山本藤光の文庫で読む500+α

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山岸淳子『ドラッカーとオーケストラ組織論』(PHP新書)

2018-03-08 | 書評「や行」の国内著者
山岸淳子『ドラッカーとオーケストラ組織論』(PHP新書)

マネジメントの父と呼ばれるウィーン生まれのピーター・ドラッカー(1909~2005)は、オーケストラに<未来の組織>を見ていた。なぜドラッカーはオーケストラという組織に注目したのか?さまざまな楽器を受け持つプロの演奏家集団が、指揮者のもとで高度にマネジメントされた組織になったとき、一人の巨匠演奏家の限界をはるかに超えた音楽を作り出すことができる。そのことをドラッカーは理解していた。指揮者の役割、リハーサルの舞台裏、各地のオーケストラの歴史や新しい試みなどからマネジメントの本質が浮かび上がる意欲的な論考。(「BOOK」データベースより)

◎指揮者のいないオーケストラ

拙著のなかで、何の抵抗もなく「営業リーダーは知のコンダクターにならなければいけない」と書き続けてきました。あるとき、友人から「おまえは指揮者やオーケストラについて、どのくらい勉強しているんだい?」と質問されました。断定形で私が書いていることに、抵抗を感じているようでした。

リーダーと指揮者を重ねたのは、ドラッカーの著作からの受け売りでした。大いに恥じ入り、指揮者に関する、何冊かの本を読みはじめました。

・山岸淳子『ドラッカーとオーケストラ組織論』(PHP新書)
・セイフター・ハーヴェイ/エコノミー・ピーター『オルフェウスプロセス―指揮者のいないオーケストラに学ぶマルチ・リーダーシップ・マネジメント』(角川書店)
・桜井優徳『リーダーに必要なことはすべて「オ-ケストラ」で学んだ』(日本実業出版社)

3冊を読み終えて、「リーダーは指揮者でなければならない」を改めるべきである、と結論しました。指揮者のいないオーケストラの存在があったからです。

◎ドラッカー18著作のダイジェスト版

ドラッカーを読みはじめたのは、野中郁次郎先生との出会いからです。ナレッジマネジメントの世界的な権威である野中先生は、ドラッカーの知識社会論の継承者といわれています。野中先生の著作とドラッカーの著作は、同時並行的に読んでいました。新しい著作が出るたびに、前作の理論が膨らんでいます。

岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社。500+α初回済み)が話題になったことがありました。「もしドラ」という言葉が生まれたほど、本書は売れまくりました。私も読んでみました。実践書にはほど遠いものでした。タイトルのユニークさで売れたのでしょう。

山岸淳子『ドラッカーとオーケストラ組織論』(PHP新書)は、2013年に新書として上梓されました。こちらは「ドラッカーはオーケストラから学んだ」とのコピーに、魅せられて読んでみました。

結論から申し上げると、ドラッカーがフィールドワークとして、オーケストラから学んだという記述はありませんでした。ただしドラッカーは、オーケストラに自論を重ねて見ていたことは事実です。山岸淳子はドラッカーの18著作から、オーケストラにまつわる単語を引用してみせます。

――経営管理者は、部分の総計を超える総体、すなわち投入された資源の総計を超えるものを生みださなければならない。例えていうならばオーケストラの指揮者である。(P26、ドラッカー『現代の経営』からの引用)

――明日の組織のモデルは、オーケストラである。二五〇人の団員はそれぞれが専門家である。それも極めつけの専門家である。しかし、チューバだけでは演奏ができない。演奏するのはオーケストラである。(P51、『ポスト資本主義社会』からの引用)

そういう意味で、ドラッカーの幅広いダイジェスト版として、楽しく読むことができました。ただしオーケストラの歴史や舞台裏の記述が多く、オーケストラに興味のない方にはお薦めできません。

ドラッカーは「比喩」として、オーケストラを用いています。しかしオーケストラの本質に迫った、記述はありません。『ポスト資本主義社会』では、確かに経営管理者と指揮者を重ねて表現しています。いっぽうドラッカーは指揮者のいないオーケストラに、未来組織を見てもいるのです。

◎オルフェウスプロセスとは

セイフター・ハーヴェイ/エコノミー・ピー)ター『オルフェウスプロセス―指揮者のいないオーケストラに学ぶマルチ・リーダーシップ・マネジメント』(角川書店)は、1972年に創設されたオルフェウス室内管弦楽団をマネジメントと重ねて書かれたものです。
山岸淳子も「指揮者のいないオーケストラ・オルフェウス室内管弦楽団」という章(P146)を設けて触れています。また桜井優徳も「オルフェウスプロセス」という章(P49)で言及しています。

――わずかなテンポを速めて緊張感を高めた次の瞬間、ふとゆるめるといった横の流れ(揺らぎ)の表現を、指揮者なしで自然に合わせるのは困難です。(桜井優徳『リーダーに必要なことはすべて「オ^ケストラ」で学んだ』日本実業出版社、P52)

オルフェウス室内管弦楽団の登場までは予言していませんが、ドラッカーは著作のなかで次のように書いています。

――今後二〇年のうちに大企業の管理階級は、今と比べて二分の一以下になり、管理者の数は三分の一くらいになるだろう。(ドラッカー『未来型組織の構造』初出1988年)

ピラミッと型組織の崩壊という予見はオルフェウスの登場で、現実になったと話題になりました。オルフェウスには確かに指揮者は存在しません。しかしオルフェウスには「8つの原則」があり、全員が指揮者という意識があります。

オルフェウスプロセス8つの原則
1. 権限移譲
2. 責任の自覚
3. 役割の明確化
4. リーダー役の交代
5. 横のつながりの強化
6. 「聞く力」「話す力」の強化
7. コンセンサスの追求
8. 熱意と目標

つまりこれらの原則をわきまえて、オルフェウスは全員が指揮者となっているのです。ただし桜井優徳が指摘しているように、多人数を要する曲や戸外での演奏は、指揮者なしでは実現できません。

オーケストラとドラッカー。「もしドラ」同様に、ドラッカーの著作を身近なものにしてくれた意味で、山岸淳子の著作は有効でした。ドラッカーを学んでみようと思ったら、やさしい解説本はたくさん出ています。そんなニーズにオーケストラという立ち位置で書き連ねられた、本書も加えたいと思います。

「山本藤光の文庫で読む500+α」では、ドラッカー関連本として、望月護『ドラッカーの実践経営学』(PHPビジネス新書)を紹介予定にしております。
(山本藤光:2013.04.11初稿、2018.03.08改稿)


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