monologue
夜明けに向けて
 



1976年、わたしが渡米する年 の夏、伏見の桃山城に登る坂道。灼けるような陽射しの中を歩いていると道ばたにいる大きなカマキリが目に付いた。するとまわりの木々のあたりからなにかが飛び出して矢のようにそのカマキリに命中した。どうやら熊蜂(くまんばち)のようだった。組んず解(ほぐ)れつの戦いが始まった。しばらく命を賭した争いが続き、やがて熊蜂が舞い上がった。下にはカマキリが倒れていた。熊蜂はわたしの目の前の空中の一点に停まっている。よく見るとかれはなんとカマキリの首をくわえていた。それはまるで勝利をわたしに見せつけているようだった。その小さな凄惨な戦(いくさ)はあまりにも印象的でわたしの記憶に深く遺った。生き物たちはありとあらゆるところでそのように争い、生き残り、命をつないでいるのだろう。
fumio


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