漫画/ハリソンさんはカノ紳士 Mr.Harrison is THE GENTLEMAN ― フランス通過編 ―(前半)

18世紀欧州が舞台の歴史ロマン。アヴィニヨンの薬屋小町クレールとハリソン&マルセル主従との運命の出会い。

標的(12/16) 猟奇的でない僕

2008年05月31日 10時27分02秒 | 第8話/標的

 十数年前の話になりますが、
ウフィーツィ美術館には、楽しみにしている絵がありました。
美術書で見て、本物はもっと素晴らしいんだろうなと―。

 でも、実物を見た時、作者の思い入れや憧れが強すぎたせいなのでしょうか?
「印刷物で見た方が素敵な絵」
― と正直思ってしまいました。

 ウフィーツィの至宝への防犯対策なのかどうかは分りませんが、
背伸びしても絶対手の届かない、かなり高い場所に展示していたため、
心理的距離までもが開いてしまったのでした。

 その絵を見終わった後は、いつ果てるとも知らず
中世からルネッサンス期にかけて描かれた、
イエス・キリストの磔刑図などの血みどろの絵が、
延々と並んでいた部屋があった記憶が…。

 その上、展示し切れない収蔵品がしまってある部屋には、
同種の絵が沢山あったようでした。
ヨーロッパの美術館って、特にカトリック系の国では、どこもこんな感じなのでしょうか?

 そういう部屋をやっとこさ抜けて、ロココ時代のカナレット(1697-1768)やピエトロ・ロンギ(1702-85)
の絵が並んでいるのを見た時には、本当にホッとした物でした。

 作者が印刷物の方がいいと思った絵って何だと思います?
ウフィーツィと言ったら、もう、ボッティチェリの2枚の絵。
「ヴィーナスの誕生」と「春」が有名中の有名なのですが、
「本物なのに、何か学生がポスターカラーで描いた複製画みたい…。」
― 何て思ってしまったのでした。

 良く言えば、「写真写りがいい絵」なんでしょうけどね…。


うぇ~ん!ハリソンさんがスゴく恐い事言ってるー。

矢で射られたのは聖セバスティアヌス。
車輪は聖女カタリナ。実際は引き裂けなかったらしいけど、
皮を剥がれたのは使徒聖バルトロマイ。
のこぎりで切り刻まれたのは同じく使徒聖シモン。
他にも歯を全部抜かれた聖女アポロニアもいるぞ。
それから…

パンダニムス、その辺でやめておくがいいぞ ― 。

じゃ、ちょっと方向を変えて、
聖セバスティアヌスの絵は、男子同性愛者に人気があるそうだぜ。

引き締まった美しい裸体が縛められ、
矢の刺さった苦しみに耐えているのが萌え萌え
― って?

やめなさーいっ!!!


中世の艶笑話では、
画家の夫がイエスの磔刑の姿を描いた実物大の十字架へと、
妻が浮気相手を布で覆って隠していたけれども、
夫に見つかってしまい、夫は間男のナントカを斧でぶった切ろうとして大騒動!
― なんて話があったそうな。

今日の続きは明日。




標的(11/16) 僕も彼も暴力は苦手

2008年05月25日 13時20分48秒 | 第8話/標的

 トリストラム・シャンディ氏も、どうも「暴力的な事は苦手」らしいですな。

 「カノ紳version.」の「スケッチ・ギャラリー」にもあるのですが、
トバイアス叔父さんは、昼ごはんの時に自分の周りをブンブン飛んでいたハエを、
決して叩き潰さずに、優しく捕まえて逃がしてあげたのでした。
その時に、

― This world surely is wide enough to hold both thee and me.

きっとこの世界はお前と俺の両方を入れるだけの十分な広さがあると思うよ。


― と言ったという感動のエピソードが第2巻12章にあります。
…う~っ、トバイアス大尉様、

泣けるじゃないですか~!
素敵じゃないですか~!、

辛い時には、あなたのこの言葉を思い出すと、素晴らしい励ましになりますな~!

 女性の方も、こういう事言ってくれる人が夫だったらいいんじゃないかと
作者も想像するのですが…でも、「カノ紳version.」にも書いた通りで、
一生「独男」だったんだよな~。

 他にも「スケッチ・ギャラリー」にある、濡れ衣を着せられて鞭打ちの罰を受けた、
「可愛想なてき弾兵」の話、ポルトガルで宗教裁判所に捕まって、拷問を受けているトリム伍長の兄の話、
― などからも、シャンディ氏が暴力に対して大いに反感を持っているのが感じ取れるのでした。


ジョージさん、今度も憧れのウォルポールさんに対しての優等生的返答ね。 

上の作者の話と絡めて考えると、これもゴスヲタオヤジの「お探り作戦」の一環なのかな?
それにしてもこいつ、何かどーしてもキザに思えてしょーがないんだよな…。

ハリソンの言っている「羊飼い」というのは、
イエス・キリストがベツレヘムで生まれた時に、
野宿していた羊飼い達が、天使達から救い主の誕生を知らされ、
続いて天使達が神を賛美したという場面じゃ。

あっ、分った!
昔「8時だョ!全員集合」の
「少年少女合唱隊」のコーナーで、クリスマスの時期に、
「♪ あーらーのーのーはーてにぃー ゆーひーはぁおーちてー ♪」
― って歌っていた場面の事ね。きれいな歌で好きだったわ。
最後の外国語の部分が、「フランダースの犬」の主題歌の最初と最後の部分みたいに、
何て歌っていたか遂に分らなかったけど・・・。


Gloria in excelsis Deo
ラテン語で、「いと高き所では、神に栄光あれ」じゃ。
「フランダースの犬」は記憶が曖昧で、何て歌っていたのかわしも分らん。

昔のアニメソングを集めたCDの歌詞カードには書いてないのかしら?

どうじゃろう…?
それから「東方博士の礼拝」は、イエスが生まれた時に不思議な星を見て、
東方から3人の賢者(王)がベツレヘムへと訪ねて来たという場面じゃ。
レオナルド・ダ・ヴィンチも「マギの礼拝」というタイトルで未完成の絵を描いておる。
「奏楽の天使」はイエスや聖母マリアが天に昇った時の背景に描かれてあるようじゃ。



来週は、ハリソンさんが「聖人の殉教画」の残虐性・凄惨さに憤り、
ムキになって力説します。

― もし機会があったら最寄の図書館で、
中世・ルネッサンス時代についての美術書の図版で見て、予習しておいて下さい。

イタリア・フィレンツェ市にある、ウフィーツィ美術館収蔵品の衝撃度についても書く予定でいます。

〈次回の更新予定は5月31日・6月1日〉






標的(10/16) それでも私は食い下がります!

2008年05月24日 12時11分21秒 | 第8話/標的

 ハリソンさんみたいな言い方を、
作者も10年以上前に、ある人からされた事があります。
作者の場合は、「好きな食べ物は何ですか?」と聞いた時だったのですが ― 。

 その時作者は、
「ああ…この人あれこれ質問はして来るけど、自分の事は答えようとしないから、仲良くなる気はないんだな~。」
というのが ― 脳内で言語化はその場でなされませんでしたが、
直感的には分って、その人に対する興味も急速に低下して行ったからなのでしょうか?
―それ以上の言葉が口から出ては来ませんでした。

 …この物語の登場人物は、作者から出た筈なのに、
本当に不思議なのですが、作者が実生活の中では出来もしない事をやってのけたり、
言えない所か思い付きもしないような事を喋ったりもしているのです。

 だから自分で描いたのだというのに、ウォルポールさんの返し方を見て、
「そういう方法もアリなのけ?」
― なんて自分で感心しているのでした。


ウォルポールさん、何だかハリソンさんから嫌われているみたいね。

ゴスヲタオヤジは「トリストラム・シャンディ」の悪口言いまくりの手紙を
どこかへと出しているらしい事もあって、
ハリソンに会う前からすでに「バカにしているオーラ」が出ているんだろうし、
ハリソンがもしシャンディなら、最初のページで見たように、
本人の前でも堂々と悪口言っちゃってるって事になるもんなー。

嫌われているのに、何で平気そうな顔してられんのか、
ウサ、分かんなーい!

ウォルポール殿は、完全に自分の方が格式が上だと思ってるからじゃろうな。
それにハリソンは、何を言っても最後には泣き寝入りしてくれて、
決して暴力的な方法では報復して来ないと、
女性や子供にすら思わせてしまうような雰囲気がある
しな。

書籍の売上高は、1つの巻だけをとっても、シャンディさんの方が完全に上だけど、
そんな事は関係ないって事ね。たとえハリソンさんがシャンディさんだったとしてもね。

そーいや、上司やお局のヤツらが、
部下の側へ行っては嬉しそうな顔して、からかったり、けなしたりしているのを、
どこの職場でも見かけるってそーだぜ。
それもそーゆー事からかね?


嫌われるような事を言って、
「相手が怒ったり悲しんでいるのは、自分への愛の証拠(あかし)」
だなんて思い込めてるヤツがいたとしたら、
作者はそいつを、れっきとしたヘンタイだと思う。

今日の続きは明日。





標的(9/16) フランダースの画家

2008年05月18日 10時35分20秒 | 第8話/標的

 作者は子供の頃、日曜の夜7時半から放映の「フランダースの犬」という、
世界名作物アニメを見ていました。

 ベルギーのフランダース地方が舞台で、
絵の上手なネロ少年が、保護者である祖父との死別、周囲の無理解、貧窮の中で夢も失い、
雪の日に教会で、憧れのルーベンス(1577-1640)の絵を見る事ができた後、
飼い犬のパトラッシュと凍死してしまうという、
も~涙ナミダの悲劇でした。

 ついでながら作者、

「フランダースの犬」のネロ
「タイタニック」のジャック・ドーソン


それから擬中世詩人のチャタトン少年(1752-70) ← この人は実在の人

― この物語の数年後、ロンドンで貧窮と絶望の中に服毒自殺してしまい、
「何で助けてあげなかったぁああーっ!!!」
― と、ウォルポールさんがその元凶として、世間から吊るし上げを喰らう(全くウォルポールさん踏んだり蹴ったりですわな~。)
事となるのですが、

…この3人は実に身につまされますな~。

 一方、同じフランダースの画家でも、15世紀前半に活躍したファン・アイク兄弟は、
歴史上実在した画家で、特に弟のヤン(1390頃-1441)は絵画史に燦然と輝いています。
ウォルポールさんも、この画家の事を自分の著作の中で書いていて、
油絵はこの画家よりも前にあったのではないか ―?という内容らしいです。
現在の絵画史の本では、「油彩の確立者」と書かれているようです。

 ジョージさんは、奥さんのエリーズ妃とパリに来る前に、ベルギーにも寄っていました。
ファン・アイク兄弟の作品も ― 多分「ヘントの祭壇画」の事なのでしょうが、見学しているようです。

 この祭壇画の中の「神秘の子羊の礼拝」の右上部分に、アヤメ(アイリス)の花を見つけた時には、
作者もびっくりしました。
見たのはヘントの聖バーフ聖堂ではなくて、日本で居住地区にある図書館の美術書で見たのでしたが― 。


「フランダースの犬」 私も若い頃に、年の離れた妹弟と見ていたわ。
今でもアニメの名場面を集めたスペシャル番組で、ネロとパトラッシュの悲しい最期のシーンが見られるわね。

欧米では、主人公のネロは「負け犬」と言われているって、ネットのニュースで書いてあったぜ。
パトラッシュも本当は全然違う犬種で、アニメとは似ても似つかない容姿だってさ。

ひどーい。ネロさんの事をそんな風に言わないでよー!
何かその情報、すごくムカつく~!!

ジョージ殿、自分も芸術好きで、
だからウォルポール殿を「お師匠様よ」「大御所様よ」と崇めているのに、
純粋なだけに、これから後はハリソンとの事で、利用されてしまうんじゃないかという気もするのじゃが ― 。

「トリストラム・シャンディ」のトバイアス・シャンディ大尉は、
「フランダース」といえば、自分が加わっていた戦闘の事を思い出すようですが ― 。
日本人は何てったって「フランダースの犬」ですよね~!?

来週は、「ハリソンさんの好きな絵と嫌いな絵」です。

〈次回の更新は5月24・25日の予定〉




標的(8/16) 今時セレンディップ第一王子の野望

2008年05月17日 21時18分16秒 | 第8話/標的
 ウォルポールさん、子供の頃に「セレンディップの3人の王子」という
童話を読んでいました。

 セレンディップは国の名で、地図ではインドの先っぽにある涙形の島国で、
現在はスリランカと呼ばれている場所です。物語は5世紀頃の設定になっているようです。

 その昔話の国の王様に3人の息子があって、長男のバラクラーマ王子は、
心の目で物事を見る事ができ、観察力が鋭い人でした。

 バラクラーマ王子は、父王から国の危機を救う命を受け、
そのために必要なある物を探して、弟二人と旅をしているのですが、
「探さずして、思わぬ発見や幸運を招き寄せる」
「何かを探している時、それとは別の価値のある物が見つかる」
という不思議な力がありました。

 ウォルポールさんもある時、
友達からもらったイタリアのプリンセスの肖像画を入れる額に使う家紋を探していて、
それが載っていた古書が見つかった時、同時にその古書自体が、
古物収集家の自分にとって大変価値がある物だったという経験があったようです。

 その事を肖像画をくれたお友達に説明するために、
serendipity 「セレンディピティ」 
という造語を1754年に作ってしまいました。

恋愛映画の題名から出たと思っていたわ。何年か前に韓国ドラマのDVDを借りに行った時に、
新作の棚に置いてあったのを見た記憶がある。聞き慣れない変な言葉だと思って覚えていたけど。

それも、もしかしたら「セレンディピティ」かもしれませんよ。
お陰でこの話の内容の理解に役立つのかもしれないし。ママン。

しかし、ハリソンをトリストラム・シャンディだと思い、
尻尾を掴もうとした事で、ウォルポール殿にとって芋づる式に見つかるかもしれない、
「他に価値ある物」って何じゃと思うかの、ウサニマ?

ウ~ン、「本当の愛 」かな~?
ウォルポールさん、欲しい「物」を見つける能力はあるみたいだけど。
先週の話からすると、「心の宝物」も探しているみたいだしね。

「愛 」…だってよ。ワハハ!
ゴスヲタオヤジと合う女なんているのかよ?

笑うんじゃないのっ、パンダニムス!
それより自分の事でも心配してなさい!

男女の恋愛とは限らんさ。
― かといって「同性愛」もどうかと思うが…。
何せ「死罪」の時代だったのじゃからな。

ちなみにトリストラム・シャンディ氏の趣味は、
「お絵描き」「ヴィオラ・ダ・ガンバ範奏」です。
明日は中世フランダースの画家、ファン・アイク兄弟の話。



 



標的(7/16) 親友ゼプセー

2008年05月11日 11時35分37秒 | 第8話/標的

 中学・高校時代に交流のあった同級生の中で、
「お友達が沢山いる」という事がその人一番の特徴となっている人がいました。

 その人は、中高通じて週一のクラブの時間以外は活動のない「帰宅部」だったので、
平日は授業が終われば、同性のクラスメートや元クラスメート、友達の友達とも交流、
休みの日も、もちろんいろいろな同性の人たちと交流していました。

 でも、作者はその人から直接聞いたのですが、
「自分の周りにどんなに沢山友人がいても、自分は一人ぼっちだと思う事がよくある。」
― と、そう言っていたのです。

 実はウォルポールさん、クールな外見の割りにはとっても親切な人で、
結構情熱家の尽くしタイプなのですが、
「自分が親切にした割には、見返りが少ない。」
― といつも相手に対して不満に思ってしまっているらしいのです。

 ウォルポールさん、
総理大臣の息子さんで、爵位の継承権もあって、
国会議員の地位自由に使える財産知性教養もあって、しかも若く見えて容姿端麗で、
もう何でもかんでも持っている、端から見ればうらやましい限りの紳士なのに、
それでも自分の存在に何か曖昧感でもあるというのでしょうか?

 親切にされた側は、親切にされても、
「本当に自分のためではなく、あいつの自己確認のために自分は利用されただけじやないのか?」
― と思ってしまうのかもしれません。
そして、
親切にしてもらってやった事で、すでにあいつの願いも叶えたんだから、
礼は言うけど、それ以上は何もする必要はない。」となってしまうのでしょうか?
― 確かにあれだけ何でも持っていれば、それ以上何をしたらいいんやらやと ― 。

 ウォルポールさんも、ショックを受けてしまうんでしょうけど、
プライドとか、「イジケていたり、怒りを真っ向からぶつけるのは自己イメージに合わない!」とか思い、
あくまでも外観は平静を装い、相手から距離を取って、また別の新しい「親友候補」を求めて
彷徨ってしまうのでしょうか?


― だったとしたら、何かこの人も可愛そうになって来たわね。

でも、中にはハリソンのように、
最初っから「お友達にはなりませんよ。」というメッセージを発するヤツもいる。
それで逆にムキになって喰いついて来たのかい!?
ま、確かに外観はクールなままだけどさ。

ハリソンさん、お友達になってあげればいいのにィ~。

― アッと、分ったぞ~!
もしかしたら、パリに連れて来ている犬猫とは上手くやってんのかもしれないぜ!
「おーおー!お前達だけだ~!」とか ― 前にアイ*スのTVCMでやってたみたいにな。

特に犬とはそうかもしれんな~。
猫だって飼って見れば、喜怒哀楽をむき出しにして来る実に分りやすい輩なので、
うらやましいと思って、大層可愛がっているのかもしれん。


次週からは、登場人物三人で「中世美術の話」とかになって行ってしまいますが、
分らない方は…この際、一緒に勉強しちゃって下さい―。

〈次回の更新は5月17.18日の予定〉
 


標的(6/16) 論文的模範解答

2008年05月10日 10時48分00秒 | 第8話/標的

 ハリソンさん、たとえ可愛い甥っ子が憧れちゃっている18世紀中頃のカッコイイ紳士なのだとしても、
ウォルポール氏には心を開いていないので、
どうしてもこのような建前っぽい答え方をしまうのでした。

 ハリソンさんの心の深ーい所では、「トリストラム・シャンディ」に対して、
口で言っている事とは全然別の事を感じていましたが、1765年の10月16日(水)現在の段階でも、
それをはっきり言語化する事ができないでいるのです。
それはハリソンの性別や、生きている時代の雰囲気との関係から身の危険を感じて、
自分の心にブレーキをかけていて、浮かび上がって来ないというのが原因なのですが―。

 この物語上でのウォルポール氏は、ハリソンさんとジョージとの
間のようなタイプの親密そうに見える感覚を、
自らの人間関係の中で経験した事が今の所ないという設定になっています。
(まあ、モデルになった実在の人物も、そう変わらない状況だったのかもしれません。)
…親密感を体験させてくれる、若い世代の男の子でも現われてくれれば、
これからさらに明らかになって行く、この人の「お人悪度」もおさまるんでしょうが―。

 ともかくも、ハリソンさんとウォルポール氏、
今の所は、お互い自分にない物を相手に見つけて、心の内に小さな怒りの泡が立ち始めています。
やがてそれが積み重なって行って、終いには「猟奇的事件」を引き起こしてしまうのでした―。


でも、「クールな人」「優しい人」の組み合わせって、
女の子同士とか、男女の組み合わせの場合はよく見かけるし、上手く行っているように見えるんだけど。

こいつら年くって、すっかり我が固まったオッさん達で、
下手に「学歴」とか「肩書き」とか「知性」とか「教養」とかがあるばっかりに、
「素直じゃないヤツ」「ひねくれ者」との
意地の張り合いつーか、「悪い男対決」になってるんじゃないんですか?
ママン。

そういえば、二人とも同じ大学で勉強していたらしいわよ。
カレッジは違ったらしいけど。

金があれば、入るのはそんなに難しくはなかったんじゃないのか?
作者の若い頃に、そういう噂の私立大学があったってぜ。
裏口入学じゃなくて、試験が超甘い代わりに入学金+授業料が超高いって、
だからいい家のヤツしか入れない ― ってあくまでも噂だってけどね。
ハリソンだって、今は二流文士に落ちぶれちゃっているけど、元は裕福で「すごい人」を先祖に持つ家の出だっていうし。

それはそうと、何やら「同性愛」の臭いもしておらんか?
作者は「カノ紳version」で、猥褻(わいせつ)描写はしないと断言していたはずじゃが、大丈夫なのかの~。


ハリソンとジョージとのやり取りに似た場面と、どこかで出会った記憶はありますか?
今日の続きは明日。

標的(5/16) 躱(か)わせ、ハリソン!

2008年05月06日 09時57分12秒 | 第8話/標的

 作者の持っているイタリア語版「オトラントの城」
(英語版ではペンギン・クラシックスの「三つのゴシック小説」)
に載っている、初版のタイトルページにはこうあって、

THE CASTLE of OTRANT, A STORY.
Translated by WILLIAM MARSHAL, Gent.
From the Original ITALIAN of
ONUPHRIO MURALTO,
CANON of the Church of St.NICHOLAS at OTRANTO.

イタリア人のオヌフリオ・ムラールトさんが書いた原作を、
英国人のウィリアム・マーシャル氏が翻訳したという
設定にしてあるのでした。

 さすがのウォルポール氏も、
中世の城で跡取り息子が婚礼の当日に悲惨な死を遂げ、
その後も城内では、花嫁とその家族と謎の美青年を巻き込み、
君主権を巡ってのホラーな事件が続発!
― なんていう内容に気後れがしたらしく、
翻訳物を装って偽名を使っての出版でした。

 でも、意外にもヒットしてしまい、
「こーゆー事書くのは、絶対あの人しかいない!」
と作者がバレバレになってしまうと、
2版目には「そうです。自分が書きました!」
と堂々と名乗り、創作の動機などをあれやこれやと
述べているのでした。

ハリソン、身を翻して避けちゃったよなー。決定的な所を。

タイトルの「カノ紳士」って、トリストラム・シャンディさんの事なのかしら?

ゴスヲタオヤジはハリソンがシャンディなのかもしれないと思ったらしいようだけどな。
まあ、ハリソンも服装センスが悪いし、トロいし、複雑でズッコケた性格だけど、
決め手となるような証拠は、俺の見る所では今の所何もないぜ。

もしかしたらウォルポールさん、自分も最初は嘘ついていたから、
「蛇の道は蛇」でそう思ったのかも。
「オトラントの城」って、中世が舞台で、超自然な物が出て来るようだけど、
ストーリィそのものは現代のTVでやってる「サスペンス系2時間ドラマ」とか、「金田一物」みたいな感じよね。

それにしても、ウォルポール殿、オヌフリオ・ムラールトは「高く壁を巡らす一狂人」という意味らしいが、
そのような名では、トリストラム・シャンディよりもさらに嘘っぽくて作り物っぽい名で、
バレ易かったのではないのかのう。


 ― タイトルの意味は第4(最終)部の最終話にならないと分らないでしょうね!


次回は伯父ハリソンと甥ジョージとの、
ウォルポール氏が心中で嫉妬してしまうようなやり取り。
〈次回の更新は5月10・11日の予定〉











 




標的(4/16) ゴシップヲトコ解禁!

2008年05月04日 10時50分11秒 | 第8話/標的

 さあ、本ページから、ウォルポール氏も崩れまくって行きますゾ~!
実はこの人、「ゴシップ話も大好き」なのです。

 ハリソンの言葉尻を捕らえてからは、表向きはあくまでもクールさを装い、
距離を取りつつ、それでいてかなりしつっこい心理戦を仕掛けて来るのでした。

 「ストロベリー・ヒル」ってとっても綺麗なお城なのよ。
今でもロンドン郊外に残っているんですって。
カラー絵の額縁に入っている建物の絵がそれ。
ゴシックとロココが上手ーく溶け合っているの。

つー事は二百何十年も前に、
すでに 「ゴシック&ロリータ」 的発想をしていたって事かよ?
― で、「ロリ」 の方はどうなんだっ?!

昔の上流階級の年の差カップルなんて別に異常じゃないと思うんだけど?
何でそっちへと話が行っちゃう訳!?

この話に出て来ない所でウォルポール殿は、
60代後半のパリに住む、視力を失った貴婦人から大層気に入られて、
そのご婦人が亡くなるまで15年交際していたそうな。
決定的な所は避けていたようじゃが。

そのパターンなら、現代の日本でも認められていないようね!
でも、その貴婦人はウォルポールさんのどこが良かったのかしら?
「素直じゃない所が逆に可愛い年下の男の子」― とか? 

70近い婆さんには、「約50男はハナタレ小僧」って事か?!


次回はウォルポール氏による、「恐怖の誘導尋問」。

〈次回の更新は5月6日です。〉




標的(3/16) ああ言えばこう言うヤツら

2008年05月03日 11時28分14秒 | 第8話/標的

 さぁ~、ハリソンさんのこの言葉を元に、
「トリストラム・シャンディ」について語っている古今の人達の言葉を
分析してみて下さいよ~っ!
第19話でマー坊が言う予定のセリフですが、
「だんなって、時々いい事言うんですね!」

 上は歴史上~現代に至る有名人・高名な学者さん達から、
下は作者みたいな特に高学歴でもないし、一流企業の会社員でもない、
一般の人達の言葉、何よりもあなた自身、そして本物語中の登場人物達が、

「一体どのような心の持ち主なのか?」
「いかなる趣味嗜好・思想や願望を持っているのか?」

― を考えてみると
これまた実に面白いですぞ~っ!!

 「と学会」会長の山本弘さんが、

「ノストラダムス自身よりも、ノストラダムス研究家の奇妙な生態の方が何百倍も面白い。」
「僕はノストラダムス研究家研究家。」

― と、今から10年前に出版された「トンデモノストラダムス本の世界」の中で言っていましたが、
実は作者、それと同じような距離感覚で、これからの話を描いて行くつもりで
いるのです。

でも、ウォルポールさんがどんな心の持ち主なのかは、今の所私には見えて来ないわ。
この話の登場人物としては珍しくダンディ系で、違和感すらあるって感じしか・・・。

何か身構えているような雰囲気がありますよね。ママン。
「言っている事は正しいんだけれど、何を偉そうに!」ってヤツ。
俺はこういう「お気取り系」はハッキリ大嫌いだね!

でも、本家はオーフォード伯爵家なのよ~。
ウォルポールさんも最後には家を継いで、4代目の伯爵様になるんだから!

初代伯爵の親父は、英国の逆・老中田沼意次(1719-1788)。
ご飯を一緒に食べたら、皿の下に「山吹色」があったとさ。
「ふっふっふっ…お主(ぬし)、悪(ワル)じゃのぉ~!」

しかしじゃぞ、このウォルポール殿、
最後にはハリソンからとんでもない目に遭わされるような事が書いてあったな。
この御仁(ごじん)もこの話の登場人物の「宿命」として、段々に崩れて行くのではないかの~。


フィレモン翁(おう)のおっしゃる通り。
次ページからは、ウォルポール氏の〈脅威の本性〉がボロボロと出て来ますゾ!
今日の続きは明日。