阪神間に住む障害者らでつくる音楽バンドのメンバーで、脳性まひがある古谷かおりさん(49)=兵庫県宝塚市=が、東京の音楽事務所「サンミュージック」と作詞家契約を結んだ。同社によると、身体障害のあるプロの作詞家は業界でも珍しいという。「好きでやってきたことが認められ、うれしい」と古谷さん。いっそう創作意欲を燃やし、自由に動かせる右足親指を使って、パソコンに思いを込めた詩をつづっている。(初鹿野俊)
古谷さんは大阪府茨木市出身。生まれつき手足が不自由で、特別支援学校の高等部を卒業後は西宮市の入居型授産施設に入った。詩を書き始めたのはこの頃。作業の合間や休日に、日々感じていることを詩やエッセーに表し、30歳で著書「昨日の色、今日の色」にまとめた。
2007年ごろ、古谷さんの著書を読んだ打弦楽器「ハンマーダルシマー」のプロ奏者稲岡大介さん(38)=伊丹市=が「一語一語が考えさせられる深い詩」と感銘を受け、楽曲への作詞を頼んだ。主宰するバンド「ミュージックフィールズ」にも古谷さんを招き、古谷さんはボーカル兼作詞家として活動。メンバーの障害者や健常者と共に、依頼を受けた高齢者施設や学校などで出張演奏を重ねている。毎年4月には、伊丹市内で開かれる尼崎JR脱線事故犠牲者の追悼チャリティーコンサートのステージにも立つ。
転機は今年1月。稲岡さんの楽曲がサンミュージックの担当者の目に留まり、古谷さんの詞も「物事を読み取る感性がすごい」と評された。ミュージックフィールズの曲「ぬくもり」だった。
「この作詞者は誰か。もっと多くの人に聞いてほしい詩だ」。同社は3月、古谷さんは作詞家として、稲岡さんは作曲家として著作権契約を交わした。「ぬくもり」などの3曲は「iTunes(アイチューンズ)」や「レコチョク」などでインターネット配信されている。
15年前から宝塚市内でヘルパーの介助を受けながら1人暮らしをしている古谷さん。稲岡さんは「自分の力で生活を送る古谷さんが若い障害者の目標になれば」と願う。古谷さんは「与えられた能力を生かし、いろいろな所にメッセージを発信したい」と創作に励んでいる。
