下嶋哲朗生き残る?沖縄・チビチリガマの戦争(晶文社)
1991年発行のこの本を、先日大田昌秀さんに紹介されるまで、不覚にも僕は知りませんでした。沖縄タイムス社の『鉄の暴風』や、大江健三郎氏の『沖縄ノート』に匹敵する、いやそれ以上であるとさえ思える名著であるのに、現在は品切れ状態で古書でしか手に入りません。
沖縄で多数起きた「集団死」(自決)について、これほどまでに詳細に、かつわかりやすく書いた本を、ぼくは読んだことがありませんでした。
この本の中で、ポイントとなる記述がいくつかあります。
まず、これは林博史氏の『沖縄戦と民衆』(大月書店)でも触れていますが、読谷村の二つのガマ、チビチリガマとシムクガマで起きた、まったく正反対の結果についての検証です。
二つのガマに避難した住民の心理状態はほとんど同じでした。皇民化教育で天皇のために「殺し」天皇のために「死ぬ」ことを子どもの頃から教え込まれている住民は、日本軍人からの「鬼畜米兵は女は犯し男は八つ裂きにして戦車でひき殺す」という風聞によって、追い詰められれば自決以外に道はないと信じ切っていました。
子を殺し、肉親を殺し、自らも命を絶つ以外に選択肢がなくなっていたのです。
「自決」とは自ら決意して死を選ぶことですが、死んだ住民の中には小学校前の子どもや生後数カ月の幼児まで含まれていました。小さな子どもが自ら死を選ぶなど考えられません。母は子を殺し、自ら命を絶ったのです。
そして、この本の最も重要ポイントになる部分ですが、チビチリガマに避難した139名のうち82名が「自決」したのに対し、シムクガマに避難した1000名余の住民は、米軍に突撃して銃殺された4名を除き、ほとんど死者が出ていないことです。
チビチリガマでは住民とともに避難していた日本兵が、住民を脅し自決に追いやったのに対し、日本兵のいないシムクガマでは英語のできる住民が米軍と交渉し、不安におびえる住民を「米軍は無抵抗のものを殺さない」と説得して、その結果全員が投降し生き残りました。
その人は、ハワイ帰りで英語ができ、「殺し」「死ぬ」ことを教えられていた住民に、「生きる」ことを進言した、当時なら「非国民」とされる人です。もしシムクガマに日本兵がいたら、「非国民」は殺され、チビチリガマ以上の惨劇が繰り広げられていたことは想像に難くありません。
その「非国民」のおかげで1000人以上の命が助かり、反対に日本兵がいたチビチリガマではそこにいた60%が命を絶ったのです。
「美辞麗句によって国民の心情をあおり立て、「殺し」、「死ぬ」道を急がせたのだ。少年は他国を侵略する兵士となり、少女はわが子を殺せる母となったのである。」(214ページ)
最後には、僕自身の想像力の隅に追いやられていた、生き残った人々の苦悩について書かれてあり、それは想像を絶するものでした。
7人の家族を一度に失いひとりぼっちになった天久昭源さんはチビチリガマの出来事を頭から追い払おうと酒に溺れ、飲んでは暴れ、朝になればそれを謝りました。しかし飲んでも暴れても、チビチリガマでの出来事を頭から追い払うことはできなかったのです。そうして、飲んでは暴れる生活を10年以上も続けました。
チビチリガマの前に建造された「チビチリガマ、世代を結ぶ平和の像」は、除幕式からわずか7か月で「心無いもの」の手によって破壊されました。
「彼等は、像への復讐をしたあと、2メートルほどの鋭いモリをつき立てた。モリの先には「日の丸」の旗がついていた。」(243ページ)
沖縄の「集団死」(自決)はまぎれもなく国によってひき起こされたことが明らかです。そして、国の意向に「忠実」に従った日本軍によって、いかにして多くの人々が無用な死に追いやられなければならなかったのか、著者は数年におよぶ調査によって、多くの物的証拠と証言を集めて、国と日本軍の責任を立証しました。
大変読みやすくわかりやすい本で、高校生以上なら十分読みこなせるでしょう。ただ、かなり物語性が高い文章になっていますから、ここに書かれた会話や状況については、いくぶん演出が施されているかも知れないことを意識しておく必要があるでしょう。
また、この本はあくまでも、天久昭源さんを中心にした、読谷村の二つのガマでの出来事の話で、他にも多数あった「集団死」(自決)全体を物語るものではありません。したがって、この本を読んだだけで、だから他も同じ状況であったと結論付けることは早計でしょう。
しかし、この二つのガマでの話は、住民が「集団死」(自決)を選択するにいたる典型であったといえるものです。ですから沖縄の「集団死」(自決)について知るきっかけとなる本としては、最良のものとしてお薦めできます。
アマゾンのユーズドではかなり安く出品されています。なくならないうちに入手しておきましょう。
沖縄、南京、従軍慰安婦など、これらについては動かし難い証拠・証人が無数に存在するにもかかわらず、握りつぶしたり無視することで、日本軍と過去の侵略戦争を美化しようとする動きが強まっています。
平和を守るためには、すべての人が戦争の真実を知る必要があります。その真実にフタをしたり、事実をゆがめたりすることは決してあってはならないのです。
◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆
◆あなたの原稿を本にします◆
詳しくはメールで galapyio@sepia.ocn.ne.jp まで
1991年発行のこの本を、先日大田昌秀さんに紹介されるまで、不覚にも僕は知りませんでした。沖縄タイムス社の『鉄の暴風』や、大江健三郎氏の『沖縄ノート』に匹敵する、いやそれ以上であるとさえ思える名著であるのに、現在は品切れ状態で古書でしか手に入りません。
沖縄で多数起きた「集団死」(自決)について、これほどまでに詳細に、かつわかりやすく書いた本を、ぼくは読んだことがありませんでした。
この本の中で、ポイントとなる記述がいくつかあります。
まず、これは林博史氏の『沖縄戦と民衆』(大月書店)でも触れていますが、読谷村の二つのガマ、チビチリガマとシムクガマで起きた、まったく正反対の結果についての検証です。
二つのガマに避難した住民の心理状態はほとんど同じでした。皇民化教育で天皇のために「殺し」天皇のために「死ぬ」ことを子どもの頃から教え込まれている住民は、日本軍人からの「鬼畜米兵は女は犯し男は八つ裂きにして戦車でひき殺す」という風聞によって、追い詰められれば自決以外に道はないと信じ切っていました。
子を殺し、肉親を殺し、自らも命を絶つ以外に選択肢がなくなっていたのです。
「自決」とは自ら決意して死を選ぶことですが、死んだ住民の中には小学校前の子どもや生後数カ月の幼児まで含まれていました。小さな子どもが自ら死を選ぶなど考えられません。母は子を殺し、自ら命を絶ったのです。
そして、この本の最も重要ポイントになる部分ですが、チビチリガマに避難した139名のうち82名が「自決」したのに対し、シムクガマに避難した1000名余の住民は、米軍に突撃して銃殺された4名を除き、ほとんど死者が出ていないことです。
チビチリガマでは住民とともに避難していた日本兵が、住民を脅し自決に追いやったのに対し、日本兵のいないシムクガマでは英語のできる住民が米軍と交渉し、不安におびえる住民を「米軍は無抵抗のものを殺さない」と説得して、その結果全員が投降し生き残りました。
その人は、ハワイ帰りで英語ができ、「殺し」「死ぬ」ことを教えられていた住民に、「生きる」ことを進言した、当時なら「非国民」とされる人です。もしシムクガマに日本兵がいたら、「非国民」は殺され、チビチリガマ以上の惨劇が繰り広げられていたことは想像に難くありません。
その「非国民」のおかげで1000人以上の命が助かり、反対に日本兵がいたチビチリガマではそこにいた60%が命を絶ったのです。
「美辞麗句によって国民の心情をあおり立て、「殺し」、「死ぬ」道を急がせたのだ。少年は他国を侵略する兵士となり、少女はわが子を殺せる母となったのである。」(214ページ)
最後には、僕自身の想像力の隅に追いやられていた、生き残った人々の苦悩について書かれてあり、それは想像を絶するものでした。
7人の家族を一度に失いひとりぼっちになった天久昭源さんはチビチリガマの出来事を頭から追い払おうと酒に溺れ、飲んでは暴れ、朝になればそれを謝りました。しかし飲んでも暴れても、チビチリガマでの出来事を頭から追い払うことはできなかったのです。そうして、飲んでは暴れる生活を10年以上も続けました。
チビチリガマの前に建造された「チビチリガマ、世代を結ぶ平和の像」は、除幕式からわずか7か月で「心無いもの」の手によって破壊されました。
「彼等は、像への復讐をしたあと、2メートルほどの鋭いモリをつき立てた。モリの先には「日の丸」の旗がついていた。」(243ページ)
沖縄の「集団死」(自決)はまぎれもなく国によってひき起こされたことが明らかです。そして、国の意向に「忠実」に従った日本軍によって、いかにして多くの人々が無用な死に追いやられなければならなかったのか、著者は数年におよぶ調査によって、多くの物的証拠と証言を集めて、国と日本軍の責任を立証しました。
大変読みやすくわかりやすい本で、高校生以上なら十分読みこなせるでしょう。ただ、かなり物語性が高い文章になっていますから、ここに書かれた会話や状況については、いくぶん演出が施されているかも知れないことを意識しておく必要があるでしょう。
また、この本はあくまでも、天久昭源さんを中心にした、読谷村の二つのガマでの出来事の話で、他にも多数あった「集団死」(自決)全体を物語るものではありません。したがって、この本を読んだだけで、だから他も同じ状況であったと結論付けることは早計でしょう。
しかし、この二つのガマでの話は、住民が「集団死」(自決)を選択するにいたる典型であったといえるものです。ですから沖縄の「集団死」(自決)について知るきっかけとなる本としては、最良のものとしてお薦めできます。
アマゾンのユーズドではかなり安く出品されています。なくならないうちに入手しておきましょう。
沖縄、南京、従軍慰安婦など、これらについては動かし難い証拠・証人が無数に存在するにもかかわらず、握りつぶしたり無視することで、日本軍と過去の侵略戦争を美化しようとする動きが強まっています。
平和を守るためには、すべての人が戦争の真実を知る必要があります。その真実にフタをしたり、事実をゆがめたりすることは決してあってはならないのです。
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