する優位誇示の為の示威(自慰?)行動だとしたら全く逆効果だし、国内の権勢強化目的なら単なる考え無しの馬鹿ですよねえ。
てことは、最低限理性があると考えれば、反主流派の嫌がらせというところが妥当な落ち着き先なんでしょうが、単なる馬鹿の線が消しきれないところが何とも…………、とか自分も足りない頭でいろいろこねくり回してます。
支那新幹線問題でもそうですが、あんな発言を日本人が聞かされたらどういう印象を持つか分かって言ってるのでしょうか。最近はせっせと日本人向け好印象獲得作戦実行中だと思っていたんですけどねえ。
イメージダウン承知の上だとしたら、どんな事情であんな発言しなければならなかったのか、とか。
これもやっぱり「バカ」なだけだったら笑いますけど。
とか言ってるうちになんだか無意味に長くなってしまいました。
てなところで、戯れ言失礼。
しかし実際のところ、中国が対外戦争に踏み切ったらら、日本も少なからず火の粉はかぶることになるし、ホント「中国本土&半島限定で」やって欲しいモンです。
軍部が中国政治の内圧を高めているということなんですが、裏を返せば軍の近代化が進んで軍人が自国の軍事力に自信を深めているってことなんでしょうね。
そのうち「ド素人(コキントウ)は口出すな」的な言動が出てくると面白い展開になんですが・・・。
サハリン―1コンソーシアムは
Exxon Neftegas Ltd社(出資30%)
日本のサハリン石油・ガス開発㈱(SODECO、30%)
インドONGCヴィデシュ社(20%)
ロシア2社(サハリンモルネフテガス、11.5%、RN-Astra、8.5%)
により構成されています。
ご指摘ありがとうございます。誤りを修正しておきました。
>>吉田ケンコさん
宣伝目的のコメントは削除します。トラバも打たれているので今回はそちらのみを受け付けておきます。
どうしてるのかな、彼女。
うちの親父が中国で捕虜してたといったとき、
「ああ、虐待されなかったか」と心配してくれた。
彼女の父は文革でつるし上げられ、彼女はピンクの
シャツを着ていただけで糾弾されたとも。
今日、中国全国人民代表大会
(全人代)常務委員会の成思危・副委員長が
バブル発言をして上海株が暴落しましたが
この人、理系畑からの人ですので
もしかして上海閥に近いのではないでしょうか?
もしかしたら昨今の胡錦濤への嫌がらせの一連なのかって疑ってしまっているのですが
http://www.usfl.com/Daily/News/07/01/0131_014.asp?id=52312
真意はどこに?
中国に行くんだからまあ外交だろうね
中国に行くイコール友好の為なんて決まってる訳じゃ無いし
『漫画アブナイ! 中国』にも書きましたが、2001年に海南島沖で発生した米空軍電子哨戒機vs中国戦闘機の接触事故以来、人民解放軍は北京のコントロールを離れつつあるように感じられます。
いやもっと言うと、64事件で混乱を鎮圧し切れなかった北京政府に変わって、汚れ役を引き受ける事によって事態を鎮圧した人民解放軍が、共産党に貸しを作った、ということなのでしょうか。
そう言えばシュヨウキが来日して、日本近海での中国船の調査を自粛する、と談話を出した直後に、これ見よがしに人民解放軍海軍の艦船が、EEZ内で調査を行なった事がありましたね。
これなど、政府の面子を潰す事によって、人民解放軍がその存在を誇示しているように感じられます。
昭和の日本軍閥は『統帥権の干犯』を口実に、反戦・軍縮の動きを攻撃しましたが、現在の人民解放軍もそれに似た不可侵の存在です(中国には、メディアであれ学者であれ、人民解放軍を批判したり、その行動をチェックできる機関は存在しないでしょうから)。
これから先、どんなハジケ方をしてくれるの、ワクワクテカテカで見守っています。
http://www.melma.com/backnumber_45206_3535117/
なあんだ、やっぱり。
この記事は最後の部分がちょっと違和感があったので一言.
ロシアがインドに急接近というのは当たらないと思います.
ロシアとインドの蜜月は昔からで,中国がそこに楔を打ち込もうと必死,って言う方が正しいと思うのです.象徴的なこととしては今も昔もロシアは最新式兵器はインドに売っても中国には売っていません.例えば同じフランカー系列の戦闘機でも最新の推力変更ノズルを積んだエンジンやレーダー付きのものは中国には売っていないのです.中国に売った機体はインドネシアやベネズエラに売ったのと同レベルで,インドに売ったのが旧ソ連諸国でロシアべったりのベラルーシと同じといえばその程度がわかると思います.まぁ,中国が国際政治的にみて孤立してると言うことには変わりないのですが.
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。