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宮木あや子『校閲ガール』(角川文庫)

2018-03-13 | 書評「み」の国内著者
宮木あや子『校閲ガール』(角川文庫)

憧れのファッション誌の編集者を夢見て出版社に就職した河野悦子。しかし「名前がそれっぽい」という理由で(!?)、配属されたのは校閲部だった。校閲の仕事とは、原稿に誤りがないか確かめること。入社して2年目、苦手な文芸書の仕事に向かい合う日々だ。そして悦子が担当の原稿や周囲ではたびたび、ちょっとしたトラブルが巻き起こり…!?読んでスッキリ元気になる!最強のワーキングガールズエンタメ。(「BOOK」データベースより)

◎今の旦那との出会い

『校閲ガール』(角川文庫)の主人公の名前は、河野悦子(こうの・えつこ)。これだけで笑ってしまいました。彼女はファッション雑誌の編集をしたくて、大手出版社に就職しました。しかし配属されたのは、校閲部。自分の本名を縮めて読んだときと同じ語感の場所だったのです。その点については、冒頭で明らかにされています。

――人事部が「名前が校閲っぽい」というだけで配属を決めたらしい。というよりもむしろ採用された理由がそれだったらしい。(本文P11)

宮木あや子は40歳で書き上げた『花宵道中』(新潮文庫、初出2006年)で「女による女のためのR-18文学賞」大賞と読者賞を同時受賞しデビューしました。江戸時代の遊女を主人公にすえた、ユニークな作品は衝撃的でした。それ以来、追っかけをつづけてきました。しかし処女作を越える作品は、ありませんでした。
ところが『野良女』(光文社文庫、初出2009年)で、宮木あや子は処女峰を越えたのです。彼女のインタビュー記事にもありましたが、今の旦那と出会ったころに書いた作品だと思います。宮木あや子は、人生のターニングポイントとして、今の旦那との出会いをあげています。

『野良女』の主人公は、28歳の派遣社員。女仲間と集ると、下ネタのオンパレード。そのやりとりが実にリアルで、感心させられました。そして宮木あや子は『校閲ガール』(角川文庫、初出2014年)で、大ブレークすることになります。

◎究極のエンタメ

『校閲ガール』はドラマ化されました。観ていません。タイトルの冠に「地味にスゴイ!」とついたようです。校閲という舞台を小説に持ちこんだのは、おそらく初めてだと思います。原稿の誤字や錯誤を改めるのが、校閲の仕事です。
 華やかなファッシヨン雑誌の編集とは、別世界の文芸誌の校閲。

――しょっぱなから不貞腐れていた悦子に、エリンギ(註:上司の愛称)は「成果を出せば希望の部署に配属することができる(後略)」としばらくしてから言った。(本文P11-12)

こうして、社会人一年生の悦子の仕事がはじまります。悦子は、推理小説の大家・本郷大作の原稿の校閲を担当します。不慣れな悦子の校閲は、大家の逆鱗に触れることになります。それ以降のてんまつについては、ネタバレになるので紹介を控えます。

本書は文庫カバーのイラストが象徴しているマンガチックなエンタメ小説です。『野良女』の書評を書いていたのですが、ドラマの反響に後押しされて、原作の紹介をすることにしました。ネット検索をすると、99%がドラマの感想でした。本を読んでもらいたいという切なる思いで、文庫の書評を発信しています。

いろいろなことがあって、悦子は少しずつ成長します。そして最後にこんな境地になります。

――文芸の校閲がやりたくて出版社に入った米岡は、日本語をより正しく美しく整えてゆく作業にエクスタシーを感じるという。その感覚が聞いた当初は判らなかったが、今日初めて判った。(本文P222)

◎冴えるエンディング

デビュー作以来、宮木あや子は、芯の強い女性を描いてきています。新官能作家などといわれていますが、宮木は自分自身に正直な女性を描く天才です。それゆえエンディングが冴え渡ります。 
たとえば処女作『花宵道中』では、「男に夢を与えるためだけに生きておりんす」と信じていた主人公が、最後には「夢を見させるために生きているのに、知らぬ間に自分が夢を見ていた」という展開になります。

 本書では嫌だった校閲の仕事に、ほのかな光を見ることになります。宮木作品はプロローグの倦怠感がはちゃめちゃな展開の末、霧消していく構造になっています。間にはさまった具は、読者のために、楽しんでもらう仕掛が満載されています。
 本は楽しい。そんな気持ちにさせてくれる、宮木あや子を乞う閲覧(コウエツらん)あれ。
(山本藤光2017.02.27初稿、2018.03.13改稿) 

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