米澤穂信『ボトルネック』(新潮文庫)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/9e/e4cf2879520f6e8d1b9f0eff99595edd.jpg)
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。(文庫案内より)
◎あとがきに魅せられた『氷菓』
米澤穂信は、ずっと期待している若手作家です。米澤穂信は『氷菓』(角川文庫)で、生まれたばかりの「角川学園小説大賞」の「ヤングミステリー&ホラー部門」で奨励賞(2001年)を獲得しました。当然のことながら、この賞は消滅しています。なんとも時代錯誤の小説賞で、笑ってしまったほどです。
米澤穂信をはじめて読んだのは、『氷菓』(角川文庫)でした。栄えある作品を本屋で、ぱらぱらと立ち読みしました。「あとがき」を読んでみました。期待モードが一気にふくらみました。
――この小説は六割くらいは純然たる創作ですが、残りは史実に基づいています。新聞の地方版にも載らなかったささやかな事件が、この物語の底流にあります。/ちなみに創作部分と史実部分を見分けるコツですが、いかにもありそうななりゆきを記した部分が創作、どうにもご都合主義っぽい部分が史実だと思っていただければおおむね間違いないと思います。(『氷菓』あとがきより)
なかなかそそられる文章でした。のぞき見趣味といいますか、なんとなくそうした箇所を、確認したくなってしまいます。
ところが『氷菓』は、つまらない作品でした。有名高校の古典部に入った主人公が、サークル活動で遭遇するさまざまな謎。薄っぺらな事件を大げさにつづっただけの、ちっぽけなミステリー雑記でした。
◎及第点の『ボトルネック』
タイムスリップ小説は、もっとも作者の技量が問われるジャンルです。米澤穂信『ボトルネック』(新潮文庫)は、それゆえに成長を楽しみにして読みました。「このミス第1位」と帯にあったので、大いに期待して読みました。まあ及第点だろうな。これが偽らざる感想です。
やたらに会話の多かった『氷菓』にくらべて、登場人物の内面をしっかりと描いています。この点は評価したいと思います。米澤穂信は確実にレベルアップしていました。それでも物足りなさを感じるのは、作品のなかに「とんがり」部分が、少ないせいだろうと思います。
あまりにも淡々としていて、ストーリーに起伏が認められません。この点を是正すれば、米澤穂信はもっとよい作品が書けると思います。
――兄が死んだと聞いたとき、ぼくは恋をした人を弔っていた。諏訪ノゾミは二年前に死んだ。ここ東尋坊で、崖から落ちて。せめて幸いなことに即死だったという。(本文冒頭より)
冒頭部分は、期待に満ちあふれていました。現在の「兄の死」、2年前の「恋人の死」という2つの死をいきなり突きつけ、舞台を東尋坊に設定しました。読者は2つの死がどんな形で融合するのか、かたずをのんで見守ります。
それからが唐突でした。主人公のぼくは、東尋坊でなぜか墜落してしまいます。気がつくと、自分の家のある金沢にいます。自宅へ行くと、見知らぬ姉に出迎えられます。異次元の世界に入りこんだぼくは……。これから先はふれないでおきます。
米澤穂信のさらなる成長を願って、『ボトルネック』を「文庫で読む500+α」の現代日本文学125冊に加えたいと思います。ぎりぎりのリストアップですけれど、あと1作だけ読んでみたい作家なのです。
とにかく「学園もの」の「ヤングミステリー」から脱皮できたことだけでも、おおいに賞賛に値します。恩田陸も辻村深月も、出発は同じ路線でした。それがみごとに現代のミステリー界を牽引する作家になっているのです。期待をこめての1票です。
◎『満願』で開花
『満願』(新潮社)は、kindle版で読みました。まだ文庫化されていませんので、「山本藤光の文庫で読む500+α」の該当作品ではありません。米澤穂信作品については『氷菓』『ボトルネック』と、リスト作品を更新してきました。『満願』が文庫化されたら、ちゅうちょすることなく、3度目の更新となるでしょう。
非常にハイレベルな短編集で、いずれ近いうちに書評発信させていただきます。文庫になったら、ですけど。
◎追記(2017.10.29)
『満願』が新潮文庫として登場しました。再読してから書評を発信します。しばらくお待ちください。
(山本藤光:2010.10.13初稿、2017.10.29改稿)
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亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。(文庫案内より)
◎あとがきに魅せられた『氷菓』
米澤穂信は、ずっと期待している若手作家です。米澤穂信は『氷菓』(角川文庫)で、生まれたばかりの「角川学園小説大賞」の「ヤングミステリー&ホラー部門」で奨励賞(2001年)を獲得しました。当然のことながら、この賞は消滅しています。なんとも時代錯誤の小説賞で、笑ってしまったほどです。
米澤穂信をはじめて読んだのは、『氷菓』(角川文庫)でした。栄えある作品を本屋で、ぱらぱらと立ち読みしました。「あとがき」を読んでみました。期待モードが一気にふくらみました。
――この小説は六割くらいは純然たる創作ですが、残りは史実に基づいています。新聞の地方版にも載らなかったささやかな事件が、この物語の底流にあります。/ちなみに創作部分と史実部分を見分けるコツですが、いかにもありそうななりゆきを記した部分が創作、どうにもご都合主義っぽい部分が史実だと思っていただければおおむね間違いないと思います。(『氷菓』あとがきより)
なかなかそそられる文章でした。のぞき見趣味といいますか、なんとなくそうした箇所を、確認したくなってしまいます。
ところが『氷菓』は、つまらない作品でした。有名高校の古典部に入った主人公が、サークル活動で遭遇するさまざまな謎。薄っぺらな事件を大げさにつづっただけの、ちっぽけなミステリー雑記でした。
◎及第点の『ボトルネック』
タイムスリップ小説は、もっとも作者の技量が問われるジャンルです。米澤穂信『ボトルネック』(新潮文庫)は、それゆえに成長を楽しみにして読みました。「このミス第1位」と帯にあったので、大いに期待して読みました。まあ及第点だろうな。これが偽らざる感想です。
やたらに会話の多かった『氷菓』にくらべて、登場人物の内面をしっかりと描いています。この点は評価したいと思います。米澤穂信は確実にレベルアップしていました。それでも物足りなさを感じるのは、作品のなかに「とんがり」部分が、少ないせいだろうと思います。
あまりにも淡々としていて、ストーリーに起伏が認められません。この点を是正すれば、米澤穂信はもっとよい作品が書けると思います。
――兄が死んだと聞いたとき、ぼくは恋をした人を弔っていた。諏訪ノゾミは二年前に死んだ。ここ東尋坊で、崖から落ちて。せめて幸いなことに即死だったという。(本文冒頭より)
冒頭部分は、期待に満ちあふれていました。現在の「兄の死」、2年前の「恋人の死」という2つの死をいきなり突きつけ、舞台を東尋坊に設定しました。読者は2つの死がどんな形で融合するのか、かたずをのんで見守ります。
それからが唐突でした。主人公のぼくは、東尋坊でなぜか墜落してしまいます。気がつくと、自分の家のある金沢にいます。自宅へ行くと、見知らぬ姉に出迎えられます。異次元の世界に入りこんだぼくは……。これから先はふれないでおきます。
米澤穂信のさらなる成長を願って、『ボトルネック』を「文庫で読む500+α」の現代日本文学125冊に加えたいと思います。ぎりぎりのリストアップですけれど、あと1作だけ読んでみたい作家なのです。
とにかく「学園もの」の「ヤングミステリー」から脱皮できたことだけでも、おおいに賞賛に値します。恩田陸も辻村深月も、出発は同じ路線でした。それがみごとに現代のミステリー界を牽引する作家になっているのです。期待をこめての1票です。
◎『満願』で開花
『満願』(新潮社)は、kindle版で読みました。まだ文庫化されていませんので、「山本藤光の文庫で読む500+α」の該当作品ではありません。米澤穂信作品については『氷菓』『ボトルネック』と、リスト作品を更新してきました。『満願』が文庫化されたら、ちゅうちょすることなく、3度目の更新となるでしょう。
非常にハイレベルな短編集で、いずれ近いうちに書評発信させていただきます。文庫になったら、ですけど。
◎追記(2017.10.29)
『満願』が新潮文庫として登場しました。再読してから書評を発信します。しばらくお待ちください。
(山本藤光:2010.10.13初稿、2017.10.29改稿)
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