風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

不眠とするめ

2018-07-29 12:25:13 | 昭和つれづれ

               

 小学四年生だった。

これだけは鮮明に覚えている。夜になっても寝つけなかった。

これがわたしの不眠を意識したはじまりである。

襖越しの隣の部屋では両親と叔父の三人がまだ起きて話声がしている。

寝つけないわたしは、人間はなぜ死ぬのだろう、とこのときはじめて思った。

死んだら生きて戻ってこれないのだろうと思うとこわくてやるせなくて、涙が出てきた。

隣の部屋に親がいても、これだけは助けてくれないと分かっていたようだ。

ひとりで布団のなかで泣いていた。

気づいた親は、どうしたのか、とびっくりして、こっちへお出でと布団から誘いだしてくれた。

大人だけでこっそり食べていたするめを細く裂いて、食べるようにすすめてくれた。

するめは好物だったし、大人だけの時間に誘われたのだが、こんなものでは騙されないぞ、

とわたしは思っていつまでも泣いた。

変な子だね、と大人たちは笑ってするめを食べていた。

あれがわたしの不眠の第一夜、死を恐れたはじまり。

孤独を知った最初である。