重度の自閉症の息子をもち、障害者問題をテーマに取材を続ける毎日新聞論説委員の野沢和弘さん(57)が、前橋市荒牧町の県青少年会館で、「よい支援をするために 障害者虐待防止」と題して講演した。県内の障害者支援施設の職員ら約120人が耳を傾けた。野沢さんは「障害者の気持ちを受け止め切れないことは誰にでもある。小さなミスを恐れるのではなく、そのミスに気づかない鈍感さやおごりを恐れることが虐待の芽を摘むことにつながる」と語った。
講演会は、虐待の発見者に通報を義務付ける障害者虐待防止法の施行(2012年10月1日)から5年となるのを前に、社会福祉法人「すてっぷ」(前橋市)が企画した。
野沢さんによると、本来は障害者を守るべき施設職員や家族などが虐待の加害者となるケースが後を絶たない。水戸市の段ボール加工工場「アカス紙器」での障害者への性的暴行(1996年)、福島県の入所施設「白河育成園」での虐待(97年)--。こうした事件の概要を説明。事件に発展しなくても「本人の気持ちを正しく受け止められないなど、虐待とまではいえない“小さなミス”は誰もが経験しているはず」と指摘した。自身も、自閉症の息子の気持ちを誤解し、傷つけてしまったことがあると明かした上で、「施設では小さなミスを必ず報告し、周りもその勇気を受け止める環境を作ることが重要」と述べ、“虐待の芽”を早期に発見し対処することの重要性を強調した。
虐待の芽に気付くには「虐待は絶対に起きるはずがない」との思い込みは禁物だという。結果的に職員らの間に「見て見ぬふり」が横行することにつながりかねない。福岡県の知的障害者更生施設「カリタスの家」で、職員が入所者に熱湯を無理やり飲ませるなどした虐待事件(04年)では、施設職員が「虐待を目撃しても誰も止められなかった」と証言したという。
一方、自傷行為や他の入所者への暴力といった障害者自身の「問題行動」も現場では課題になっている。そうした障害者を縛り付け、行動を制限することが「虐待」なのか否か--。野沢さんは「本人の恐怖心を増幅させ、問題行動を助長する負のスパイラルにつながる」との考えを示し、「必要なのは周囲の工夫だ」として、音楽を聴かせたことで拘束が不要になった事例などを紹介した。
「障害者の行動を『やっかいごと』と決めつけて感情的に反応するのは素人。プロならば、行動の要因を合理的に分析し、適切な解決策を探ってほしい。答えは一人ずつ異なるので、障害者福祉の仕事は創造性に富んでいる。誇りを持ってください」と訴えた。
昨夏、神奈川県相模原市の知的障害者施設で起きた殺傷事件では、逮捕・起訴された元職員の男が「障害者は不幸を作る」とうそぶいた。野沢さんは「同じ考えを持った人は今後も出てくるだろうが、障害者福祉の現場が強く優しい支援を模索し、社会を変える発信の原点になってほしい」と締めくくった。

「施設の職員も自身の心理状態を把握し、他の職員と協力して支援に当たる必要がある」と話す野沢論説委員
毎日新聞 2017年9月26日