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道尾秀介『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫)

2018-09-29 | 書評「み」の国内著者
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫)

◎直木賞まで一直線

この原稿の初稿は、PHP研究所のメルマガ「ブックチェイス」(現在は廃刊)に発表しています。今回はそれをベースに、最新の情報を加味してみたいと思います。

高水準で安定した作品を連発する道尾秀介は、30歳を目の前にした2004年『背の眼』(幻冬舎文庫)でデビューしました。本作は、ホラーサスペンス小説特別賞を受賞しています。
その後(2006年)『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫)を発表しますが、本書がブレイクするのは文庫化されてからです。何とミリオンセラーとなりました。そして2007年以降の発表作は、次々と文学賞を受賞します。

2007年『シャドウ』(創元推理文庫)本格ミステリー大賞
2009年『ガラスの親指』(講談社文庫)日本推理作家協会賞
2010年『龍神の雨』(新潮文庫)大藪春彦賞
2010年『光媒の花』(集英社文庫)山本周五郎賞
2011年『月と蟹』(文春文庫)直木賞

道尾秀介作品は熱烈な愛読者がいる一方、毛嫌いする人も多くいます。今回紹介させていただく『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫)の解説で、千街晶之もそう書いています。本書の初出は2005年ですから、デビュー作の翌年の作品となります。まだ初々しさの残る本書は、大型新人の誕生を確信させてくれました。

◎小5でホラー小説執筆

道尾秀介の直木賞受賞後の「自伝エッセイ」(オール読み物2011年3月号)がおもしろかったので、紹介させていただきます。

道尾秀介が初めて小説らしいものを書いたのは小学5年生のときです。
――あれはたしか「人形」というタイトルで、ジャンルで言うとホラー、ミステリー、スプラッター……とにかく何だか気持ちが悪い話だった。(P64)

 現在の作風は幼いころからのものだった。これには驚いてしまいました。

道尾秀介『向日葵の咲かない夏』の帯には、「このミステリーがすごい!2009年度・作家別投票・第1位」とあります。

本書にはたくさんの伏線が張られています。しかしいずれも確固たる意味があり、許容範囲のものでした。また本書には「叙述トリック」が仕掛けられています。叙述トリックについては、折原一『倒錯の帰結=首吊り島+監禁者』(講談社文庫)のなかで詳述させてもらっています。

 ストーリーは単純です。小学4年のミチオは、担任の岩村先生に頼まれて、プリントをS君の家に届けます。呼んでも返事がないので、中に入ります。そこでミチオはS君の首つり死体を発見します。すぐに担任に知らせ、刑事が駆けつけます。
死体があった痕跡はあるものの、死体は見つかりません。その後S君は、姿を変えてミチオのもとに現れます。「僕は殺されたんだ」とS君は訴え、自分の体を探してほしいと求めます。

これから先については、ネタバレになるので触れません。本書には死体損壊など、おぞましい場面がたくさんあります。ただし子ども目線での記述ですので、グロテスクには感じませんでした。

種明かしは終盤でなされます。それまで読者は、奥歯に繊維質のものがはさまっている感じを余儀なくされます。
 直木賞作家の初期の作品を、ご賞味ください。
山本藤光:初稿2009.04.09、改稿2018.09.28


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