障害がある人とない人でチームをつくり、水の浮力を利用したり補助し合ったりしながら水中で一体感を楽しむ「障害者シンクロ」。男性だけでつくる個性的な東京のチーム「マーチボーイズ」は、ネットでPR活動を展開し、障害者シンクロの知名度をアップさせようと意気込んでいる。 (細川暁子)
「エキゾチック ジャパン!」。プール会場に郷ひろみさんのヒット曲「2億4千万の瞳」が鳴り響く。「みーぎ」「ひだりー」「ばっしゃーん、ばしゃ、ばしゃばしゃ」。男性たちが声を掛けながら、手を上げ下げして水しぶきを上げる。二人組で肩を組んだ上に立ったり、ジャンプして水中に飛び込んだり。今月四日、東京都障害者総合スポーツセンター(東京都北区)で開かれた関東障害者シンクロナイズドスイミング発表会でマーチボーイズが豪快な演技を披露した。
マーチボーイズは、男子高校生がシンクロに挑戦する姿を描きヒットした映画「ウォーターボーイズ」をまね、二〇〇九年に江戸川区で結成。知的障害のある十六~二十五歳の男性十二人と、その父親ら四人が所属。地元のプールで月二回練習を重ねている。
自閉症の本橋大地さん(18)は四年前、会社員の父伸之さん(43)と一緒にマーチボーイズに入った。最初は周りをキョロキョロと見て集中できず、振り付けを覚えられなかった大地さん。最近は指先まで真っすぐ伸ばすなど、細かい動作も意識できるようになってきた。伸之さんは「演技をつくり上げる一体感がたまらず、父親の自分の方がはまっている。子どもにとっても目標や社会との接点ができて励みになる」と笑う。
障害者シンクロの魅力を多くの人に知ってもらうため、マーチボーイズはウェブサイトや会員制交流サイト(SNS)で演技の動画を公開するなど積極的にPR活動を展開。先月下旬には、メンバーたちにおそろいの水着や帽子を購入するためネットで支援を呼び掛けたところ、十日で目標金額の十九万円が集まった。寄付は二十八日まで募っている。詳しくはウェブサイト(「マーチボーイズ」で検索)で。
◆浮力で動きやすく/半数以上障害者が条件
障害者シンクロは、チームの半数以上が障害者であることが条件で、障害の有無や程度、年齢、性別に関係なく誰でも参加できる。元小学校教諭の森田美千代さん(63)=京都府宇治市=が日本発祥の演技として1983年、全国に先駆けて京都市内で指導を始めた。高校時代にはシンクロの日本選手権で3位に入ったことがあり、コーチとしての実績もあった森田さん。「水の浮力を使って補助すれば、障害のある人も水の中で動きやすいのではないか」と考えた。
森田さんが会長を務める「日本障害者シンクロナイズドスイミング協会」には、名古屋市の「ベルーガ」など16都道府県の25チームが所属。このうちマーチボーイズは唯一男性だけのチームだ。演技の特性上、プール全面を使ったり音を流したりするため、練習場所の確保に苦労するケースもあるという。
92年から毎年5月に、京都市内で全国フェスティバルを開催。最初は約50人だった参加者は、今年約300人まで増えアメリカなど海外からの参加者もいた。障害者シンクロはパラリンピックの正式種目ではないが、森田さんは「2020年の東京五輪・パラリンピック開催に合わせて都内でフェスティバルを開くなど、盛り上げたい」と意気込んでいる。
豪快な演技を披露するメンバー
2016年12月23日 東京新聞