◇就労現場にも不況の嵐
白壁が印象的な土蔵の玄関に掲げられた「縄文あいす」の看板。JR芸備線沿いの県道を広島市から安芸高田市に入ると、知的障害者の共同ホームなどを運営する「ひとは福祉会」のショップ「ひとは館」が見える。地元産の古代米を使ったオリジナルのアイスクリームが人気。冬でも客足は途絶えない。
隣接するホームで暮らす池岡心さん(24)は約3年前から、この店で働く。アイスを盛ったり、取り扱っている食品の注文、賞味期限の点検、レジ打ちなど、受け持つ仕事は多い。「最初はよく、計算間違いをした。今はお客さんといろいろ話しながら、楽しく働いています」と言う。
アイスは職人から技術や素材を習った本格派。03年にオープンすると、街道沿いの立地もあって評判になった。同会は作業所なども手がけるが、ひとは館は収益の4割を稼ぐ。「安定した運営のためには、自主事業をしっかりとしたい」。理事長の寺尾文尚さん(62)は、最近の経済危機を前に痛感する。作業所部門では、自動車部品会社からドアパッキンの加工を受注しているが、秋以降に4分の1に減った。「運営を揺るがすほどではない」と言うが、長引けば支払う給与に響く。
障害者の就労を巡る環境は厳しい。クッキーやパンなどの食製品は昨年の原材料高で利益が圧縮され、世界同時不況で受注事業は激減した。全国の共同作業所などでつくる「きょうされん」の県支部事務局長、井上一成さん(54)は「私たちには対処できない世界経済の事情で、しわ寄せを受けている」とさえない。06年施行の障害者自立支援法による事業所報酬の抑制なども影響は深刻という。
理事を務める「もみじ福祉会」(中区)の作業所は、自動車会社の孫請けで受注していた段ボール製造の収益が3分の2に落ちた。「働くことが障害者の生きがいや達成感、社会参加につながる。どの施設も今は苦しい。競い合いではなく、協力しながら乗り越えたい」と前を向く。
カタログやインターネットを通じた販売など各施設は知恵を絞るが、寺尾さんは「地域との結びつき」に心を砕く。山あいの小さな集落。祭りなどの行事に積極的に参加し、施設の催しにも来てもらう。「ひとは館」は交流の拠点でもある。
池岡さんは「お客さんに『おいしいね』『ありがとう』と言ってもらえるのが、うれしい」と充実感を口にする。逆境の今こそ、「働きがい」が支えになる。
◇データ
作業所などで働いた障害者が得る工賃(賃金)はどれくらいか。07年度の県調査(月額平均)では、身体障害者関係1万7176円▽知的障害者関係1万1992円▽精神障害者関係1万4876円--などとなっている。仕事の内容や障害の程度によって、工賃は大きく異なる。障害者自立支援法の施行を受けて、国は「工賃倍増5カ年計画」を始めたが、厳しい経済情勢下では容易ではない。
白壁が印象的な土蔵の玄関に掲げられた「縄文あいす」の看板。JR芸備線沿いの県道を広島市から安芸高田市に入ると、知的障害者の共同ホームなどを運営する「ひとは福祉会」のショップ「ひとは館」が見える。地元産の古代米を使ったオリジナルのアイスクリームが人気。冬でも客足は途絶えない。
隣接するホームで暮らす池岡心さん(24)は約3年前から、この店で働く。アイスを盛ったり、取り扱っている食品の注文、賞味期限の点検、レジ打ちなど、受け持つ仕事は多い。「最初はよく、計算間違いをした。今はお客さんといろいろ話しながら、楽しく働いています」と言う。
アイスは職人から技術や素材を習った本格派。03年にオープンすると、街道沿いの立地もあって評判になった。同会は作業所なども手がけるが、ひとは館は収益の4割を稼ぐ。「安定した運営のためには、自主事業をしっかりとしたい」。理事長の寺尾文尚さん(62)は、最近の経済危機を前に痛感する。作業所部門では、自動車部品会社からドアパッキンの加工を受注しているが、秋以降に4分の1に減った。「運営を揺るがすほどではない」と言うが、長引けば支払う給与に響く。
障害者の就労を巡る環境は厳しい。クッキーやパンなどの食製品は昨年の原材料高で利益が圧縮され、世界同時不況で受注事業は激減した。全国の共同作業所などでつくる「きょうされん」の県支部事務局長、井上一成さん(54)は「私たちには対処できない世界経済の事情で、しわ寄せを受けている」とさえない。06年施行の障害者自立支援法による事業所報酬の抑制なども影響は深刻という。
理事を務める「もみじ福祉会」(中区)の作業所は、自動車会社の孫請けで受注していた段ボール製造の収益が3分の2に落ちた。「働くことが障害者の生きがいや達成感、社会参加につながる。どの施設も今は苦しい。競い合いではなく、協力しながら乗り越えたい」と前を向く。
カタログやインターネットを通じた販売など各施設は知恵を絞るが、寺尾さんは「地域との結びつき」に心を砕く。山あいの小さな集落。祭りなどの行事に積極的に参加し、施設の催しにも来てもらう。「ひとは館」は交流の拠点でもある。
池岡さんは「お客さんに『おいしいね』『ありがとう』と言ってもらえるのが、うれしい」と充実感を口にする。逆境の今こそ、「働きがい」が支えになる。
◇データ
作業所などで働いた障害者が得る工賃(賃金)はどれくらいか。07年度の県調査(月額平均)では、身体障害者関係1万7176円▽知的障害者関係1万1992円▽精神障害者関係1万4876円--などとなっている。仕事の内容や障害の程度によって、工賃は大きく異なる。障害者自立支援法の施行を受けて、国は「工賃倍増5カ年計画」を始めたが、厳しい経済情勢下では容易ではない。