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三田誠広『書く前に読もう超明解文学史』(集英社文庫)

2018-03-11 | 書評「み」の国内著者
三田誠広『書く前に読もう超明解文学史』(集英社文庫)

「ワセダ大学小説教室」第三弾。創作の基礎技術・方法を会得し、いよいよ最も大切な「テーマと手法」の選び方に突入する。時代に即した現代のテーマを選定するために、過去に書かれ読まれてきた名作を分析し整理しておこう。戦後50年の日本文学を効率的に振り返り、刺激に満ちた新しい小説を作り出す礎を確保。ベストセラーを書く日は近い。シリーズ完結篇。(「BOOK」データベースより)

◎本当にわかりやすい文学史

三田誠広は、芥川賞受賞作家です。私の書棚には、初期の初版本がならんでいます。しかし、どの小説も平凡で、深みが感じられませんでした。そんなわけで三田誠広の小説は、4冊しか読んでいません。
 
ある日書店で、『天気の好い日は小説を書こう』(集英社文庫、初出1994年朝日ソノラマ)を手にとりました。「W大学文芸科創作教室」という副題が気になったのです。読んでみました。非常に有益な本でした。いつか「感性を磨く文章教室」を開設しようとの野心があった私には、参考になることがたくさんありました。
 
つづいて『深くておいしい小説の書き方』、『書く前に読もう超明解文学史』(いずれも朝日ソノラマ)が出版されました。そして忘れたころに、『W大学文芸科創作教室・番外編・大鼎談』(三田誠広・笹倉明・岳真也、朝日ソノラマ)が発売になりました。つまり「W大学文芸科創作教室」シリーズは、番外編をふくめて全4冊となったのです。
 
そのなかから、小説家志望ではない一般人のために、1冊だけ推薦したいと思います。それが『書く前に読もう超明解文学史』(集英社文庫)です。本書は文章の書き方というよりも、本の読み方にウエイトがおかれています。
 
世界文学から近代日本文学そして現代日本文学まで、本書は作品の背景となっている社会情勢と照らし合わせて語られています。小説を読みながら、歴史を学ぶことができる作品がならべられています。
 
◎読書の幅を広げる

三田誠広は「自分の人生の指標となるようなリアルな小説が必要」とのべています。これって大切なことだと思います。三田誠広は、つぎのように書いています。
 
――十九世紀初めの女流作家の活躍は、女性の地位向上に密接に繋がっています。実際に女性の地位が向上するのは、もう少しあとの時代なのですが、自由に憧れる女性が増えつつあるという時代の流れが女流作家を生み、また作品をヒットさせたのです。
 同じことが日本でも起こりました。ただし、当時の日本はヨーロッパと比べて、百年くらいは遅れています。何しろオースティンやブロンテ姉妹が活躍した時、日本はまだ江戸時代だったのですから。(本文より) 
 
この文章のあとに、昭和初期の日本の女性作家について触れられています。三田誠広は、野上弥生子(推薦作『真知子』新潮文庫)と宮本百合子(推薦作『伸子』新潮文庫)を、社会派的な青春小説の双璧であると書いています。

『書く前に読もう超明解文学史』は、読書の幅を広げるための格好の1冊です。私は海外文学の代表作として、オースチンとブロンテを選んでいますが、2冊を併行して読めばもっと味わい深くなるということに気がつきました。野上弥生子『真知子』が絶版になっていることも、この本でふれられていなければ気がつきませんでした。

近代日本文学や海外文学を読もうと思っている人には、本書は非常に参考になります。それぞれの「文学史」本は数多くありますが、これほどコンパクトに語られているものはほかに知りません。早稲田大学の文芸科に入ったつもりで、ページをくくっていただきたいと思います。

◎ちょっと寄り道

小説家・三田誠広についても、ふれておきたいと思います。三田誠広のデビュー作『僕って何』(角川文庫)は、1977年に発表されて芥川賞を受賞しました。その前後に登場した新人作家は、ほかに3人います。

1976年:村上龍『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)
1978年:立松和平『途方にくれて』(集英社)
1979年:村上春樹『風の歌を聴け』(講談社文庫) 

横一線でならんでいた4人は、それぞれが異なる世界で活躍しています。ちなみに三田誠広の小説でお薦めは『いちご同盟』(集英社文庫)です。この作品は教科書にも載りましたし、北上次郎編『14歳の本棚・初恋友情編』(新潮文庫)にも抄録の形で取りあげられています。

2012年、三田誠広は『超自分史のすすめ』(東京堂出版)を発表しています。「自分史」についての本は、あまり数多くは出されていません。本書はお勧めの1冊です。
山本藤光:2009.10.25初稿、2018.03.11改稿)


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