山本藤光の文庫で読む500+α

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吉川英治『三国志』(全10巻、新潮文庫)

2018-02-04 | 書評「や行」の国内著者
吉川英治『三国志』(全10巻、新潮文庫)

後漢末の頃。貧しいが高貴な血を引く劉備は、世を救うという大志を果たすべく、関羽、張飛と桃園にて義兄弟の契りを結ぶ。跋扈する黄巾賊の征伐に乗り出した彼らは、智謀に優れた人物、曹操に出会う―。これぞ王道の「三国志」!波乱に満ちた群雄割拠の世を描き切る、壮大で華麗な歴史スペクタクル。(「BOOK」データベースより)

◎卑弥呼が活躍していた時代の話

 幼いころに、横山光輝のマンガ『三国志』を読んだことがあります。膨大な量のどこまでを読んだのかは、定かではありません。「山本藤光の文庫で読む500+α」には欠かせない作品だと思い、小説を読むことにしました。

・柴田錬三郎『柴錬三国志・英雄ここにあり』(上中下巻、講談社文庫)
・北方謙三『三国志』(全13巻、ハルキ文庫)
・吉川英治『三国志』(全8巻、講談社吉川英治歴史時代文庫)

 選択肢は前記3つでした。いちばん売れているものにしようと、吉川英治版を古書店で買い求めてきました。そんなときに新潮文庫から、新装版の吉川英治『三国志』(全10巻)の刊行が開始されたのです。毎月1巻の刊行ですので、他の本との併読は可能だと判断しました。10か月間かけて、読み終えました。

『三国志』の魅力に、どっぷりとはまりました。毎月配本を楽しみにしていました。最終第10巻を手にしたときに、ああこれでおしまいかと喪失感をおぼえたほどです。

「三国志」は、卑弥呼が活躍していた時代の話です。日本では卑弥呼の独裁体制でしたが、中国は群雄割拠の真っ只中でした。本書にでてくる登場人物の数は、すさまじいものです。そのあたりのポイントを児童書では、どのように伝えているのでしょうか。「小学生上級から」と付記された「講談社青い鳥文庫」から引いてみます。

――劉備(りゅうび)、関羽(かんう)、張飛(ちょうか)の胸のすくような大かつやく。諸葛孔明(しょかつこうめい)の目をみはるような才知。やがては、ほろんでいくこれらの英雄たちに心からの同情と声援をおくりたくなる、物語のおもしろさ。「三国志」は時代をこえて、語りつがれ、読みつがれ、子どもたちを夢中にさせた中国の雄大な歴史小説なのです。(羅貫中・作、駒田信二・訳、講談社青い鳥文庫)

 青い鳥文庫のあとがきで訳者の駒田信二は、「三国志」と「三国志演義」のちがいについて説明しています。私たちが一般的に「三国志」といっているのは、「三国志正史」の歴史小説バージョン「三国志演義」であるわけです。青い鳥文庫はその翻訳本である、と説明されています。

「三国志演義」について、説明している本があります。紹介させていただきます。
――「三国志演義」は、史実をもとに描かれた、壮大なスケールをもつ男たちのドラマである。本書は、多彩な登場人物によってくり広げられる友情と裏切り、知謀と奸計、勇気と決断など、数々のエピソードや名場面をとりあげ、乱世を生き抜いたヒーローたちの知恵が満載。(狩野直禎『三国志の知恵』講談社現代新書)

◎吉川版「三国志」の応援歌

吉川版「三国志」について、夢枕獏の応援歌を紹介します。
――物語の冒頭に、劉備玄徳が天地宇宙に思いを寄せる箇所があるんです。「宇宙とくらべると人間なんて小さな存在だ。だが、人間がない宇宙はただの空虚でないか」って。これはホーキング博士がいう人間原理のスケールですよ。(中略)吉川さんは心の青さをずっと持ちつづけた偉大なる文学青年なんです。そうでないとこんな表現はなかなかできない。(『三国志』ファンが語る作品の魅力・夢枕獏「ダ・ヴィンチ」2003年3月号)

 夢枕獏は吉川版「三国志」の魅力を、細かなところを端折ってどんどん書き連ねる、スピード力にあるとつづけます。これほど剛速球でおしとおした小説は、おそらくほかに類はないと思います。私の書棚で眠っている吉川英治歴史時代文庫の方は、電子書籍「三国志全一冊合本版」となりました。私のような団塊の世代は、こちらで読むことをお薦めします。

 吉川英治『三国志』のスピードに、いくつもの疑問がおいてきぼりになりました。それらの疑問を解消してくれたのは、寺尾善雄『一冊で読む「三国志」』(ぶんか社文庫)でした。

10か月間夢中にさせてもらった、吉川英治の青さに心から感謝いたします。読書のだいご味を実感させてもらった本書は、私の宝物の1つになりました。現在は吉川版『三国志』の余韻に浸かりつつ、酒見賢一に手をのばしています。酒見賢一は『後宮小説』(新潮文庫、第1回日本ファンタジーノベル大賞)でデビューしました。『後宮小説』は空想の中国史小説という異色作でした。その後は実際の中国史から題材をとっており、『墨攻』『泣き虫弱虫諸葛孔明』(ともに文春文庫)など三国志時代をほうふつとさせてくれる素材を提供してくれています。
(山本藤光:2014.08.09初稿、2018.02.04改稿)

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