風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

今生の別れ

2012-07-06 15:23:26 | 友情
       東京から来てホテルに滞在中の友だちと、博多駅で待ち合わせた。
 
      相変わらずの美人ではあるが、20年という歳月は隠しようもなく、
         道ですれ違ったら判るだろうかと首をかしげた。
 
    変貌はお互い様のはずだが、風子さん、変わらないわねえ、と言ってくれたので、
           あなたも、ちっとも……と言った。

       こういうときに、真実を語るのは、必ずしも誠実とは限らない。
     お互い、口に出すまでもなく、胸のうちは語らずとも分かりあっているのである。

           駅ビルのなかの中華料理店で食事をした。
          遠来の客なので、風子は奢るつもりでいたが、
            彼女は頑固なまでにワリカンを主張した。

           そうか、今生の別れになるかもしれないのに、
     カリを作りたくないのかもしれないと、彼女が望むようにワリカンにした。
 
          もうこれが最後かもしれない……、
       これも互いに口には出さず、またね、元気でね、と言い交わした。

        齢をとって、さようなら、と言う挨拶は寂しすぎる。

      店の外に出て、テーブルの横に傘を置き忘れてきたことに気付いた。
           ちょっと取って来るわと言うと、
        「いやあねえ、風子さんったら、オッホッホホ」と笑われた。
          
          今生の別れらしからぬ展開に、小さくなって店内に戻った。
         さっきまで座っていたテーブル脇の自分の傘に手をかけ、
             ふと足もとを見ると、
    ビニール袋に入った折りたたみ傘がもうひとつあるのに気づき、持って出た。

        「ひょっとして、これ、あなたの?」
        「あらあ。そうよ、わたしの」
     
     これもお互いさま。今生の別れが笑いでしめくくれて、よかった、よかった。


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