monologue
夜明けに向けて
 

邂逅  


「未知との遭遇(Close Encounters of the Third Kind)」 という映画が1977年11月に公開された。翌年、その題名にちなんだような「エンカウンター(Encounter)」という日系の大型クラブがロサンジェルスのダウンタウンに開店するのでエンターティナーのオーディションがあるという噂が流れた。行くと多くのミュージシャンが集まっていた。ピアニストが多かったけれどわたしは「シクラメンのかほり」をギターで弾き語りした。支配人は一週間分のエンターティナーを選考してそれそれに曜日をあてがった。選ばれたのはほとんどがピアニストだった。最後にアコースティックギターのわたしとヒゲが印象的なエレクトリックギターの男に、君たちはふたりでやってくれという。エンターティナーが二人でやるというのは聞いたことがない変な話しだったけれどとにかく仕事にはありつけた。店は盛況だった。客が帰ったあと多くのホステスたちがチップの取り分争いでつかみ合いするのを目のあたりにして驚いたりしたものだった。

 けれどしばらくすると客足は遠のきなぜかあっけなくそのクラブはつぶれてしまったのである。それでヒゲの男、中島茂男(シゲさん)とふたり一緒に仕事を探すことにした。ふたりで仕事する方が楽しかったから。何軒もまわり広めの店に二人でひとり分のペイで数軒の店に入った。それでなんとか食ってゆけることになった。あの「エンカウンター」、つまり「邂逅」という名前のクラブはわたしたちを巡り合わせるために一瞬だけ存在した店であった。あの支配人が一緒にやれなどと奇矯なことを言わなければ「SF」というプロジェクトは生まれなかったのである。
fumio

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