ケアの仕組みが整った環境で、障害のある人が地域の人と支えあいながら暮らす。子どももお年寄りも、寝転んで本を読んだり、おしゃべりしたり。そんな、まちの「縁側」のような住まいをつくろうと、市民団体「たんぽぽの家」(奈良市)が準備を進めている。
「有縁(うえん)のすみか」と名付けた住宅は木造2階建て。重度の身体障害者も知的障害者も暮らせる福祉ホーム(定員12人)と、短期間滞在できるショートステイ・ルーム(定員2人)、カフェをつくる。奈良市六条西3丁目に2016年春のオープンを目指している。
カフェや中庭などの共有スペースは出入り自由で、地域の人たちもベンチで読書をしたり、絵を描いたりできる。地元の野菜を売る朝市や芸術・文化を語るイベント、料理教室なども構想。人々が集い、交わる空間を描く。災害時には、介護の必要な人のための福祉避難所にもなる。
かつて施設入所が障害者福祉の中心だった。しかし、「誰もが地域の中で、自分の意思で暮らせる社会に」という考え方が広がり、2000年代になって国は脱施設に方針転換した。
有縁のすみかの準備を進める一人、村上良雄さんはしかし、「障害者にとっては地域に受け皿が少なく、本当に自分が望む住まいや自由な暮らしを選べる人は多くない」と話す。
村上さんらは1998年、ケア付き集合住宅をつくった。障害の種別を問わず、地域に溶け込んで暮らせる住宅として注目されたが、運営費の補助を受けられたのは重度の身体障害者だけ。知的障害者は認められなかったという。
村上さんは「補助金を得るには国の制度に合わせざるをえないが、様々な制約を受けることにもなる」と話す。「地域での生活を促すなら、障害の種別で分離するのはおかしい」との思いが、縁側の家の構想につながった。
参考にするのが、昨年、鹿児島市にできた共同住宅「NAGAYA TOWER」(6階建て、37世帯)だ。江戸時代の長屋のように、住人が助け合いながら共同体を築くことを目指し、医師の堂園晴彦さんが建てた。台所や大浴場、空中庭園といった共有スペースを備え、平日の日中は社会福祉士が常駐して住民の相談に乗るほか、必要に応じて医療サービスを受けることもできる。
■先進事例を紹介 12日講演会
「NAGAYA TOWER」の取り組みを学び、より多くの人に構想を伝えようと、有縁のすみか実行委員会は12日、講演会を開く。堂園さんが「命に寄り添う医療から、支えあいの住まいづくりへ」の題で講演し、大和高田市で障害者支援にあたるNPO法人「生活支援センターもちつもたれつ」の大竹美知世さん、天理市で子どもたちの自立支援に取り組むNPO法人「おかえり」の枡田ふみさんらと話し合う。
午後1~4時、奈良市東寺林町のならまちセンター。参加費1千円。申し込みは「たんぽぽ生活支援センター」(0742・40・1030)へ。
2014年10月8日03時00分 朝日新聞
「有縁のすみか」を解説したイラスト=たんぽぽの家提供