ひまわり博士のウンチク

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清張作品は時代劇か? 『波の塔』

2012年06月24日 | テレビ番組
 朝日新聞のラテ面に、この日(23日土曜日)放送される松本清張原作のドラマ「波の塔」の評が掲載されていて、「清張もの、もはや時代劇?」と見出しにあった。
 大げさなと思いつつドラマを見ると、その見出しの真意がわかった。
 
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 『波の塔』が単行本化されカッパ・ノベルスで出版されたのは1960年、昭和で言うと35年のことである。日本は高度成長期で、4年後には東京オリンピックがひかえているという時代である。つまり、『三丁目の夕日』と同時期になる。
 過去、映画が1回、ドラマ化は今回を含めて8回にもおよぶ。松本清張の数少ないメロドラマでありながら、完成度の高い作品で、だれが脚本を書いても大崩れはしないという。
 ところが、大崩れしないまでも傑作にもならないところが清張作品の難しいところである。とくにキャスティングが難しくて、加藤剛主演の映画『砂の器』やビートたけし主演のドラマ『点と線』などのように、役柄がぴったりはまる例は少ない。
 昨年、2006年版のTBS製作の再放送を見て、麻生祐未はともかく、小泉孝太郎はいかがなものかと思った。切れ者の検事のイメージとあまりにも乖離しすぎている。
 今回も、キャスティングでは成功していないと思う。今の沢村一樹にドロドロしたメロドラマは似合わなすぎるし、羽田美智子を謎めいた美女というにはいささか抵抗がある。台詞に度々出てくる「すごい美人だなあ」とはあまりにわざとらしく聞こえる。
 
 閑話休題。
 この話ではなかった。時代考証についてである。
 先のTBSの2006年版では、時代の再現は無理と思ったか、あるいは現在の若年層の理解を得ようと思ったのか、時代を現代に引きつけていた。携帯やコンピューターが普通に登場する。
 しかし、2012年版の『波の塔』は時代考証にそうとうな努力が見られていて、その点を評価したい。理由は後で述べるが、清張作品は書かれたその時代でなければならない
 江戸時代以前の時代考証に比べて、昭和のそれは非常に難しい。なぜならその時代を知っている人がまだ多数いるからだ。したがって、背広の襟の幅やネクタイの結び方にまで気を配らなければならない。オフィスの備品一つとっても、当時なかったものが置かれていてはならないのだ。それをほぼ完璧にやってのけたのが『三丁目の夕日』だ。
 その点、今回の『波の塔』は80点ぐらいつけていいと思う。細かい点を言えば、ネクタイの結び目が多き過ぎる。幅ももう少し狭いはずである。当時の男性の半数以上は、外出にソフト帽をかぶっていた。同様に、年配の女性の外出着は和服である。フィルター付の煙草は1960年発売のハイライトが最初で、つまりこの年の新製品。他の種類はない。
 当然、ガスライターなどはないから、ライターといえばオイルライターで、ガスライターと違ってそんなに長く炎が伸びず、また風に強いので一息に吹き消すのは無理がある。
 単発ドラマでは予算と時間に制約があるから、いずれにしろ完璧は無理。それにしてはよくがんばったと思う。
 なぜこのような事を書いたかといえば、清張作品はその時代でなければ成り立たない要素が多いからだ。
 男女の関係も現在とはだいぶ異なり(明治大正とも違う)、半数は見合い結婚であった。社会における男女の住み分けがまだ残っていたのである。原作の台詞には、そのあたりが濃く反映されている。
 また、さまざまなトリックの多くは、現代の科学捜査であればたちまち暴かれてしまう。
 『波の塔』では富士の樹海が冒頭トラストのシーンで出てくるが、現在では樹海の中でも携帯電話が使用でき、GPSを使えば位置を特定できる。指紋などの照合もDNA鑑定も桁違いに進歩している。つまり、そういう意味であれば、清張作品は時代劇なのだ。
 しかし、それがメロドラマであろうとサスペンスであろうと、清張作品には現代に通じる社会性が必ず含まれている。『波の塔』でも建設省の役人と業者の癒着がもう一つのテーマになっていて、これはまさに今、リアルタイムで行われている事だ。
 科学は清張作品を時代劇に退けるほど発達したが、時代の根底に流れる汚れた泥の河は、何の進歩も変化もなく、平成の今も流れ続けているのだ。
 
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